どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

文字の大きさ
35 / 41

第35話

しおりを挟む
 決闘が終わり、グロウ兄様の提案で宴が始まる。
 なんだかんだここ一ヶ月常に漂っていた緊張から解放され、さぞやみんな楽しんでいることだろう……と思いきや。

「「「…………」」」

 城外にある広場では、兵士たちが無言で固まっていた。
 とても宴を楽しんでいるように見えない。
 ……が、それもある意味で当然のこと。

「ま、こんなもんよね……」
「うん……」

 私とギルは、そろって何とも言えない顔でテーブルを見下ろした。
 そこに並んでいたのは、宴にふさわしいご馳走とはほど遠いラインナップ。
 蒸かしたカボチャ、ヤギのミルク――以上、それだけ。

「ま、まあ……とにかく食べよう!」
「そ、そうね! いただきます!」

 気を取り直してフォークを手に取り、ほくほくのカボチャを口に運ぶ。
 口の中に広がる優しい甘み。
 ……うん、悪くはない。悪くはないんだけど。

「おいしい……な」
「……ええ、そうね」

 沈黙。
 おいしいけれど、宴で食べたいものではない。
 やっぱり宴と言えば、こう……肉とか、魚とか、そういう“見た目や香りの暴力”が欲しいっていうか……。
 ああ、でもいけないわフェルト! シルフィーナ姉さんがその身を削って送ってくれたカボチャを前に、そんな不謹慎なことを思うなんて! この恥知らず!
 そうよ、悪いのはカボチャじゃない。むしろこの国でお腹を満たせる食事にありつけるだけ、どれほどありがたいことか! 
 …………でも、やっぱりこの静けさはちょっと寂しい。

「まあでも仕方ないわよね。やる前はみんな決闘に集中してたし、誰もその後のことまで考えてなかったもの」
「ああ。この宴も完全に殿下の思いつきだしね。それに、この国の現状を考えたら……」

 ギルの言うとおり。
 稲を植えたのはまだ一か月前。収穫までには時間がかかる。
 塩田づくりも道半ばで、塩を輸出して他国と交易を始めるにはもう少し準備が必要だ。
 つまり――国の食料事情はいまだ火の車。
 こんな状況で“いかにもな”宴を開こうなんて、どだい無理な話というもの。

 ――だがしかし、そこに救世主が現れた。

「フェルト姉さま、ギルバートさん。決闘の勝利、おめでとうございます」

 やってきたのはライルだった。背後には日傘を手にモーリスも立っている。
 ライルは透き通るような白い肌を日差しから守るため、晴れの日でも傘をさして外に出なければならない。

「ライル、ありがとう。まさかあなたまで観戦に来てくれるとは思わなかったわ」
「大事な日ですから。僕にも王族として、ちゃんと見届ける責任があると思ったんです」

 立派な心掛けね。とても十歳とは思えない。
 これで身体の心配さえなければ、ライルこそ名君の器かも。
 たまにそんなことを考える。

「お疲れさまでした、ギルバートさん。姉さまの話に聞いていた通りでした。あの戦い方、華やかで見ていてすごくわくわくしました!」
「腕を上げたな、ギルバート。見事な決闘だった」
「二人ともありがとう。でも、まだ納得はしてないんだ。今日の勝利はフェルトの装備あってこそ。この次は、俺だけの力で殿下を超えてみせる」

 ライルとモーリスの称賛に、ギルは照れくさそうに笑ってほおをかいた。
 そこからしばらく、私たちは決闘の感想戦で盛り上がった。
 この一ヶ月の海辺での特訓や例の新装備のこと、そして本気になったグロウ兄様の迫力のヤバさなど……気づけば、話は弾んで場の空気もだいぶ和んでいた。
 やがて、ギルが皿を手に取る。

「……あれ、もうカボチャがない」
「まあ、兵士の人たちはよく食べるからね。……でも変ね。私の記憶だと、もっと用意していたはずなんだけど」

 宴の前に給仕と打ち合わせた分量なら、まだ余りがあるはず。
 私とギルが同時に首をかしげていると――。

「ふふ、フェルト姉さま、安心してください」

 ライルが楽しそうに微笑む。

「蒸したカボチャは半分だけで、もう半分は姉さまたちの勝利を祝うためのご馳走にしたんです。そろそろ届くはずですよ」

 その言葉どおり、ちょうど奥から使用人たちが皿を運んできた。
 香ばしい匂いが風に乗って鼻をくすぐる。
 私はその黄金色の円盤がテーブルの上に置かれた瞬間、気がつけば椅子を蹴飛ばすように立ち上がっていた。

「……こ、これはまさか……!」
「はい、かぼちゃを使った“ケーキ”です」
「!!!!!」

 やっぱり……!
 身体中に電流が迸る。
 この国にはケーキなんて存在しない。いや、焼き菓子自体がほぼ伝説級だ。
 なんせそれらの主たる材料である小麦がないのだから当然だ。

「前にお姉さまが“甘いものが恋しい”って言っていたでしょう? だから挑戦してみました」
「お、覚えていてくれたのね……」
「はい。それに、お祝いといえば、やっぱりケーキかなって」

 天使。
 にっこり笑うライルの背に、私は本当に白い羽が見えた気がした。

 モーリスが一歩進み出て、丁寧に説明を始める。

「小麦がない分は、フェルト王女が作ったおコメで代用しました。この間のパスタを覚えておいでですか? あれを作る際にいったん粉にしたおコメを、試しに山羊のミルクを加えて焼いてみたのです」
「するとサクサクとした食感が良い具合で……そこで前にチラッとお姉さまがしてくれたケーキの話を思い出したんです。たしか、正確には“タルト”――という名前でしたでしょうか」
「え、ええ……」

