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連載
687、勉強のレベルが……
しおりを挟む唇を離して見上げると、ヴィデロさんが目を細めて俺を見下ろしていた。
久しぶりのキスと、抱擁。
そういえば最後に愛し合ったのってどれくらい前だったっけ。
「好き」
ギュッと抱き着いて、ヴィデロさんの胸に顔を埋める。
いっそのこと、ログインしてもらってマックとしてヴィデロさんを襲おうかな。それとも俺の部屋に連れ込もうかな。
そんなことを真剣に考えていると、頭の上にちゅ、とキスが降って来て、優しい声が囁いた。
「明日、一緒にログインして、母の所に行こう。無事は兄が伝えてくれたんだけれど、まだ母には会ってないから。だから、今日はゆっくり休んで……」
な、と言われたら、愛し合お、なんて言えないじゃん。
そっか。アリッサさん。まだヴィデロさんの無事な姿見てないんだ。
同じ道を通って、大変な想いをしたアリッサさんはきっと、ヴィデロさんの無事な姿を見るまではずっと心配し続けてると思う。
もし愛し合って寝坊してアリッサさんの元に行けなかったらと思うと、俺は安易にヴィデロさんに抱かれたいと言えなくなってしまった。
ああでも。
と確かに腕の中にあるヴィデロさんの感触に、ここでももう愛し合うこともできるんだ、と気付く。
「うん。明日朝一でアリッサさんの所に行こう。きっと心配してるよね。そうだよね、今日、ここに着いたばっかりだもんね」
それを考えると、きっとヴィデロさんにも色々と時間が必要かもしれない。
こっちと向こうでは勝手が違い過ぎるし、それに慣れないといけないかもしれないし。こっちの方が便利なこともあるし、不便なところもあるし。俺たちの場合はADOだから、で切り替えができるけど、ヴィデロさんはどっちも本当の世界なわけだし。
俺、全力でサポートするから。
気合いを入れていると、ヴィルさんが部屋から出てきた。
ヴィデロさんの腕の中にすっぽりと納まってる俺を見て、ヴィルさんが面白そうに顔を緩めた。
「そうしていると、健吾が全く見えなくなるな。頭一つ分の差か」
確かに! マックの時よりもさらに数センチ低いからね! この差が憎い……けれど、目の前に惜しげもなく晒された、シャツ越しの鍛え抜かれた胸筋が、うん。屈むことなく堪能できるのは、身長が低い特権だ。と思うことにする。
「でも目の前に垂涎の胸筋が発展されてるのはとても俺的に最高です」
腕の中からヴィルさんにそう答えると、ヴィルさんは声を出して笑った。ついでにヴィデロさんも肩を震わせていたので、笑ってたのかもしれない。揺れる胸が最高。低身長も悪くない……かも。
これからヴィデロさんはヴィルさんについてこっちの世界の勉強をする、ということで俺はお茶を淹れて自分の部屋に戻ることにした。
二人の前にカップを差し出すと、二人とも首を傾げる。仕草がシンクロしてるよ。可愛すぎか。
「どうして二つなんだ? 健吾の分は?」
「え、だって勉強の邪魔になるだろうから、部屋に戻ろうと思って」
「ケンゴも一緒に教えてくれないのか?」
「ええと、俺が教えられるのって、多分そんなに多くない、よ」
いいから座れ、とヴィルさんが目の前にあったお茶をヴィデロさんの横に移動する。
そして、自分でキッチンに向かうと、棚の下の方から高そうなお酒の瓶を取り出した。
「俺の飲み物はこれでいいから、そのお茶は健吾の分な」
グラスを二つ抱えてくると、少しだけ飲まないか、とヴィデロさんに差し出した。
「じゃあ、少しだけ。俺はケンゴが入れてくれた茶があるから」
「あはは、惚気か?」
「いいだろ」
「悪いとは言わない」
二人は酒の入ったグラスを手に取ると、軽くチンと合わせて口に運んだ。やり取りがすごく大人のそれに見えて、そういう関係の兄弟っていいな、なんて思う。
たとえ何年一緒にいたとしても、ああいうやり取りって、俺には出来ない気がする。雄太とだと……、無言で飲み勝負しちゃいそうだ。身体に悪そうだからやめとこう。クラッシュも俺と同じ歳なのに、ヴィルさんとヴィデロさんと一緒に飲んでるとちゃんと大人に見えるんだよなあ。ずるいなあ。
ヴィデロさんの勉強とは、こっちの世界での常識と、あと、ひらがなの書き写しなんだそうだ。
