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至った事情
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アルージエは語った。
シャンフレックに婚約を申し込んだ、と。
「な……それは本当なのかシャンフレック!?」
もはやフェアシュヴィンデ嬢と呼ぶことも忘れ、ユリスは喚き散らす。
急すぎる出来事に冷静な思考ができない。
しかしシャンフレックはどうにか記憶の引き出しを探る。
『僕が記憶を取り戻してシャンフレックと釣り合う身分だったのなら……きみに婚約を申し込もう!』
ふと、アルージエの言葉が思い出された。
(あー……たぶんアレね)
ユリスが来る前、庭へ続く道で言われた記憶がある。
アルージエが記憶をなくしたというのは嘘だったし、記憶を取り戻したとも言えなくはない。
だがシャンフレックは婚約を肯定した覚えはない。
そして正式に申し込まれてもいないのだが……
「ええ、本当よ。なにか文句でも?」
とりあえず、アルージエの狙いはわかった。
この馬鹿王子を諦めさせるための嘘だろう。
ユリスを追い払うためとはいえ、婚約者を演じるのは恥じらいがある。
フロル教は結婚してはいけないとか、司教や教皇が妻帯してはいけないという決まりはない。だからアルージエに婚約者がいることも不思議ではないのだが……
「ふ、ふん……そうか。俺を好いていながらも、婚約破棄されてしまったから新たな相手で妥協したのか。だが、他人の婚約者を雇ってはいけないという決まりはない。どうだシャンフレック、アマリスの教育者になるつもりはないのか?」
渋々といった様子で納得しつつも、勧誘を続けるユリス。
彼の態度に、二人はドン引きした。
まだ自分がシャンフレックに好かれていると思ってる点、仮にも身分が上の者の婚約者を雇おうとする点などなど……
「シャンフレック、ユリス王子とよく婚約者でいられたな。僕だったら耐えられない」
「ええ、本当に。自分でもよく耐えたと思うわ」
子どもがそのまま大人になったようだ。
それもこれも、父である国王が甘やかしたせいなのだが。
第一王子のデュッセルと差がついたのは……おそらく前国王である祖父に育てられたかどうかの違いだろう。第一王子は祖父から厳しく教育を受けたという。
「殿下、お帰りください。私はあなたの下で働く気はありませんし、今後関わる気もございません。おわかりいただけないようでしたら、直接陛下かデュッセル殿下に抗議いたします」
「あ、兄上に言うのはやめてくれ……ああ、わかったよ! お前なんていなくても政務は部下がやってくれるからな! せいぜい真実の愛を指をくわえて見てるといい!」
露骨な悪態をついて、ユリスは立ち上がった。
彼は大股で客室から出て行く。
「驚いた。あんな人間が王子とは」
アルージエは目を丸くした。
そして、教皇が目の前にいるのに謝罪すらない。
下手すれば国家の存亡にかかわる不敬だ。
ユリスが不機嫌そうに出て行く様子を、二人は窓から眺めていた。
アルージエは怪訝な視線で王家の家紋が入った馬車を見つめているが、シャンフレックはそれどころではない。
「あ、あの……そろそろ離してもらっても?」
まだ彼女は抱きしめられていた。
サリナとアガンも見ている手前、かなり恥ずかしい。
「ああ、すまない。もっとこうしていたいが……仕方ないな」
アルージエは名残り惜しそうにシャンフレックを手放す。
正直、シャンフレックも人目がなければもう少しこうしていたかった。
冷静さを取り戻してきたところで、気になることを質問しなければならない。
「えっと。聞きたいことが多すぎるのだけど」
「なんでも質問してくれ。とはいえ、答えられる情報は大したものではないが」
とりあえず人払いを。
シャンフレックは合図を出して、周囲の使用人を払った。
