どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第20話

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「というわけでフェルト。お前、俺と一対一で決闘してみないか?」
「え」

 ムリムリムリムリ。

「フッ。すまん、冗談だ」
「……もう、心臓に悪いわ。一瞬魂が全部どこかへ飛んで行っちゃうかと思ったじゃない」

 私が文句を言うと、グロウ兄様は愉快そうに笑った。
 でも、あのグロウ兄様が私に冗談を言うなんてね。これも距離が縮まったということかしら。

「でだ、そこで俺は考えた」

 が、すぐにまた真面目な顔つきに戻る。

「貴族同士で決闘を行うとき、その配下を代理として立たせることができるだろ。俺たちもそれを使えばいい」
「それってつまり……」
「ああ。坊主――お前が俺と勝負しろ。そして俺に勝て」
「なっ……!?」

 無茶を言う。
 たとえギルでも、グロウ兄様相手はさすがに分が悪い。才能は匹敵するものがあるだろうけど、騎士としての熟練度が違いすぎる。

 しかし、意外にも指名を受けたギルは驚きも戸惑いもしなかった。
 もしかしたら話の流れでこの展開を覚悟していたのかもしれない。

「……わかりました。その勝負、受けて立ちます」
「いいの、ギル? 相手はグロウ兄様なのよ?」
「そうしなければ君が認められないのなら、やるしかない。俺の誇りに賭けて、なんとしても勝ってみせる」

 いつになく真剣な表情のギル。それだけ厳しい戦いであることを理解してのことだろう。
 実際、先日ギルが直接お兄様と対峙した際には「一分もたせるのがギリギリ」と言っていた。今のままではほとんど勝ち目はないだろう。

 いつになく真剣な眼差しのギル。
 それだけ厳しい戦いになることを理解してのことだろう。

 とはいえ、こんなあっさり引き受けていいのかしら?
 たしか私が以前にお兄様の実力を尋ねた際、ギルは「一分もたせるのがギリギリ」と言っていた。
 となると、現状での勝算はほぼゼロ。勝ち目のない勝負なんて……。

「安心しろ二人とも。決闘までの期間、俺が坊主を鍛えてやる」
「殿下が自分を……?」
「ああ。どっちみちフェルトの近衛騎士なら、とことん強くなってもらわないと困る。フェルトはこの国の希望だ。お前には何がなんでも守ってもらわなきゃならん」
「光栄です。でも、よろしいのですか? わざわざ決闘相手を鍛えるなんて、他の兵士の方々からしたら……」
「問題ない。うちの連中はそんなことじゃ文句は言わねぇよ。むしろ鍛えた上で俺が叩き伏せることを期待するはず。いざ決闘が終わってから、『だから鍛えなければよかったのに』……なんてグダグダ言うほどしみったれた連中じゃねぇさ」

 なるほど。それを聞いて私も安心した。
 たとえ勝てたとしても、周りが納得しなければ意味がない。
 でも、グロウ兄様のお話ならそうはならなそうね。

「とはいえ、あんまり時間をかけてる余裕はねぇ。これから塩を作ったり、コメを育てたりすれば、いずれ隣国もそれらを嗅ぎつけてくるだろう。奴らが動いたときに的確に対処するためには、一日でも早くフェルトが上に立つことを民たちに伝えて、国が一枚岩になっていた方がいい」
「そうですね。自分もそう思います」
「てわけで、決闘は一ヶ月後だ」
「一ヶ月後……」
「ああ。無論、お前にどれだけ才能があろうと一ヶ月で俺に追いつくのは不可能だ。それはわかってる。だから、足りない分はフェルトの錬金術で埋めろ。お前たち二人の“力”で、俺を超えてみせろ」

 二人の力……か。
 その提案は正しいし、現実的だと思う。
 ギルが元聖十字騎士団だったとはいえ、立場は一団員。
 対して、グロウ兄様は部隊長クラスだと言う。
 その差を埋めるには、錬金術という“理外の力”が必要だ。

「……わかった、その提案に乗るわ」
「はい。自分も異論はありません」
「よし、決まりだ」

 グロウ兄様はにやりと笑った。

「言っておくがな、これはフェルト、お前への試練でもある。錬金術でこの国を救うって言ったんだろ。なら、これくらいはやってみせてもらわねぇと、俺も心から錬金術を信じられねぇ。その覚悟を、胸に刻んどけ」

 ……言ってくれるわね。
 でも、確かにその通りよ。
 隣国との圧倒的な差を埋めるには、きっとこの先もこれくらいの奇跡をやってのける必要があるはず。

 いいわ、やってやろうじゃない。むしろなんだか燃えてきたわ。
 ギルと共にグロウ兄様を超えるなんて、錬金術師としては最高の挑戦よ。

 私は釣り糸を垂らしながら、錬金術でどうギルを強化するか考え続けた。


 ***


 数日後、私とギルの二人だけが先に城へ戻った。
 グロウ兄様と他の騎士たちは海辺に残り、塩田づくりを継続中。
 塩を得られるようになったと言っても、すべてを錬金術頼みにはできない。たとえ私が奇跡のような手段を持っていても、日々の生産が技術者一人の腕に依存していては国の発展につながらないからだ。
 そのため私は海水を利用した塩の抽出方法のみを騎士たちにレクチャーし、それをある程度実践可能になったのを見届けたところで現地から引き揚げてきた。

 そして現在は再び書類仕事。
 たった数日不在だっただけで、執務室の机には書類の束が山のように積み重なっていた。
 む、むごい……。
 でも、これも大事な務め。私はソファで剣を磨くギルを尻目に、仕方なく手を動かし続けている。

「大変な仕事が二つも増えたわね」
「そうだな。だけど、必要なことだと思うよ。グロウ殿下の言う通り、俺が君の騎士としてふさわしくあるためには、これは越えなきゃいけない壁だ」
「そうね。私も錬金術で国を救うなんて啖呵を切ってしまった以上、やってみせないとって思ってるわ」

 現状でのグロウ兄様とギルの差は大きい。
 でもその差をギルの努力だけじゃなく錬金術の補助で覆すことができれば、それは間違いなく私の力の証明になる。
 ひいては、いざ他国と戦争になった際に錬金術による兵の強化プランも現実を帯びることになる。

 もっとも、実際の戦では個人の強さだけに頼るつもりは毛頭ないけど。
 私が望むのはあくまで長期的な国の安定。
 この国が豊かになれば必ず奪いに来る者が現れる。それはずっと先の将来でも変わらない。

 ――そうなったとき、グロウ兄様やギル、そして私がこの世にいなかったら?

 私は自分たちや今いる国民だけじゃなく、彼らの子孫たちにも幸せになってもらいたい。
 そうなると必要なのは、誰でも比較的手軽に扱えて、且つどんな相手でも倒せる強い武器だと思う。
 錬金術ならきっとそれが作れるはずだし、実際に密かに研究も進めている。
 当面は目の前の課題に集中しないとだけど、いずれはそっちにも本格的に取り組みたい。

「ま、俺としては複雑な気持ちがないわけじゃないけどな。君と二人でってのもうれしいけど、やっぱり騎士としてはあの人に自分の力だけで勝ちたい」
「ええ。私もギルにはいつか実力でグロウ兄様を倒してほしい。一ヶ月後は無理でも、いつの日か必ずね」

 それもまた本心。
 戦が上手になることに越したことはないけど、やっぱりギルには強くあってほしい。
 なんと言っても私の騎士なんだから。

「約束する。決闘が終わっても鍛錬は続けるし、いずれは殿下だけでなく全ての騎士を超えて一番になってみせる」
「全ての騎士の一番……ね。ふっ、これまた大きく出たわね。でも、その日が来るのが楽しみよ」
「ああ、期待しててくれ」

 ギルがこちらを見据え、拳を軽く握った。
 口調はいつも通り明るかったが、言葉には強い決意が滲んでいる。

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