8 / 23
7話 セインの事情 セインside
しおりを挟む王立騎士団の中でも、セイン・ガルフェルト侯爵は…
『人を殺害できる剣を、腰に下げている騎士は、誰よりも自分を厳しく制御しなければならない!』
という考えかたする人物である。
『つねに心は清らかにたもち、自分の欲望を優先することは、騎士の恥だということを知れ!』
…と、部下や同僚の騎士たちにも、厳しく要求した。
その厳しくて禁欲的な考えかたを… セインは結婚してすぐに、妻にも要求した。
「私の妻なら、君も自分に厳しくして欲しい!」
「旦那様、私は騎士ではありませんわ! 私をあなたの部下たちと同じように、あつかうのは止めて下さい!」
そのため… 結婚当初からセインの要求に反発した、ガルフェルト侯爵夫人とのあいだには、ケンカが絶えることがなかった。
セインの妻は、社交シーズンになると毎日、夜おそくまで夜会をまわり、翌日は侯爵夫人の仕事を怠け、昼過ぎまでゆっくりと眠る。
使用人をたくさん雇い入れている、裕福な貴族の婦人ならそれぐらいの贅沢は普通のことだが… ガルフェルト侯爵家では違った。
それらの社交活動をセインは禁じてしまい、妻に禁欲的な生活をおくることを要求した。
「君は騎士の妻になったのだから、人々の模範とならならなければ、ならない! 社交活動は最小限にとどめ、夜遅くまで夜会で遊ぶことを禁じる!」
「何ですって?!」
「君が3日前の夜会で、独身の貴族たちと戯れていたと、私の上司の騎士団長に注意されたぞ?! 私は、あれほど恥ずかしい思いをしたのは、初めてだ!」
私が忙しい騎士の仕事に走りまわっているときに、その裏で妻が愛人と、浮気をしていたなんて…! そのことを知らなかった私は、良い笑いものだ!!
引退間際の高齢な騎士団長でさえ、知っていたのに… 夫のセインだけが、愛人と妻が遊びまわっていることを、知らなかったのだ。
積極的に、セインが社交活動をしていなかったのも、運が悪かった。
「それは… あなたが私を、1人で夜会に参加させるから… 仕方ないからだわ!」
「この社交シーズンが、王立騎士団にとって一番忙しい時期だと、君も知っているだろう?」
社交シーズンは地方から貴族たちが出て来て王都に集まるため、何かと問題が多くでる。
貴族を狙った強盗や、貴族同士のケンカなどで… 殺人事件の件数もいっきに跳ね上がるのだ。
「ああ、もう嫌! これでは、裕福な侯爵家に嫁いだ意味が無いわ!」
「君は恥ずかしくないのか?! 小さな息子に対して、罪悪感も無いのか?!」
「跡取りを1人産んだのだから、じゅうぶん妻の仕事ははたしたはずよ?! セイン、あなたこそ妻の私に対して、夫の仕事をさぼって恥ずかしくはないの?!」
「なんて… 恥知らずなんだ、君は!!」
「私を幸せにできない、あなたが悪いのよ!! あなたなんか地獄に落ちれば良い―――っ!!!」
浮気をして離婚した妻が、侯爵邸を出て行き… セインは、これで無駄な大ゲンカをしなくてすむと、ホッ… とした。
だが…
セインの4歳になる息子、ガブリエルが元気をなくしてしまい… 息子の乳母と執事が、心配そうにセインに報告した。
「旦那様、ガブリエル坊ちゃまが今日も庭で、泣いておられました…」
「泣いていた? …なぜだ?!」
「以前はこのようなことは、無かったのですが… 奥様が去られて、さびしがっておられるのでしょう」
「そうか… あんな母親でも、ガブリエルにとってはたった1人の母親だからな… 困った!」
母親がいなくなり、元気をなくして落ち込んでしまった息子を育てるには… どうすれば良いのやら?
妻と離婚する時は、たいして悩まなかったが… セインは小さな息子ガブリエルのことを思うと、早まったか? と後悔した。
250
あなたにおすすめの小説
あなたとの縁を切らせてもらいます
しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。
彼と私はどうなるべきか。
彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。
「あなたとの縁を切らせてください」
あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。
新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。
さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ )
小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。
心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。
理由は他の女性を好きになってしまったから。
10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。
意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。
ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。
セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。
そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。
しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?
自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。
アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。
隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。
学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。
訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
【完結】騙された? 貴方の仰る通りにしただけですが
ユユ
恋愛
10歳の時に婚約した彼は
今 更私に婚約破棄を告げる。
ふ〜ん。
いいわ。破棄ね。
喜んで破棄を受け入れる令嬢は
本来の姿を取り戻す。
* 作り話です。
* 完結済みの作品を一話ずつ掲載します。
* 暇つぶしにどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる