神様に愛された少女 ~生贄に捧げられましたが、なぜか溺愛されてます~

朝露ココア

文字の大きさ
6 / 33

村には帰りません

しおりを挟む
 メアは心地よい低音で語る。

 「世界に存在する神は俺だけじゃない。神たちにはそれぞれ役割があって、俺も役割を果たすために生きている。命を守ったり、自然災害を防いだり……色々あるんだ」

 それはフレーナも知っていた。
 シシロ村は長閑な村で、そこまで危機に陥ることがない。

 だが、凶悪な魔物に晒される地域や、自然災害が多い地域もある。
 そういった危険地域は神によく助けられているという。

 「ではメア様が人間を捧げるように命じたのも、人を助ける代償ですか?」
 「いや、そうじゃない。神は生命を助けるのに代償を要求しない。俺の役割は……そうだな、フレーナ。ちょっと手を出してくれるか?」
 「手ですか? はい」

 言われるがままフレーナは手を差し出す。
 年齢の割に細い腕を見て、メアは眉を顰めた。

 メアは両手でフレーナの手のひらを包み込む。

 「ひゃあ!?」
 「すまん、びっくりしたか? そのまま動かず、じっとしてもらえると助かる」

 瞳を閉じてメアは深呼吸する。
 何か、じわじわと独特な空気が広がっていく。
 フレーナも肌で異様な空気を感じ取っていた。

 「四十六歳……麓の村。四十一歳……王都。続いて、三十八、五十六……」
 「な、何を数えているのでしょうか」

 その後もメアはフレーナの手に触れ、何かを数え続けた。
 大体三十から五十くらいの数字だった気がする。

 メアが数え上げる間、フレーナはひたすら温かい手に触れていて。
 だんだんと鼓動が早くなっていくのが自分でもわかった。
 神を前にしているから緊張しているのだろうか?
 それとも鼓動が早いのには別の要因があるのか。

 「──よし、ありがとう。人間の寿命を数え終えた。お前から連鎖するように、麓の村の人間、王都の人間とつないで……世界中の人間の平均寿命を出したぞ」
 「人間の寿命……寿命を測るのがお仕事なんですか?」
 「ああ。平均寿命は四十四歳。二百年前から六歳延びたな。これも文明が発達した影響か」

 たった一人、フレーナから世界中の人間の寿命を測るなど……さすがは神だ。
 メアはフレーナの手を離し、自分についてさらに語った。

 「人間だけじゃなくて、あらゆる生命の平均寿命を定期的に確認している。俺は命を司る神だから」
 「だから二百年後に人間を連れて来るように言ったのですね」

 なぜ生贄などと噂が歪曲されてしまったのか。
 二百年も時間が空いたのだから、仕方ないと言えば仕方ないが。
 せめて口承ではなく文書に残すなりしておけば、もっと正確に伝わっていたと思う。

 「ああ。これで目的は果たした。よし、帰っていいぞ」
 「え? 殺してくれないんですか!?」
 「お前、さっきからな……なんでそんなに死にたいんだよ。命を司る神として、死にたがりの人間は放っておけないぞ。理由を聞かせてもらえるか?」

 これはマズいことになった。
 フレーナは冷や汗をかく。

 村で虐められてました……なんて神に言えるはずもなく。
 だが、村に帰れるはずもなく。
 彼女は苦し紛れに言い訳した。

 「死ぬ覚悟でやってきたものですから……なんというか、拍子抜けしてしまって」
 「良かったじゃないか。早く親に顔を見せて安心させてやれ」
 「いえ、親はいません。小さいころに死んでしまって。村でそんなに仲のいい人もいないので……戻るのも後ろめたくて。だって、村人たちはみな私が死んだと思い込んでいますから」

