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来訪
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「自然災害などによって、作物は特異な種を残すことがある。粒の大きな麦、大豆。芽の出やすい種に、毒のない種……色々あるわ。それらを意図的に育てることによって、品種改良は試みられている。今は寒冷地に強い麦を作ろうと選別作業を進めているわ」
シャンフレックは土をいじりながら解説する。
彼女の話に真剣に聞き入っていたアルージエ。
彼は同じように屈んで、柔らかい土に落ちている作物の根を掴んだ。
「変異したものから、人間に都合のよい種だけを選別する……か。今までは食べられなかった種も、食べられるものを選ぶことで人類は食糧を増やしてきたのだな」
「ええ、そういうこと。でもどうやったら変異を意図的に起こせるのか、改良が飛躍的に進むのか……まだわかっていない。そこら辺は学者の人たちに任せるわ。もう少し財政に余裕が出たら、公爵家で専門の学者を雇いたいわね」
「学問の発展は人の発展。そして文明の発展だ。記憶喪失ながら、その程度の常識は弁えている。そういえば、さっき仕事した時に見たのだが……この国は教育にそこまで力を注いでいないのか? 教育に割かれている財源が、国全体でみて少ないように思う」
アルージエは核心的な問いを放った。
この国は他国に比べて、教育水準が低い。
フェアシュヴィンデ家は教育改革を訴えているものの、王家はあまり賛同的ではないようで。
「耳が痛い話ね。富とは貯めるものではなく、流すもの。教育に財源を投入しないわが国に未来はないでしょう。それにあの馬鹿王子が第二の継承候補だし。まあ、我が領地は教育に力を入れる方針にしてるわ。読み書きに算術など、私が稼いだ利益は教育に回してる」
「この領地に生まれた民は幸福だな。領民からの信頼も篤いだろう」
「ええ……国そのものは酷くても、領地はせめて快適にね」
ユリスが王になることが、シャンフレックはひどく怖かった。
あの王子が王になったら、この国は絶対に立ち行かなくなる。
諸侯が反乱を起こすか、圧政によって民衆が蜂起するか。
いつ王国から離脱してもいいように、フェアシュヴィンデ家はずっと前から準備を進めている。
「周辺諸国の事情はどうなっているんだ?」
「フェアシュヴィンデ領が属しているのは、ヘアルスト王国。東と北にはフラーム帝国があって、西方にはルカロ教皇領。帝国の脅威に対抗するために王国が団結しているけれど、この様子じゃ帝国に寝返る諸侯がいても不思議じゃないわね」
「なるほど……」
シャンフレックは王子の元婚約者として、国王陛下が何とか王国をまとめ上げようとしているのを知っていた。
だが、無能な王子はのんびりと真実の愛に耽っている。
これはもう第一王子に期待するしかないだろう。
第一王子のデュッセルは、シャンフレックも何度か会ったことがある。
彼はかなり優秀な人間で、支持がユリスに比べて断然多い。
またシャンフレックの兄とも仲が良い。
「お嬢様! やはりこちらにおられましたか」
静かな庭園に、サリナが慌てた様子で駆けてきた。
かなり息を切らしている。
「どうしたの?」
「ユリス殿下がお見えになるようです」
「は?」
いまさらどの面を下げて来るというのか。
しかも事前の連絡もなしにやってくるとは。
婚約を結んでいる時代はいきなり訪問してきても文句を言わなかったが、今は赤の他人。唐突な訪問はマナー違反だ。
「ユリス王子……」
アルージエはユリスという言葉を反芻した。
「急いで準備する。アルージエ、悪いけど先に行ってるわね」
「わかった」
相手がマナーの悪い者だったとしても、一応王族だ。
シャンフレックには出迎える義務がある。
今はあいにく土だらけの簡易的な服装なので、急いでドレスに着替えなければならない。
急いで去って行くシャンフレックとサリナを眺め、アルージエは思索にふけった。