ヴィデロさんがメモする文字は、あまり見たことのない文字で、グランデ王国では一般的な文字だというのを教えてもらった。英語とも違うなと思ってみてたら。すらすらと流れるような文字を描くヴィデロさんはとても知的に見えて、俺はうっとりしながらヴィルさんの話をメモするヴィデロさんを堪能した。帰らなくてよかった。
「魔法はなくて、この部屋を照らす光は火ではなくて雷……よく壊れないな」
「雷とはまたちょっと違うからな。人工的に作られる電気が供給されているんだ」
「ほう……? どういう仕組みでだ」
ヴィデロさんの質問に、ヴィルさんが淀みなく答えて行く。
発電所がどうのこうの、ライフラインがどうのこうの、そこから教えるの? ってくらい深く取り下げて説明するヴィルさんに、ヴィデロさんもメモを取りながら色々と掘り下げていく。ああ、そこまで聞き出すんだ、なんて、俺が普段関心もなかったことを、ヴィデロさんが次々と質問していく。なんていうか、俺、自分が今まで住んでた世界なのに、こんなに物を知らなかったんだ、と認識させられるやり取りに、ちょっとだけ落ち込んだ。これ、俺にとってもすごい勉強になるんじゃないかな。っていうか聞かれたことほぼ全て淀みなく答えられるヴィルさんって、やっぱり頭脳ヤバい。そう思えるような質問をするヴィデロさんの頭脳も、ヤバい。どうしてヴィデロさんは古代魔道語が読めなかったんだろう。すぐに出来る様になりそうなものなのに。
俺はただ二人の会話を聞いているだけで、難しい言葉が次々飛び出していく。
専門用語までバシバシ飛び出して、流石アリッサさんの血を継いでるな、と思いつつ、欠伸を噛み殺す。
今日は色んなことがありすぎて、なんだか疲れた。
話についていけなくなった俺は、時折フッと頭の力が抜けて、首がガクンとなる。そこでハッと気付くんだけど、またしても。ヴィルさんとヴィデロさんの静かに話す声がとても耳に心地よくて。
気付くと俺は、心地のいい布団にくるまれていた。
そして、横にはとても心地のいい腕が。
ハッと目を開けると、すぐ隣でヴィデロさんが寝ていた。
「あれ、俺ログイン……」
そう呟いて、部屋の様子に覚醒する。
この天井、ヴィルさんの部屋の天井。
えっと。
静かにパニックを起こしながら心地よい腕の持ち主を覗き込むと、そこには、いつも朝ログインするときに見る寝顔が見えた。
ヴィデロさん。
ああ、なんていうか。
昨日の夜までちゃんとヴィデロさんがここにいるってことを見ていたのに。
寝ているヴィデロさんと部屋がミスマッチなことで、ちゃんとヴィデロさんがこの世界に来たっていうことを自覚するなんて。
鈍いにもほどがあるだろ、俺。
自分の髪に手を添えると、マックのアバターよりも少し短い自分の髪の毛がある。視線を下に向けると、昨日着ていたままの普段着。
靴下だけは脱がされていたけれど、インナーでも何でもない、そこらへんで売ってる長そでTシャツを着ている自分の身体があった。
改めて思う。
目の前のこの寝顔が失われなくてよかった。
じわ、と目元が熱くなる。
起きがけに泣きそうになるとか、何なんだろ俺。
そっとヴィデロさんの胸に手のひらをくっつけると、しっかりと鼓動が伝わって来て、さらに目が熱くなった。
きっと、昨日は浮かれまくっててちっとも冷静じゃなかったんだ。
そして、一晩寝て、ようやく頭が回り始めて、色々なことを考えることが出来るようになった気がした。
魔王が討伐されたこと。
雄太たちが真実を知ったこと。
未消化クエストの行方とか。
そして、目の前にしっかりとヴィデロさんがいること。
ああ、夢じゃなかった。
ホッと息を吐くと同時に、目に溜まっていた物が一滴流れた。
それがヴィデロさんの腕に零れ落ちると同時に、スッとヴィデロさんが目を開いた。
そして、俺と同じようにホッと息を吐いて、じっと俺の顔を見つめた。
「夢じゃなかった」
朝一で呟かれたヴィデロさんの言葉は、俺と全く同じ思いが込められていて。
俺は堪え切れずに、ヴィデロさんの胸に顔を埋めた。
ギュッと背中を抱え込まれて、すっぽりと腕の中に包まれた俺は、その腕の包容と体温、そして心臓の音に酷く安心したのだった。
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