 どこか辛そうに語るフレーナを見て、メアも察しがついた。
 どれほどのものか不明だが、彼女は村で冷遇されていたのだと。

 フレーナはもう村に戻れない。
 そこで意を決してメアに尋ねてみた。

 「あの、ここで働かせてもらうことはできませんか? 使用人というか、小間使いのような形で……お願いします!」

 頼みを受けてメアは頭を掻いた。
 フレーナをここに留まらせておくことは別に構わない。
 だが、ひとつ問題があった。

 「別にいいんだけどさ。仕事とかも特にしなくていいし、いつまでも神殿にいて構わない。でも、この神殿って人が暮らすための設備がまったくないんだよな」

 神殿は神が眠るためのもの。
 人間が暮らすことを想定されていない。

 「た、たしかに……いえ大丈夫です! 村で暮らしていたときも、人間らしい生活なんてしてませんでしたから!」
 「……それはどういう意味だ?」
 「あっ、いえ。あの……違うんです。ストイックな生活をしていたということです」

 危うく口を滑らしかけたフレーナだったが、何とか言い繕う。
 とはいえ、神の慧眼はすでに言葉の裏を見抜いていたのだが。

 「ふむ、そうだな。じゃあ、フレーナが暮らすための家具を買いに行こう。飯も食いに行くぞ。今日からこの神殿はお前の家だと思ってくれていい」
 「あ、ありがとうございます! 家具なんて用意してくださらなくても……」
 「いや、いいんだ。俺も久しぶりに人里に行きたかったしな。王都に行くぞ」

 そう言うと、メアは神殿の奥へ行ってすぐに戻ってきた。
 彼の手には何かがパンパンに詰まった麻袋が握られている。

 「その袋は」
 「よく動物たちが宝石を捧げに来てくれるんだが、価値がわからなくてな。人間は宝石を好むんだろう? それを売って金にしよう」
 「ひ、ひえぇ……」

 なんというか、もう規模が違う。
 動物と普通に交流していたり、宝石を石ころのように扱ったり。

 これが神かと戦慄しつつ、フレーナはメアについて行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて追放寸前だったのに、なぜか冷徹なはずの氷の公爵様から世界で一番甘く愛されています。

黒崎隼人
ファンタジー
「リゼット・フォン・ヴァインベルク! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」 卒業パーティーの夜、公爵令嬢リゼットは婚約者の王太子から冤罪を突きつけられ、全てを失った。 絶望の淵に沈む彼女に手を差し伸べたのは、『氷の公爵』と噂される冷徹な美青年、キリアン・アシュフォード。 「ならば、俺が君を娶ろう」 彼の屋敷で始まったのは、戸惑うほどに甘い溺愛の日々。 不器用な優しさに触れるうち、凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 一方、リゼットを陥れた偽りの聖女は王宮で増長し、国に災いを招き寄せていた。 やがて真実が暴かれる時、元婚約者は後悔の涙を流すけれど――もう、遅い。 これは、不遇の令嬢が本当の愛を見つけ、世界で一番幸せになるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるような溺愛があなたを待っています。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

愛人令嬢のはずが、堅物宰相閣下の偽恋人になりまして

依廼 あんこ
恋愛
昔から『愛人顔』であることを理由に不名誉な噂を流され、陰口を言われてきた伯爵令嬢・イリス。実際は恋愛経験なんて皆無のイリスなのに、根も葉もない愛人の噂は大きくなって社交界に広まるばかり。 ついには女嫌いで堅物と噂の若き宰相・ブルーノから呼び出しを受け、風紀の乱れを指摘されてしまう。幸いイリスの愛人の噂と真相が異なることをすぐに見抜くブルーノだったが、なぜか『期間限定の恋人役』を提案されることに。 ブルーノの提案を受けたことで意外にも穏やかな日々を送れるようになったイリスだったが、ある日突然『イリスが王太子殿下を誘った』とのスキャンダルが立ってしまい――!? * カクヨム・小説家になろうにも投稿しています。 * 第一部完結。今後、第二部以降も執筆予定です。

処理中です...