「ふむ……ユリスは第二王子だな。先程、シャンフレックはこのヘアルスト王国の未来を憂いていたように思う。ならば国の未来を双肩に担う者が、どの程度の器か。見極めさせてもらおうか。
あまり期待はしていないが……落胆させるなよ、ユリス王子」
シャンフレックは土をいじりながら解説する。
彼女の話に真剣に聞き入っていたアルージエ。
彼は同じように屈んで、柔らかい土に落ちている作物の根を掴んだ。
「変異したものから、人間に都合のよい種だけを選別する……か。今までは食べられなかった種も、食べられるものを選ぶことで人類は食糧を増やしてきたのだな」
「ええ、そういうこと。でもどうやったら変異を意図的に起こせるのか、改良が飛躍的に進むのか……まだわかっていない。そこら辺は学者の人たちに任せるわ。もう少し財政に余裕が出たら、公爵家で専門の学者を雇いたいわね」
「学問の発展は人の発展。そして文明の発展だ。記憶喪失ながら、その程度の常識は弁えている。そういえば、さっき仕事した時に見たのだが……この国は教育にそこまで力を注いでいないのか? 教育に割かれている財源が、国全体でみて少ないように思う」
アルージエは核心的な問いを放った。
この国は他国に比べて、教育水準が低い。
フェアシュヴィンデ家は教育改革を訴えているものの、王家はあまり賛同的ではないようで。
「耳が痛い話ね。富とは貯めるものではなく、流すもの。教育に財源を投入しないわが国に未来はないでしょう。それにあの馬鹿王子が第二の継承候補だし。まあ、我が領地は教育に力を入れる方針にしてるわ。読み書きに算術など、私が稼いだ利益は教育に回してる」
「この領地に生まれた民は幸福だな。領民からの信頼も篤いだろう」
「ええ……国そのものは酷くても、領地はせめて快適にね」
ユリスが王になることが、シャンフレックはひどく怖かった。
あの王子が王になったら、この国は絶対に立ち行かなくなる。
諸侯が反乱を起こすか、圧政によって民衆が蜂起するか。
いつ王国から離脱してもいいように、フェアシュヴィンデ家はずっと前から準備を進めている。
「周辺諸国の事情はどうなっているんだ?」
「フェアシュヴィンデ領が属しているのは、ヘアルスト王国。東と北にはフラーム帝国があって、西方にはルカロ教皇領。帝国の脅威に対抗するために王国が団結しているけれど、この様子じゃ帝国に寝返る諸侯がいても不思議じゃないわね」
「なるほど……」
シャンフレックは王子の元婚約者として、国王陛下が何とか王国をまとめ上げようとしているのを知っていた。
だが、無能な王子はのんびりと真実の愛に耽っている。
これはもう第一王子に期待するしかないだろう。
第一王子のデュッセルは、シャンフレックも何度か会ったことがある。
彼はかなり優秀な人間で、支持がユリスに比べて断然多い。
またシャンフレックの兄とも仲が良い。
「お嬢様! やはりこちらにおられましたか」
静かな庭園に、サリナが慌てた様子で駆けてきた。
かなり息を切らしている。
「どうしたの?」
「ユリス殿下がお見えになるようです」
「は?」
いまさらどの面を下げて来るというのか。
しかも事前の連絡もなしにやってくるとは。
婚約を結んでいる時代はいきなり訪問してきても文句を言わなかったが、今は赤の他人。唐突な訪問はマナー違反だ。
「ユリス王子……」
アルージエはユリスという言葉を反芻した。
「急いで準備する。アルージエ、悪いけど先に行ってるわね」
「わかった」
相手がマナーの悪い者だったとしても、一応王族だ。
シャンフレックには出迎える義務がある。
今はあいにく土だらけの簡易的な服装なので、急いでドレスに着替えなければならない。
急いで去って行くシャンフレックとサリナを眺め、アルージエは思索にふけった。
「ふむ……ユリスは第二王子だな。先程、シャンフレックはこのヘアルスト王国の未来を憂いていたように思う。ならば国の未来を双肩に担う者が、どの程度の器か。見極めさせてもらおうか。
あまり期待はしていないが……落胆させるなよ、ユリス王子」
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