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村には帰りません
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メアは心地よい低音で語る。
「世界に存在する神は俺だけじゃない。神たちにはそれぞれ役割があって、俺も役割を果たすために生きている。命を守ったり、自然災害を防いだり……色々あるんだ」
それはフレーナも知っていた。
シシロ村は長閑な村で、そこまで危機に陥ることがない。
だが、凶悪な魔物に晒される地域や、自然災害が多い地域もある。
そういった危険地域は神によく助けられているという。
「ではメア様が人間を捧げるように命じたのも、人を助ける代償ですか?」
「いや、そうじゃない。神は生命を助けるのに代償を要求しない。俺の役割は……そうだな、フレーナ。ちょっと手を出してくれるか?」
「手ですか? はい」
言われるがままフレーナは手を差し出す。
年齢の割に細い腕を見て、メアは眉を顰めた。
メアは両手でフレーナの手のひらを包み込む。
「ひゃあ!?」
「すまん、びっくりしたか? そのまま動かず、じっとしてもらえると助かる」
瞳を閉じてメアは深呼吸する。
何か、じわじわと独特な空気が広がっていく。
フレーナも肌で異様な空気を感じ取っていた。
「四十六歳……麓の村。四十一歳……王都。続いて、三十八、五十六……」
「な、何を数えているのでしょうか」
その後もメアはフレーナの手に触れ、何かを数え続けた。
大体三十から五十くらいの数字だった気がする。
メアが数え上げる間、フレーナはひたすら温かい手に触れていて。
だんだんと鼓動が早くなっていくのが自分でもわかった。
神を前にしているから緊張しているのだろうか?
それとも鼓動が早いのには別の要因があるのか。
「──よし、ありがとう。人間の寿命を数え終えた。お前から連鎖するように、麓の村の人間、王都の人間とつないで……世界中の人間の平均寿命を出したぞ」
「人間の寿命……寿命を測るのがお仕事なんですか?」
「ああ。平均寿命は四十四歳。二百年前から六歳延びたな。これも文明が発達した影響か」
たった一人、フレーナから世界中の人間の寿命を測るなど……さすがは神だ。
メアはフレーナの手を離し、自分についてさらに語った。
「人間だけじゃなくて、あらゆる生命の平均寿命を定期的に確認している。俺は命を司る神だから」
「だから二百年後に人間を連れて来るように言ったのですね」
なぜ生贄などと噂が歪曲されてしまったのか。
二百年も時間が空いたのだから、仕方ないと言えば仕方ないが。
せめて口承ではなく文書に残すなりしておけば、もっと正確に伝わっていたと思う。
「ああ。これで目的は果たした。よし、帰っていいぞ」
「え? 殺してくれないんですか!?」
「お前、さっきからな……なんでそんなに死にたいんだよ。命を司る神として、死にたがりの人間は放っておけないぞ。理由を聞かせてもらえるか?」
これはマズいことになった。
フレーナは冷や汗をかく。
村で虐められてました……なんて神に言えるはずもなく。
だが、村に帰れるはずもなく。
彼女は苦し紛れに言い訳した。
「死ぬ覚悟でやってきたものですから……なんというか、拍子抜けしてしまって」
「良かったじゃないか。早く親に顔を見せて安心させてやれ」
「いえ、親はいません。小さいころに死んでしまって。村でそんなに仲のいい人もいないので……戻るのも後ろめたくて。だって、村人たちはみな私が死んだと思い込んでいますから」
どこか辛そうに語るフレーナを見て、メアも察しがついた。
どれほどのものか不明だが、彼女は村で冷遇されていたのだと。
フレーナはもう村に戻れない。
そこで意を決してメアに尋ねてみた。
「あの、ここで働かせてもらうことはできませんか? 使用人というか、小間使いのような形で……お願いします!」
頼みを受けてメアは頭を掻いた。
フレーナをここに留まらせておくことは別に構わない。
だが、ひとつ問題があった。
「別にいいんだけどさ。仕事とかも特にしなくていいし、いつまでも神殿にいて構わない。でも、この神殿って人が暮らすための設備がまったくないんだよな」
神殿は神が眠るためのもの。
人間が暮らすことを想定されていない。
「た、たしかに……いえ大丈夫です! 村で暮らしていたときも、人間らしい生活なんてしてませんでしたから!」
「……それはどういう意味だ?」
「あっ、いえ。あの……違うんです。ストイックな生活をしていたということです」
危うく口を滑らしかけたフレーナだったが、何とか言い繕う。
とはいえ、神の慧眼はすでに言葉の裏を見抜いていたのだが。
「ふむ、そうだな。じゃあ、フレーナが暮らすための家具を買いに行こう。飯も食いに行くぞ。今日からこの神殿はお前の家だと思ってくれていい」
「あ、ありがとうございます! 家具なんて用意してくださらなくても……」
「いや、いいんだ。俺も久しぶりに人里に行きたかったしな。王都に行くぞ」
そう言うと、メアは神殿の奥へ行ってすぐに戻ってきた。
彼の手には何かがパンパンに詰まった麻袋が握られている。
「その袋は」
「よく動物たちが宝石を捧げに来てくれるんだが、価値がわからなくてな。人間は宝石を好むんだろう? それを売って金にしよう」
