1 / 44
婚約破棄
しおりを挟む
「シャンフレック、お前との婚約を破棄する!」
声高らかに突きつけられた婚約破棄。
第二王子のユリスは、十年以上も連れ添った婚約者を見捨てた。
しかも大勢の貴族の眼前で。
婚約破棄された令嬢は静かに佇む。
彼女の名は、シャンフレック・フェアシュヴィンデ。
花も恥じらう公爵令嬢である。
ミルクチョコレート色の髪を長く伸ばし、エメラルドのような瞳で前を見据えている。
その美貌は社交界でも有名だった。
「なるほど」
シャンフレックは特に混乱していなかった。
想定していた事態だ。
そもそも、彼女とユリスはうわべだけの関係。
互いの家の利益のために婚約を交わしただけだった。
二人の間に愛はなく、絆もなかった。
周囲の貴族や大臣は戸惑った表情を浮かべている。
婚約破棄されることを想定していたシャンフレックに対して、いきなり婚約破棄を知った周囲は困惑せざるを得ない。
シャンフレックのどこに不満があって破棄などするのか。
彼女は公爵令嬢として完璧なのに。
「破棄の理由を知りたいだろう?
俺は真実の愛を見つけた!」
真実の愛、と宣言してユリスは少女を抱き寄せる。
ユリスに抱かれているのはアマリス男爵令嬢。
薄紫色の髪を伸ばし、露出度の高いドレスを着ている。
アマリスの実家には大した権力もなければ、財力もない。
シャンフレック公爵家の足元にも及ばない男爵家である。
(またこれ……貴族の間で流行っているのかしら?)
シャンフレックは心中で困惑した。
最近、貴族の間では「真実の愛」とか抜かして婚約破棄する事態が多いらしい。正直意味がわからない。
とにかく、ユリスが破談してくれたのは僥倖だ。
相手が王子という立場上、シャンフレックは否が応でも婚約を否定できなかった。相手方から申し出てくれて彼女は舞い上がりそうな思いだ。
もっとも、表情には出さないが。
「アマリスとの真実の愛の前には、君との偽りの愛など霞む。これまで互いに興味もなく過ごしてきたが……その日々も終わりだ。君は適当な相手でも見つけて、好きに過ごすといいさ!」
「ええ、もちろんそのつもりです。あと、お仕事はもうしませんからね?」
ユリスは驚くほど馬鹿だ。
他の人間から簡単にそそのかされ、その度にシャンフレックが尻を拭ってきた。夜な夜な遊びに出かけては、王家の信用を落としていた。そして何より、国民からは信頼されていない。
いつもシャンフレックに政務を押しつけてきて、かなりの時間を奪われていた日々。
こんな男と婚約破棄できて、シャンフレックは本当に救われた心地だった。
「それにシャンフレックには愛嬌がない。アマリスは俺を一途に慕ってくれていて、とても愛らしいぞ?」
慕っているというよりも、べったりと媚びているように見える。
アマリスはユリスに抱えられて、勝ち誇ったように笑っていた。
シャンフレックは婚約者として、淑女としてそれとなくユリスを支えてきた過去があった。しかし彼女の献身は相手に伝わらなかったらしい。
「ユリス殿下!? その婚約破棄、陛下はご存知なのですか!?」
大臣が冷や汗を浮かべて尋ねる。
「こ、これは俺たちの愛だ! 父上は関係ない!」
やはり国王は知らないようだ。
常識的な価値観を持っていれば、この婚約破棄は認めないだろう。
もっとも、復縁を国王から迫られてもシャンフレックは拒否するつもりでいた。
にこりと微笑んで、彼女はカーテシーした。
「承知しました。ユリス……いえ、殿下。殿下がすばらしき愛を見つけることができ、私も幸甚の至りです。どうかお幸せに」
「あ、ああ……もうよりは戻さないからな!」
復縁など、こちらから願い下げだ。
シャンフレックは優雅な足取りでその場を去った。
あっさりと婚約破棄を認めた彼女に、ユリスは少し戸惑っていた。
しかし、すぐにアマリスと会話することでシャンフレックのことなど忘れたのだった。
声高らかに突きつけられた婚約破棄。
第二王子のユリスは、十年以上も連れ添った婚約者を見捨てた。
しかも大勢の貴族の眼前で。
婚約破棄された令嬢は静かに佇む。
彼女の名は、シャンフレック・フェアシュヴィンデ。
花も恥じらう公爵令嬢である。
ミルクチョコレート色の髪を長く伸ばし、エメラルドのような瞳で前を見据えている。
その美貌は社交界でも有名だった。
「なるほど」
シャンフレックは特に混乱していなかった。
想定していた事態だ。
そもそも、彼女とユリスはうわべだけの関係。
互いの家の利益のために婚約を交わしただけだった。
二人の間に愛はなく、絆もなかった。
周囲の貴族や大臣は戸惑った表情を浮かべている。
婚約破棄されることを想定していたシャンフレックに対して、いきなり婚約破棄を知った周囲は困惑せざるを得ない。
シャンフレックのどこに不満があって破棄などするのか。
彼女は公爵令嬢として完璧なのに。
「破棄の理由を知りたいだろう?