 ここだけの話、転生前の私は大の甘党だった。中でもおばあちゃんがたまに焼いてくれたパンプキンタルトが大好きだった。
 ちなみに私は誰にも自分が転生者だと伝えていない。言ったところでどうせ信じてもらえないからだ。
 だからあくまで前世の記憶というのは伏せた上で私がポロッとこぼした話を、ライルはその情報をもとに独自に再現してくれたのだ。

「それもこれも、姉さまのくれた“砂糖”のおかげです」

 ああ、あれね。
 懐かしさと同時に、あの地獄の試行錯誤の日々がよみがえる。
 サトウキビがないこの国で、植物の自然糖を錬成して甘みを抽出する作業。あれはもはや錬金術というより執念の産物だった。
「これも国の発展のためよ!」と言い訳しながら、実際は“甘いものが食べたい”一心で夜な夜な実験していた私。

「こ、これ……食べていいのか?」
「見たことねえ……」
「甘い匂いがする……?」

 突然現れたタルトにざわつく兵士たち。
 それもそのはず、焼き菓子なんて他の大国でも上流貴族くらいしか食べられない超貴重品だ。
 興味は津々だが、初めて見る食べ物に戸惑っている様子。
 そうして誰も手を出せずにいる中、私は先陣を切って口にする。
 みんなの視線が私に集中する。

「では……いただきます」

 パクリと一口。
 ――甘い。
 こしたカボチャの滑らかさと、焼きたての香ばしさが舌の上で溶け合う。
 ほろりと崩れるタルト生地、そこに染み込むミルクの優しい風味。

「おいしい……!」

 そのひとことが合図だった。
 プルプルと震えながら感動の声を漏らした私。
 その姿に触発され、見守っていた人々が次々と皿に手を伸ばす。

「あ、甘い! 甘いぞ!」
「なんじゃこりゃあ! うますぎる!」
「おいおいおい! こんなすげぇもん今まで食べたことがねぇぞ!」
「おい、俺にも寄越せよ!」
「うめぇえええええ!!」

 一口食べるや否や歓喜に打ち震える兵士たち。
 それだけではない。

「こいつぁたしかにうめえな!」
「……ああ。すごいよライル、本当に」

 普段は厳しいグロウ兄様が、まるで子供のような顔で頬張っていた。
 リヒテル兄様も冷静を装っていたけど、口元が完全に緩んでいる。

「えへへ……」

 二人の尊敬する兄たちに褒められ、ライルが嬉しそうにモジモジする。なんとも微笑ましい光景。
 私も手が止まらず、ついつい一切れもらおうと手を伸ばす。

「これ、他の皆にも教えてあげないとね。きっと飛び上がって喜ぶわ」
「そうですね。でも甘みを出すには砂糖が必要なので……たくさんはまだ作れないんです」
「ああ、そういえばそうだったわね」

 なんとか錬金術で砂糖を作れたと言っても、さすがに大量には生み出せない。
 それらしい原料があるならまだしも、今回は半ば無理矢理だったので消費する魔力も大きかった。
 やれやれ、なかなか一筋縄じゃいかないわね。
 やっぱり早く他国と貿易して欲しいものを得られるようにならないと。

「他にはどうかしら? 料理をしてて、ライルが“これが欲しい”って思ったものはある?」
「そうですね……食材とは少し違うんですが、憧れはやっぱりお鍋です」
「お鍋? 鉄鍋のこと?」
「はい。それがあれば、前に姉さまが言っていた“油で揚げる料理”もできると思うんです。他にもいろんな調理法を試せますし」
「なるほどね……」

 この国には鉱山がなく、鉄は常に不足している。
 剣を揃えるのがやっとで、農具に至っては木の先端を鉄で覆う“なんちゃって仕様”で精いっぱいなのが現状。
 とはいえこの先を考えると、鉄は欠かせない資源だ。
 一番手っ取り早いのは他国からの購入だけれど――隣国を経由すれば、即「反攻の準備だ」と疑われる。
 そんな状況での大量輸入は自殺行為に等しい。
 う~ん、なんとか秘密裏に手に入れる方法はないかしら。
 ……いや待って。そういえば、たしか師匠の遺産で――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

分析能力で旅をする ~転生した理由を探すためにレインは世界を回る

しき
ファンタジー
ある日、目を覚ましたレインは、別世界へ転生していた。 そこで出会った魔女:シェーラの元でこの世界のことを知る。 しかし、この世界へ転生した理由はレイン自身もシェーラもわからず、何故この世界に来てしまったのか、その理由を探す旅に出る。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀
ファンタジー
 交通事故で死んだ筈の私は、地球ではない星の一室にいた。ここは地球からみて異世界で、人口不足の為に他世界から移民を求めており、私も移民として転移させられたらしい。ただし移民だから言葉は通じないし生活習慣も違う。だから正式居住までの1年間、寮がある施設で勉強することになるようだ。  突然何もかも変わって、身体まで若返ってしまった私の、異世界居住の為の日々が始まった。  チートなし、戦闘なし、魔物無し、貴族や国王なし、恋愛たぶんなしというお話です。魔法だけはありますが、ファンタジーという意味では微妙な存在だったりします。基本的に異世界での日常生活+α程度のお話です。  なお、カクヨムでも同じタイトルで投稿しています。

ある平凡な女、転生する

眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。 しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。 次に、気がついたらとっても良い部屋でした。 えっ、なんで? ※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑) ※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。 ★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...