二人きりで話した方が、遠慮のない話ができるだろう。
「じゃあ、第一の質問を。あなたがルカロ教皇というのは本当?」
アルージエはしかと頷いた。
「事実だ。僕は正真正銘、大司教たちと神命の導きにより聖座を賜った、フロル教の教皇。教皇領都市ルカロを統治する者にして、天上の代弁者とされる者。教皇は滅多に人前に姿を見せないからね……こんな若輩者で驚いたかな?」
教皇が数年前に代わったという話は聞いていたが、こんなに若い男性だとは思わなかった。それだけの有能さを持ち合わせているのだろう。
「驚いたけど。でも、なんで教皇聖下がこんな場所に? どうして庭で倒れていたの?」
問題はそこだ。
彼は発見した当時、シャツ一枚で私物も持たず倒れていた。
しかも頭に傷を負って。
「まず、僕は視察と称して一般人になりすまし、ヘアルスト王国に紛れ込んでいた。これはいいか?」
「ええ。いや、あんまりよくないけど理解したわ」
護衛もつけずに一般人として紛れ込むなど、信じがたい話だが。
とりあえず納得しておく。
「色々な街を巡り、民の様子を確認し……フロル教の扱いや信仰をたしかめた。王国の信徒はみな敬虔でつつましく、非常に好印象だったよ。今でも旅路で受けた恩は忘れていない」
彼は旅路を想起して微笑んだ。
意外とアクティブな性格なのかもしれない。
だが、彼の笑顔が少し曇った。
「だが、問題がひとつ起こった。今から一週間と少し前のこと。それがフェアシュヴィンデ領で倒れていた理由にもなる」
「……というと?」
アルージエは少し言いにくそうにしていたが、シャンフレックの期待の視線を受けて答える。
「王都できみの兄上……フェアリュクト・フェアシュヴィンデと遭遇した」
「あー……」
なるほど。
なんとなく理解した。
つまりこれは……ユリスと同じことだ。
フェアシュヴィンデ家は教皇に不敬を働いてしまった可能性が高い。
「要するに。お兄様があなたを丸裸にして、傷を負わせたってことでよろしい?」
「そういうことだ」
シャンフレックは新たな特大問題に頭を抱えた。
シャンフレックに婚約を申し込んだ、と。
「な……それは本当なのかシャンフレック!?」
もはやフェアシュヴィンデ嬢と呼ぶことも忘れ、ユリスは喚き散らす。
急すぎる出来事に冷静な思考ができない。
しかしシャンフレックはどうにか記憶の引き出しを探る。
『僕が記憶を取り戻してシャンフレックと釣り合う身分だったのなら……きみに婚約を申し込もう!』
ふと、アルージエの言葉が思い出された。
(あー……たぶんアレね)
ユリスが来る前、庭へ続く道で言われた記憶がある。
アルージエが記憶をなくしたというのは嘘だったし、記憶を取り戻したとも言えなくはない。
だがシャンフレックは婚約を肯定した覚えはない。
そして正式に申し込まれてもいないのだが……
「ええ、本当よ。なにか文句でも?」
とりあえず、アルージエの狙いはわかった。
この馬鹿王子を諦めさせるための嘘だろう。
ユリスを追い払うためとはいえ、婚約者を演じるのは恥じらいがある。
フロル教は結婚してはいけないとか、司教や教皇が妻帯してはいけないという決まりはない。だからアルージエに婚約者がいることも不思議ではないのだが……
「ふ、ふん……そうか。俺を好いていながらも、婚約破棄されてしまったから新たな相手で妥協したのか。だが、他人の婚約者を雇ってはいけないという決まりはない。どうだシャンフレック、アマリスの教育者になるつもりはないのか?」
渋々といった様子で納得しつつも、勧誘を続けるユリス。
彼の態度に、二人はドン引きした。
まだ自分がシャンフレックに好かれていると思ってる点、仮にも身分が上の者の婚約者を雇おうとする点などなど……
「シャンフレック、ユリス王子とよく婚約者でいられたな。僕だったら耐えられない」
「ええ、本当に。自分でもよく耐えたと思うわ」
子どもがそのまま大人になったようだ。
それもこれも、父である国王が甘やかしたせいなのだが。
