神様に愛された少女 ~生贄に捧げられましたが、なぜか溺愛されてます~

朝露ココア

文字の大きさ
17 / 33

欠如した危機感

しおりを挟む
 フレーナが生贄に捧げられて、数日の時が経った。
 麓のシシロ村は今日も変わらぬ暮らし。

 ただし、ひとつだけ変化があった。

 「はぁっ……なんで私が薪割りなんか!」

 村長の娘、トリナは斧を片手に愚痴をこぼす。
 早朝から寒気に包まれての労働。
 今までしてこなかった仕事に、トリナは不満まみれだった。

 「仕方ないでしょ。少しくらい仕事しないと、村から追い出されちゃうし」

 友人のシーラも同様に怠そうにしている。
 今まで二人はフレーナに仕事を押しつけていた。
 しかし彼女が生贄に捧げられたことにより、仕事を押しつける相手がいなくなってしまったのだ。

 「まあ、別にいいけど。目障りなフレーナが村にいることと、私が多少の仕事をすること。どちらがマシかと聞かれれば、仕事をした方がマシだわ」

 昔はよく遊ぶ間柄だったが、トリナは過剰にフレーナを嫌っていた。
 というのも、前々から嫉妬していたのだ。
 フレーナの金髪は美しく日頃から大人たちに褒められていた。
 一方、トリナの銀髪は不吉な色としてあまり好まれておらず。

 嫉妬の心をひそかに抱えていたところに、あの事件が起きた。
 フレーナの両親が村に疫病を持ち込んだという疑惑。
 最初は疑惑に過ぎなかった。
 しかし、トリナは立場を使ってその疑惑が事実ということにしたのだ。

 そしてフレーナ一家を差別するように仕向け、気に入らないフレーナを村の奴隷のように扱った。
 あの女が消えてくれてトリナは清々している。


 薪割りが一段落したところで、シーラが呟く。

 「でもさー、神様に生贄を捧げたのに生活は豊かにならないよね。もしかしてフレーナの味が不味かったのかな?」
 「神様は困ったことがあれば助けてくれるけど、普段の生活には介入してこないそうよ。うちに伝わってる古文書にもそう書いてあるわ」
 「へー。まあ、人間ひとりで満足してくれるなら安いもんだよね。しかも二百年に一回だし」

 自然災害や飢饉、魔物の襲撃などがあったときに神は助けてくれる。
 非常時に対する備えとして神は認識されていた。

 「そろそろ帰りましょ。あー疲れた」

 トリナは斧を投げ出して広場から去っていく。
 最近、日増しに仕事が増えている気がする。
 家畜たちの生産性も下がっていて、どうにも不況だ。

 とはいえ、なんだかんだで村は回っている。
 たまに来る不作のようなものだろう。

 二人が村の入り口に差しかかったところで、何やら慌てる村人の姿があった。
 トリナの父である村長が深刻な顔をして、何かを話し込んでいる。

 「お父さん、どうしたのかしら?」
 「む、トリナか。よかった、無事だったのだな」

 無事。
 その一語に違和感を覚える。

 シシロ村周辺は特に危険もなく、外に出ても問題ないはずだが。

 「実はな、危険な魔物が出たらしいんだ」
 「ふーん……別に心配いらないでしょ」

 魔物は魔領と呼ばれる土地から基本的には出てこない。
 シシロ村まで入り込むことはないはずだ。

 仮に領内に入ってきたとしても、王都の方に応援を要請すればいい。
 そこまで危機感を抱く必要はないと思われる。

 「それが……魔領と村を隔てる結界が弱まっているのだ。王城の方に点検を要請しているが、取り込んでいるらしくてな。過剰な心配は不要だが、万が一にも魔物がすり抜けて来る可能性がある。あまり村からは出ないようにな」
 「はーい。シーラ、行きましょ」

 適当に返事をしてトリナは村の中に入っていく。
 王城がシシロ村を優先しないのは当然だ。
 こんな辺境の村、気にかけたところでメリットがない。

 呑気な娘の態度に、村長は心配しつつも結局他人事だった。
 どうせ魔物など村には出ない。
 そう思い込んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて追放寸前だったのに、なぜか冷徹なはずの氷の公爵様から世界で一番甘く愛されています。

黒崎隼人
ファンタジー
「リゼット・フォン・ヴァインベルク! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」 卒業パーティーの夜、公爵令嬢リゼットは婚約者の王太子から冤罪を突きつけられ、全てを失った。 絶望の淵に沈む彼女に手を差し伸べたのは、『氷の公爵』と噂される冷徹な美青年、キリアン・アシュフォード。 「ならば、俺が君を娶ろう」 彼の屋敷で始まったのは、戸惑うほどに甘い溺愛の日々。 不器用な優しさに触れるうち、凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 一方、リゼットを陥れた偽りの聖女は王宮で増長し、国に災いを招き寄せていた。 やがて真実が暴かれる時、元婚約者は後悔の涙を流すけれど――もう、遅い。 これは、不遇の令嬢が本当の愛を見つけ、世界で一番幸せになるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるような溺愛があなたを待っています。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

愛人令嬢のはずが、堅物宰相閣下の偽恋人になりまして

依廼 あんこ
恋愛
昔から『愛人顔』であることを理由に不名誉な噂を流され、陰口を言われてきた伯爵令嬢・イリス。実際は恋愛経験なんて皆無のイリスなのに、根も葉もない愛人の噂は大きくなって社交界に広まるばかり。 ついには女嫌いで堅物と噂の若き宰相・ブルーノから呼び出しを受け、風紀の乱れを指摘されてしまう。幸いイリスの愛人の噂と真相が異なることをすぐに見抜くブルーノだったが、なぜか『期間限定の恋人役』を提案されることに。 ブルーノの提案を受けたことで意外にも穏やかな日々を送れるようになったイリスだったが、ある日突然『イリスが王太子殿下を誘った』とのスキャンダルが立ってしまい――!? * カクヨム・小説家になろうにも投稿しています。 * 第一部完結。今後、第二部以降も執筆予定です。

処理中です...