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8話 イザークの婚約者2
しおりを挟む私はイザークお兄様に申し訳なくて、ひたすら謝った。
「ごめんなさい、お兄様。 本当にごめんなさい! まさかエミール様が他人に話をするなんて思わなかったから…」
だってエミール様自身も、私以外の女性が好きだと言っていたから。 こんな恥をさらすようなことを、するなんて。
「いや、君のせいではないからアンリエッタ。 謝らないでほしい」
「でも、ご… ごめんなさい。 お兄様…」
「アンリエッタ… まず、私の話を最後まで聞いて欲しい」
私の動揺ぶりに、お兄様は困った顔をする。
「そうだぞ、アンリエッタ… まず話を聞こう。 イザーク卿、お願いします」
「はい、子爵」
コホンッ… と1つ咳ばらいをしてから、お兄様は話を続けた。
「私の婚約者レティシア嬢は、バラスター公爵家に来たときには、ひどく興奮した状態で… 私に怒りをぶつけてきました。 それで……」
お兄様はレティシア嬢とのやり取りを、1つずつ語った。
『イザーク、あなたがアンリエッタ嬢とお付き合いしていると聞いたわ! 私にかくれて恋人を作るなんて、なんてひどい人なの?! 今すぐ彼女とは別れてください!!』
『別れるも何も… 彼女はただの幼馴染みだよ? 最近はほとんど会う機会もなくなったし』
『ウソはやめて!』
『それで君は… この話をなぜ知っているんだ?』
レティシア嬢が来る直前に、私から話を聞いたばかりのお兄様は、レティシア嬢がその話を知っていたことに、大きな違和感を持ったそうだ。
『なぜって… 私に教えてくれた、親切な人がいるからよ』
『親切な人? …なるほど』
レティシア嬢に話したのはエミール様だと、イザークお兄様はそのとき確信する。
だが、いくらエミール様でも親しい関係でもない他人に、自分の醜聞につながる話を、簡単にするとは思えなくて… そこから頭の良いお兄様は、怒り狂うレティシア嬢をうまく挑発して聞きだした。
『レティシア嬢… 本当は、“親切な人” なんていなくて、嫉妬に狂った君の妄想ではないのかな? ウソはやめてくれないか』
『なんですって?! 私は確かにアンリエッタ嬢の婚約者、エミール卿に聞きました!』
『エミール卿が自分の婚約者の悪口を、言うわけないさ』
『いいえ! 私はアナタが以前から、アンリエッタ嬢と恋人だと疑っていたから。 エミール卿にお願いして、アンリエッタ嬢に聞きだしてもらったの』
『…お願いして、アンリエッタから聞きだした?』
『そうよ。 だからアンリエッタ嬢も婚約者のエミール卿に、“好きな人” がいると告白されれば、自分も本当の気持ちを告白するはずだと。 エミール卿に教えてあげたの! そうしたら彼が………』
「あきれたな。 レティシア嬢がエミール卿をそそのかして、アンリエッタから浮気を聞きだそうとしたのか?」
お兄様からすべてを聞き終わると、お父様はつぶやいた。
「そのようです」
「まぁ……」
お母様は唖然として…
「レティシア嬢がエミール様に告白させた…?! そんなことをするなんて信じられないわ」
ロスモア伯爵令嬢はとても綺麗な人で家柄も良いから、お兄様にピッタリの女性だと思っていたけれど。
そんな人が婚約者ではお兄様も苦労するわ。
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