第一王子のデュッセルと差がついたのは……おそらく前国王である祖父に育てられたかどうかの違いだろう。第一王子は祖父から厳しく教育を受けたという。
「殿下、お帰りください。私はあなたの下で働く気はありませんし、今後関わる気もございません。おわかりいただけないようでしたら、直接陛下かデュッセル殿下に抗議いたします」
「あ、兄上に言うのはやめてくれ……ああ、わかったよ! お前なんていなくても政務は部下がやってくれるからな! せいぜい真実の愛を指をくわえて見てるといい!」
露骨な悪態をついて、ユリスは立ち上がった。
彼は大股で客室から出て行く。
「驚いた。あんな人間が王子とは」
アルージエは目を丸くした。
そして、教皇が目の前にいるのに謝罪すらない。
下手すれば国家の存亡にかかわる不敬だ。
ユリスが不機嫌そうに出て行く様子を、二人は窓から眺めていた。
アルージエは怪訝な視線で王家の家紋が入った馬車を見つめているが、シャンフレックはそれどころではない。
「あ、あの……そろそろ離してもらっても?」
まだ彼女は抱きしめられていた。
サリナとアガンも見ている手前、かなり恥ずかしい。
「ああ、すまない。もっとこうしていたいが……仕方ないな」
アルージエは名残り惜しそうにシャンフレックを手放す。
正直、シャンフレックも人目がなければもう少しこうしていたかった。
冷静さを取り戻してきたところで、気になることを質問しなければならない。
「えっと。聞きたいことが多すぎるのだけど」
「なんでも質問してくれ。とはいえ、答えられる情報は大したものではないが」
とりあえず人払いを。
シャンフレックは合図を出して、周囲の使用人を払った。
二人きりで話した方が、遠慮のない話ができるだろう。
「じゃあ、第一の質問を。あなたがルカロ教皇というのは本当?」
アルージエはしかと頷いた。
「事実だ。僕は正真正銘、大司教たちと神命の導きにより聖座を賜った、フロル教の教皇。教皇領都市ルカロを統治する者にして、天上の代弁者とされる者。教皇は滅多に人前に姿を見せないからね……こんな若輩者で驚いたかな?」
教皇が数年前に代わったという話は聞いていたが、こんなに若い男性だとは思わなかった。それだけの有能さを持ち合わせているのだろう。
「驚いたけど。でも、なんで教皇聖下がこんな場所に? どうして庭で倒れていたの?」
問題はそこだ。
彼は発見した当時、シャツ一枚で私物も持たず倒れていた。
しかも頭に傷を負って。
「まず、僕は視察と称して一般人になりすまし、ヘアルスト王国に紛れ込んでいた。これはいいか?」
「ええ。いや、あんまりよくないけど理解したわ」
護衛もつけずに一般人として紛れ込むなど、信じがたい話だが。
とりあえず納得しておく。
「色々な街を巡り、民の様子を確認し……フロル教の扱いや信仰をたしかめた。王国の信徒はみな敬虔でつつましく、非常に好印象だったよ。今でも旅路で受けた恩は忘れていない」
彼は旅路を想起して微笑んだ。
意外とアクティブな性格なのかもしれない。
だが、彼の笑顔が少し曇った。
「だが、問題がひとつ起こった。今から一週間と少し前のこと。それがフェアシュヴィンデ領で倒れていた理由にもなる」
「……というと?」
アルージエは少し言いにくそうにしていたが、シャンフレックの期待の視線を受けて答える。
「王都できみの兄上……フェアリュクト・フェアシュヴィンデと遭遇した」
「あー……」
なるほど。
なんとなく理解した。
つまりこれは……ユリスと同じことだ。
フェアシュヴィンデ家は教皇に不敬を働いてしまった可能性が高い。
「要するに。お兄様があなたを丸裸にして、傷を負わせたってことでよろしい?」
「そういうことだ」
シャンフレックは新たな特大問題に頭を抱えた。
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