「ひ、ひえぇ……」
なんというか、もう規模が違う。
動物と普通に交流していたり、宝石を石ころのように扱ったり。
これが神かと戦慄しつつ、フレーナはメアについて行った。
「世界に存在する神は俺だけじゃない。神たちにはそれぞれ役割があって、俺も役割を果たすために生きている。命を守ったり、自然災害を防いだり……色々あるんだ」
それはフレーナも知っていた。
シシロ村は長閑な村で、そこまで危機に陥ることがない。
だが、凶悪な魔物に晒される地域や、自然災害が多い地域もある。
そういった危険地域は神によく助けられているという。
「ではメア様が人間を捧げるように命じたのも、人を助ける代償ですか?」
「いや、そうじゃない。神は生命を助けるのに代償を要求しない。俺の役割は……そうだな、フレーナ。ちょっと手を出してくれるか?」
「手ですか? はい」
言われるがままフレーナは手を差し出す。
年齢の割に細い腕を見て、メアは眉を顰めた。
メアは両手でフレーナの手のひらを包み込む。
「ひゃあ!?」
「すまん、びっくりしたか? そのまま動かず、じっとしてもらえると助かる」
瞳を閉じてメアは深呼吸する。
何か、じわじわと独特な空気が広がっていく。
フレーナも肌で異様な空気を感じ取っていた。
「四十六歳……麓の村。四十一歳……王都。続いて、三十八、五十六……」
「な、何を数えているのでしょうか」
その後もメアはフレーナの手に触れ、何かを数え続けた。
大体三十から五十くらいの数字だった気がする。
メアが数え上げる間、フレーナはひたすら温かい手に触れていて。
だんだんと鼓動が早くなっていくのが自分でもわかった。
神を前にしているから緊張しているのだろうか?
それとも鼓動が早いのには別の要因があるのか。
「──よし、ありがとう。人間の寿命を数え終えた。お前から連鎖するように、麓の村の人間、王都の人間とつないで……世界中の人間の平均寿命を出したぞ」
「人間の寿命……寿命を測るのがお仕事なんですか?」
「ああ。平均寿命は四十四歳。二百年前から六歳延びたな。これも文明が発達した影響か」
たった一人、フレーナから世界中の人間の寿命を測るなど……さすがは神だ。
メアはフレーナの手を離し、自分についてさらに語った。
「人間だけじゃなくて、あらゆる生命の平均寿命を定期的に確認している。俺は命を司る神だから」
「だから二百年後に人間を連れて来るように言ったのですね」
なぜ生贄などと噂が歪曲されてしまったのか。
二百年も時間が空いたのだから、仕方ないと言えば仕方ないが。
せめて口承ではなく文書に残すなりしておけば、もっと正確に伝わっていたと思う。
「ああ。これで目的は果たした。よし、帰っていいぞ」
「え? 殺してくれないんですか!?」
「お前、さっきからな……なんでそんなに死にたいんだよ。命を司る神として、死にたがりの人間は放っておけないぞ。理由を聞かせてもらえるか?」
これはマズいことになった。
フレーナは冷や汗をかく。
村で虐められてました……なんて神に言えるはずもなく。
だが、村に帰れるはずもなく。
彼女は苦し紛れに言い訳した。
「死ぬ覚悟でやってきたものですから……なんというか、拍子抜けしてしまって」
「良かったじゃないか。早く親に顔を見せて安心させてやれ」
「いえ、親はいません。小さいころに死んでしまって。村でそんなに仲のいい人もいないので……戻るのも後ろめたくて。だって、村人たちはみな私が死んだと思い込んでいますから」
どこか辛そうに語るフレーナを見て、メアも察しがついた。
どれほどのものか不明だが、彼女は村で冷遇されていたのだと。
フレーナはもう村に戻れない。
そこで意を決してメアに尋ねてみた。
「あの、ここで働かせてもらうことはできませんか? 使用人というか、小間使いのような形で……お願いします!」
頼みを受けてメアは頭を掻いた。
フレーナをここに留まらせておくことは別に構わない。
だが、ひとつ問題があった。
「別にいいんだけどさ。仕事とかも特にしなくていいし、いつまでも神殿にいて構わない。でも、この神殿って人が暮らすための設備がまったくないんだよな」
神殿は神が眠るためのもの。
人間が暮らすことを想定されていない。
「た、たしかに……いえ大丈夫です! 村で暮らしていたときも、人間らしい生活なんてしてませんでしたから!」
「……それはどういう意味だ?」
「あっ、いえ。あの……違うんです。ストイックな生活をしていたということです」
危うく口を滑らしかけたフレーナだったが、何とか言い繕う。
とはいえ、神の慧眼はすでに言葉の裏を見抜いていたのだが。
「ふむ、そうだな。じゃあ、フレーナが暮らすための家具を買いに行こう。飯も食いに行くぞ。今日からこの神殿はお前の家だと思ってくれていい」
「あ、ありがとうございます! 家具なんて用意してくださらなくても……」
「いや、いいんだ。俺も久しぶりに人里に行きたかったしな。王都に行くぞ」
そう言うと、メアは神殿の奥へ行ってすぐに戻ってきた。
彼の手には何かがパンパンに詰まった麻袋が握られている。
「その袋は」
「よく動物たちが宝石を捧げに来てくれるんだが、価値がわからなくてな。人間は宝石を好むんだろう? それを売って金にしよう」
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