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そのころ王子は
「ああ、クソッ! おい、まだ仕事は終わらないのか!」
王室でユリスが怒鳴り散らす。
彼の怒声に臣下は呆れた声色で答えた。
ユリスは王族ながら全く仕事をせず、臣下に任せきり。
これなら幼い第四王子の方が立派だ。
「そんなに早く終わる仕事ではありませんよ、これは。むしろこの仕事を小一時間で片づけていたシャンフレック様が異常なのです」
「仕事が終わらないと遊びに行けないじゃないか……父上にも怒られるし……」
この国の王であるユリスの父は、息子が婚約破棄したと聞いて言葉を失った。
相手はあの大勢力を誇るフェアシュヴィンデ公爵令嬢。
国王もしきりに彼女の様子を見ており、婚約者には申し分ないと満足していたのだ。無能さゆえ碌な後ろ盾がないユリスを、なんとか支えようとしてくれていたのがフェアシュヴィンデ家。
しかし、そんな相手を愚息が婚約破棄してしまった。独断で。
王は呆れてものも言えず、最初は激怒したものの最終的には悲嘆に暮れるのみとなった。
婚約を破棄した以上、関係性は戻せない。ユリスに対するせめてもの罰として、今までシャンフレックが行っていた仕事を彼に行うように命じたのだ。
「ねえ、ユリス様? まだお仕事は終わらないの?」
甘ったるい声で、新婚約者のアマリスが語りかける。
彼女は山積みになった書類を弄んでいた。
「あ、ああ……ちょっと待ってくれるかな、アマリス。なんなら君も仕事を手伝ってくれると助かるのだが……ほら、簡単な計算くらいはできるだろう?」
「計算なんてできないわ! そういうのは部下の人たちがやるお仕事でしょう? 貴族のわたしたちには関係ないわ」
アマリスは平民から男爵に昇格した貴族だ。
ゆえに貴族としてのプライドは一際強い。
頭を抱えるユリス。
シャンフレックならすぐに終わらせてくれるが……この婚約者は仕事の助けにならないようだ。
されど、これは『真実の愛』……アマリス自らそう語ったのだ。
愛の前には仕事の手腕など関係なく、また身分すら関係ない。
おとぎ話に出てくるような恋愛に、ユリスは惹かれてしまった。
もう後戻りする気はさらさらない。
「ねえ、ユリス様! いい考えがあるんだけど」
「む、何か名案が?」
アマリスは屈託のない笑顔で笑う。
その笑顔に、思わずユリスの頬が緩んだ。
「シャンフレック様をお仕事の補佐として雇うのはどう?」
「……!」
彼女の提案にユリスは刮目した。
たしかに名案だ。
シャンフレックなら仕事を完璧に終わらせるだろうし、なんならアマリスにマナーを教える教育係にもできるかもしれない。
ユリスの根底には、シャンフレックが申し出を拒否しないという確信があった。
シャンフレックは今まで淑女然とした振る舞いで、ほとんどの申し出を拒否してこなかったからだ。今までの経験と、自分が王族であるという自負。
それがユリスの原動力となっていた。
「さすがアマリス! 賢いな!」
「えへへ」
ユリスに頭を撫でられて、アマリスは微笑む。
一瞬うつむいて、アマリスが口元を歪に曲げたことには誰も気がつかなかった。
「よし、お前たち! 今すぐフェアシュヴィンデ公爵領に向かうぞ!」
王子のわがままかつ突飛な命令を受け、家臣一同は出立の準備に取り掛かった。
王室でユリスが怒鳴り散らす。
彼の怒声に臣下は呆れた声色で答えた。
ユリスは王族ながら全く仕事をせず、臣下に任せきり。
これなら幼い第四王子の方が立派だ。
「そんなに早く終わる仕事ではありませんよ、これは。むしろこの仕事を小一時間で片づけていたシャンフレック様が異常なのです」
「仕事が終わらないと遊びに行けないじゃないか……父上にも怒られるし……」
この国の王であるユリスの父は、息子が婚約破棄したと聞いて言葉を失った。
相手はあの大勢力を誇るフェアシュヴィンデ公爵令嬢。
国王もしきりに彼女の様子を見ており、婚約者には申し分ないと満足していたのだ。無能さゆえ碌な後ろ盾がないユリスを、なんとか支えようとしてくれていたのがフェアシュヴィンデ家。
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王は呆れてものも言えず、最初は激怒したものの最終的には悲嘆に暮れるのみとなった。
婚約を破棄した以上、関係性は戻せない。ユリスに対するせめてもの罰として、今までシャンフレックが行っていた仕事を彼に行うように命じたのだ。
「ねえ、ユリス様? まだお仕事は終わらないの?」
甘ったるい声で、新婚約者のアマリスが語りかける。
彼女は山積みになった書類を弄んでいた。
「あ、ああ……ちょっと待ってくれるかな、アマリス。なんなら君も仕事を手伝ってくれると助かるのだが……ほら、簡単な計算くらいはできるだろう?」
「計算なんてできないわ! そういうのは部下の人たちがやるお仕事でしょう? 貴族のわたしたちには関係ないわ」
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ゆえに貴族としてのプライドは一際強い。
頭を抱えるユリス。
シャンフレックならすぐに終わらせてくれるが……この婚約者は仕事の助けにならないようだ。
されど、これは『真実の愛』……アマリス自らそう語ったのだ。
愛の前には仕事の手腕など関係なく、また身分すら関係ない。
おとぎ話に出てくるような恋愛に、ユリスは惹かれてしまった。
もう後戻りする気はさらさらない。
「ねえ、ユリス様! いい考えがあるんだけど」
「む、何か名案が?」
アマリスは屈託のない笑顔で笑う。
その笑顔に、思わずユリスの頬が緩んだ。
「シャンフレック様をお仕事の補佐として雇うのはどう?」
「……!」
彼女の提案にユリスは刮目した。
たしかに名案だ。
シャンフレックなら仕事を完璧に終わらせるだろうし、なんならアマリスにマナーを教える教育係にもできるかもしれない。
ユリスの根底には、シャンフレックが申し出を拒否しないという確信があった。
シャンフレックは今まで淑女然とした振る舞いで、ほとんどの申し出を拒否してこなかったからだ。今までの経験と、自分が王族であるという自負。
それがユリスの原動力となっていた。
「さすがアマリス! 賢いな!」
「えへへ」
ユリスに頭を撫でられて、アマリスは微笑む。
一瞬うつむいて、アマリスが口元を歪に曲げたことには誰も気がつかなかった。
「よし、お前たち! 今すぐフェアシュヴィンデ公爵領に向かうぞ!」
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