上 下
16 / 33

料理

しおりを挟む
 自室の窓から呼ぶと、メロアが意気揚々と飛んできた。

 『参上なのだ。何か用かー?』
 「お料理をしようと思うのです! 昨日買った調理器具はどこに置きました?」
 『こっちこっち』

 メロアは室内を飛び、体当たりで部屋の扉を開けて出て行く。
 フレーナもそれに続いて歩いた。

 すぐ近くの空き部屋。
 その中にある棚に、無造作に調理器具が仕舞われていた。

 『使い方はよくわからないから、まとめ方も雑なのだ。好きに持っていくといいのだ』
 「ありがとうございます。ちなみに食材とかは何が? メア様は謎の黒い物体を作ってましたが、アレは何が元になっていたのでしょう……」
 『食材……この神殿の周りには、果実が実る木がある。ボクもたまに食べてるのだ。
 あとは……麓の方に行くと猪とかもいるし、魚も川から獲れると思う』

 神殿の立つ頂上付近は、あまり動植物がみられない。
 あるのは果物の木くらいだ。

 「メア様の好物とかわからないんですよね」
 『あるじは食事自体しないから、ボクもわからん。とりあえず、一通りサクッと獲ってくるのだ! すぐに戻るー!』
 「あっ……私も、」
 『フレーナは待ってるのだ! 料理の準備しててー!』

 止める暇もなく、メロアは飛んで行ってしまった。
 相変わらず元気な生き物だ。

 気を取り直して。
 フレーナは棚に放り込まれた調理器具の点検を始めた。

 「うん、しっかり揃ってる。不足ないかな」

 足りない物があれば、都度買い足していくことになる。
 自分が料理人ほど料理の腕があると思っているわけではない。
 だが、毎日貧しいながらも料理を続けていた経験はある。

 「メア様、喜んでくれるかなぁ……」

 問題はそこだ。
 はたして神が料理を楽しむ感性を持っているのか。
 これくらいの恩返しすらできなければ、フレーナは本格的に何の役にも立てなくなってしまう。

 「がんばらないと……!」

 彼女は気合を入れて準備に取り掛かった。

 ***

 神殿の広間で、フレーナはさっそく調理に取り掛かる。
 メロアは色々な食材を持ってきてくれた。
 しかもかなりの速さで。

 ……というわけで、何を作るかというと。

 「山菜料理を作ろうと思います」
 「……山菜か。メロア、ちゃんと人間が食える物を採ってきたんだろうな?」
 『た、たぶんだいじょうぶ!』

 メアの問いに、メロアはしどろもどろに答える。

 山盛りになった山菜の数々。
 いくつか毒草や毒キノコも混じっていて、フレーナは首を傾げる。
 おそらく手当たり次第に採ってきたのだろう。

 「山菜の見分けはつきますから、お任せください。おいしい料理を作ってみせますよ!」

 村にいたころ、フレーナには食材もまともに与えられなかった。
 そこで支えになったのが山菜やキノコの類。
 毎晩森へ行って採取したものだ。

 もちろん使うのは山菜だけではない。
 小さな猪を捌き、肉も使う予定だ。

 「あ、火は……どうしましょう?」
 『火ならボクが出すのだ。あるじの火は強すぎて全部黒焦げにしちゃうから』
 「悪かったな」

 先程の黒い物体を思い出して、フレーナは苦笑いした。
 火はメロアに頼もう。

 フレーナは腕をまくり、意気揚々と調理を開始した。

 ***

 「お待たせしました!」

 調理の間、メアはじっと座っていた。
 慌ただしく動くフレーナと、楽しそうなメロアを見つめながら。

 テーブルの上に皿が並べられる。
 山菜の炒め煮、赤みずの肉巻き、キノコのオリーブオイル漬け。
 他にも魚や肉を焼き、純粋に塩で味付けしたものも。
 調味料に乏しかったので、可能な限り味の近いもので代用した。

 「へえ……色合いがいいな。俺の真っ黒なアレとは大違いだ」
 『あるじのコゲとフレーナの料理を比べるのは失礼なのだ』

 ドキドキしながら、フレーナは食事を勧める。

 「ど、どうぞ……」
 「いただきます」
 『いただきまーす!』

 メアはいつもの表情で、料理を口に運んだ。
 しばらく沈黙して彼は料理を味わう。

 「……どうですか?」
 「うん、美味い。これが料理か……いいものだな」

 メアは微笑んでフレーナの料理を賞賛した。
 よかった。ひとまず胸を撫で下ろす。

 『うーん、おいしい! あるじは褒め方が下手なのだ。表情の変化に乏しいから、あんまり喜んでるように見えないー』
 「それは自覚してるよ。料理のよさなんて知らなかったが、フレーナのおかげで学べたよ」
 『一応フォローしておくと、あるじはかなり喜んでいるのだ。フレーナは自信を持っていい!』

 メアがあまり感情を表に出さないことは、昨日からの交流で気がついていた。
 嬉しいことや楽しいことがあっても、せいぜい微笑む程度だ。
 しかし慈愛と思いやりに満ちた神様であることをフレーナは知っている。

 「はい! 喜んでいただけて嬉しいです!」
 「よかったら、これからも料理を作ってほしい。メロアも好きに扱き使ってくれて構わないぞ」
 「わかりました……! よろしくお願いします!」

 フレーナは神殿内での役割を欲しがっているように見えた。
 彼女に明確な立ち位置を与えることができて、メアは喜ばしく思う。

 それに、これから出てくる料理も楽しみだ。
 メロアの交流相手も新しく出来たことだし、神殿は賑やかになるだろう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妹に婚約者を奪われましたが、おかげで真実の愛に出会えました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:128

【完結】悪女のなみだ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:237

婚約破棄された令嬢、教皇を拾う

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,030

完 弱虫悪役令嬢の結婚前夜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:44

元婚約者は、ずっと努力してきた私よりも妹を選んだようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:230

処理中です...