俺は真実の愛を見つけた!」
真実の愛、と宣言してユリスは少女を抱き寄せる。
ユリスに抱かれているのはアマリス男爵令嬢。
薄紫色の髪を伸ばし、露出度の高いドレスを着ている。
アマリスの実家には大した権力もなければ、財力もない。
シャンフレック公爵家の足元にも及ばない男爵家である。
(またこれ……貴族の間で流行っているのかしら?)
シャンフレックは心中で困惑した。
最近、貴族の間では「真実の愛」とか抜かして婚約破棄する事態が多いらしい。正直意味がわからない。
とにかく、ユリスが破談してくれたのは僥倖だ。
相手が王子という立場上、シャンフレックは否が応でも婚約を否定できなかった。相手方から申し出てくれて彼女は舞い上がりそうな思いだ。
もっとも、表情には出さないが。
「アマリスとの真実の愛の前には、君との偽りの愛など霞む。これまで互いに興味もなく過ごしてきたが……その日々も終わりだ。君は適当な相手でも見つけて、好きに過ごすといいさ!」
「ええ、もちろんそのつもりです。あと、お仕事はもうしませんからね?」
ユリスは驚くほど馬鹿だ。
他の人間から簡単にそそのかされ、その度にシャンフレックが尻を拭ってきた。夜な夜な遊びに出かけては、王家の信用を落としていた。そして何より、国民からは信頼されていない。
いつもシャンフレックに政務を押しつけてきて、かなりの時間を奪われていた日々。
こんな男と婚約破棄できて、シャンフレックは本当に救われた心地だった。
「それにシャンフレックには愛嬌がない。アマリスは俺を一途に慕ってくれていて、とても愛らしいぞ?」
慕っているというよりも、べったりと媚びているように見える。
アマリスはユリスに抱えられて、勝ち誇ったように笑っていた。
シャンフレックは婚約者として、淑女としてそれとなくユリスを支えてきた過去があった。しかし彼女の献身は相手に伝わらなかったらしい。
「ユリス殿下!? その婚約破棄、陛下はご存知なのですか!?」
大臣が冷や汗を浮かべて尋ねる。
「こ、これは俺たちの愛だ! 父上は関係ない!」
やはり国王は知らないようだ。
常識的な価値観を持っていれば、この婚約破棄は認めないだろう。
もっとも、復縁を国王から迫られてもシャンフレックは拒否するつもりでいた。
にこりと微笑んで、彼女はカーテシーした。
「承知しました。ユリス……いえ、殿下。殿下がすばらしき愛を見つけることができ、私も幸甚の至りです。どうかお幸せに」
「あ、ああ……もうよりは戻さないからな!」
復縁など、こちらから願い下げだ。
シャンフレックは優雅な足取りでその場を去った。
あっさりと婚約破棄を認めた彼女に、ユリスは少し戸惑っていた。
しかし、すぐにアマリスと会話することでシャンフレックのことなど忘れたのだった。
5
あなたにおすすめの小説
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。
水鳥楓椛
恋愛
男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。
イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない
まりぃべる
恋愛
王都から少し離れた伯爵領地に住む、アウロラ=フランソンは領地の特産物である馬を領民と共に育てている。
一つ上の兄スティーグは学友から、妹を紹介しろと言われるが毎回断っていた。そしてその事を、寮から帰ってくる度に確認される。
貴族で伯爵家の娘であるアウロラは、そのうちいつかはどこかの家柄の男性と結婚をしなければならないのだと漠然と思っている。ワガママが許されるのなら、自分の好きな乗馬は止めたくなかったし結婚はしたくなかったけれども。
両親は好きにすればいいと思っていたが、父親の知り合いから結婚の打診が来て、まずは会うだけならと受けてしまった。
アウロラは、『仕方ない…いい人だといいなぁ』と思いながら会い、中身を知ろうとまずは友人から始めようと出掛ける事になるのだが、なかなか話も噛み合わないし価値観も違うため会話も出来ない。
そんな姿を見てか相手からは清楚だなんだと言われていたが、相手がある女性を助けた事で「僕達別れよう」と一方的に言われることになった。
あまりの事に驚くが、アウロラもまたある男性と出会い、そして幸せになるお話。
☆★
・まりぃべるの世界観です。現実とは常識も考え方も似ているところもあれば、全く違う場合もあります。単語や言葉も、現実世界とは意味や表現が若干違うものもあります。
・人名、地名など現実世界と似たもしくは同じようではありますが全く関係ありません。
・王道とは違う、まりぃべるの世界観です。それを分かった上で、暇つぶしにでも楽しんでもらえるととても嬉しいです。
・書き終えています。順次投稿します。
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。
彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う!
「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」
「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」
貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。
それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム!
そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。
ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。
婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。
そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!?
「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」
復讐も愛憎劇も不要!
ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!?
優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる