どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第19話

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「海までの山道がほしい。一度や二度の遠征ならいらんが、運ぶのは塩だ。何度も通うとなれば、整備された道が必要だろう。木も草も多くて歩きにくいし、死角が多すぎる。足を滑らせたら崖下だ。魔物にとっちゃ格好の狩場だ。かといって、普通に開削したら何年かかるかわからん。……お前の錬金術で、なんとかならないか?」

 グロウ兄様が声を落としながら尋ねてくる。
 騎士たちがそばにいるがゆえの配慮だ。

 錬金術の存在については、まだ誰にも秘密にしてある。
 知っているのは密談の場にいた二人の兄とその近衛騎士たちのみ。
 教会に知られたが最後、国の命運が尽きかねないほどの大禁忌。
 それゆえ情報が漏れないよう細心の注意を払うべく、私とお兄様たちで話し合って決めた措置だ。

「……そうね。うん、考えてみるわ。私も歩きながら“道があればいいのに”って思ってたところよ。運ぶのは塩だけじゃないしね」

 海は可能性の宝庫だ。
 漁をすれば食糧が増える。塩漬けにすれば冬越えの備蓄にもなる。
 やがて港を作れば、他国との交易も可能になるだろう。

 だが、そのためには資源を持って帰るための道が必要となる。

 荷物が重くなれば、おのずと人の手で運ぶのに限界が生じてくる。
 かといって、この険しすぎる道で馬車は到底無理。
 山道の整備は必須だった。

「とはいえ、問題は整備にかかる時間よね……」

 木を切り、草を抜き、崖を崩して斜面に――考えただけで頭が痛くなる。
 錬金術でリフトくらいは作れるけれど、そんな作業を何十キロも続けるなんて無理だ。
 もっとこう、ドカンと一気に解決できる方法がほしい。

「……あ」

 そのときだった。
 私に閃きが舞い降りた。

「なにか思いついたか?」
「ええ、グロウ兄様。とびっきりの方法がね」

 私はニヤリと笑った。
 我ながらよくぞ思いついた……いや、思い出したと褒めてあげたい。
 たぶんこんな方法、こっちの世界じゃまだ誰も考えついてないと思う。

「とびっきりの方法?」
「任せて。冬が来る前になんとかしてみせるわ」
「冬だと!? そりゃできたらありがたいが、もうたった三か月しかないぞ!」
「ええ。でもきっと大丈夫。私の考えが形になれば、作業は一気に進むはずだから」
「……やれやれ、我が妹ながら恐ろしいな。俺は今まで、こんな奴を下に見ていたのか」

 グロウ兄様は呆れたように頭をかいた。
 どういたしまして。でも、完成したらもっと驚くことになるわよ。


 ***


 遠征は予想以上にうまくいった。
 死の山脈を抜けたのは翌日の朝。
 精鋭ぞろいとはいえ私とギルだけで突っ切った前回よりは時間がかかったけれど、これも想定の範囲内。
 最悪のケースとして負傷者や死者も覚悟していたが、誰一人欠けなかった。それだけで十分すぎる。
 いつ魔物が襲ってくるか分からない中での野営は中々にスリリングだったけど、交代で見張りをしていたので乗り越えられた。
 魔除けのペンダントもきちんと機能していたし、慣れてくれば普通のキャンプと大差ないようにも思えた(さすがに言い過ぎか?)。

 なお、もちろんそれでも体力自慢のグロウ兄様とギルを除けば皆くたくた。
 ……が、やっぱりみんな海が見えた瞬間にはその疲れが一気に吹き飛んだ。

「すげぇぇぇ、海だ、本当に海だよ!」
「俺、初めて見た……しょっぺぇ匂いがする」
「団長、ちょっと泳いでみていいっすか!」

 騎士団はいい大人ばかりなのに、初めての海に子どもみたいに大はしゃぎしていた。

「野営の準備ができたら、好きにしろ」
「はっ! では行ってまいります!」
「海の魚はうめぇのかな」
「さっさと作業をしようぜ。それから晩飯の調達だ!」

 その言葉どおり、テントはみるみる立ち上がり、焚き火の場所や役割も手際よく決まっていく。
 この辺の動きは、さすがグロウ兄様の部下だ。

「なあフェルト、それから坊主。俺たちは向こうで釣りをするぞ。保存食だけじゃ味気ねえ。せっかく海があるんだ、うまいもんを食おうぜ」

 お兄様が顎で海岸の端を示す。
 それが呼び出しの口実なのはすぐわかった。どうやら部下のいないところで話がしたいらしい。

「ええ、いいわよ」
「はい。お供します」

 移動し、三人で並んで海に釣り糸を垂らす。
 釣り竿は、森の木から即席で錬金加工したもの。
 この海は魚の宝庫らしく、素人の私でも驚くほど簡単に当たりが来た。
 今夜の食卓は、さぞ豪勢になりそう。

「フェルト、俺はお前の下につくと決めた」

 糸を見つめたまま、兄が切り出す。

「だがな、部下たちがいまいち納得してねえ」
「そうでしょうね。兵士の人たちは皆、グロウ兄様の強さに憧れているもの」

 騎士にとって“強さ”は絶対だ。
 今いる兵の多くはグロウ兄様の圧倒的な武とカリスマに惹かれて騎士を目指した者たちで構成されている。
 それは年の若い者だけじゃなく、グロウ兄様より年上の兵もそう。
 だとすれば、そんな彼らがたとえ王族同士の決定だとしても、素直に私に従うことを受け入れられるわけがない。
 その気持ちはなんとなくわかる。

「ああ。だからそいつを何とかしないといけねぇ。だが、言葉じゃ奴らには届かない。認めさせるには“力”がいる」
「力……」
「というわけでフェルト。お前、俺と一対一で決闘してみないか?」
「え」

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