声だけカワイイ俺と標の塔の主様

鷹椋

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第2章 声だけカワイイ俺は過保護な元従者と新たな国へ

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「――おっ、戻ってきた。おかえりラビ」

 森の中。ゼオは、太い木の幹に寄りかかるようにして待機していた。
 離れていたのはほんの数分とはいえ、その行き先が行き先なだけに不安だったのだろう。再会するなり、ゼオは俺の全身を確認してまわり、異常はないと分かったところで、ようやく表情を緩める。

「それで、どうだったの?〈標の塔〉は」
「あー……たしかに塔というより城っぽかったかな……」
「へえ? 噂通りなんだ。……どうしたの? 妙に疲れてない?」
「色々あったんだよ、色々……」

 怪訝そうなゼオに、俺は苦笑を返す。

 あの後、ゼオがいないことに気づいた俺は、それはもう慌てた。
 帰り方を知らなかったのだ。
 回廊には転移陣のようなものが見当たらず、本気で絶望しかけたが、なんか、その……大きな扉があって。そこを開けたら、こうして無事、元の森に戻ってこれた。……うん。実はちょっと説明しづらい謎が残ってしまったのだけど、今はおいておく。それよりも、

「入れたのは俺だけか……」
「残念だけど、こればかりは仕方ないねー」

 そう言って、ゼオは肩を竦める。

「追っ手を警戒しなきゃいけないラビには、いざという時のために安全な隠れ場所があった方がいいし、俺だけ入れて、ラビが入れないよりは全然いいよ。ここまでやってきた甲斐があった」
「……だな」

 贅沢言ってられない。ここで文句を言っても何かが変わるわけじゃない。
 それに、旅の間、ゼオにはずいぶんと助けてもらったのだ。今度は俺がゼオの分まで頑張ろう。

「俺、絶対加護をもらうから。レアアイテムも、すぐにたくさん見つけてくる」

 やる気みなぎる俺だったが、途端に「ちょっと待った」と、ゼオからストップがかかる。

「ダンジョンの攻略は慎重にやらないとダメだよ。普通に死ぬ可能性があるんだから。俺と2人ならともかく、1人で入って何かあったらどうするのさ。ラビが強いのは知ってるけど、まずは1層、2層あたりでじっくり慣らして、行けそうだったらその先に進んで行こーよ」

 そりゃ、本来ならそうするのが一番いいんだろうけれど。

「のんびりしてたら所持金が尽きるだろ。今どれくらい残ってるんだ?」
「んー、ロドワームの物価を考慮すると……数日は安宿に泊まれる?」

 つまり、近々安宿にすら泊まれなくなる、と。
 大問題じゃないか。

「ま、最悪俺はどこでも寝れるし、多少腐ったものでも腹満たせるから。焦って金稼ぎしなくていいよー」

 いいわけないだろ……

「ゼオ」
「悪いけどこれだけは譲れない。死んだら元も子もないの、ラビだって分かってるでしょ」

 ぐっ、と言葉に詰まる。
 そのまましばらく無言の睨み合いが続いて、――やがて折れたのは、俺。

「はあ……分かった。無茶はしない」
「ほんとに分かってる? 約束だからね?」

 念押ししてくるゼオは【収納】から小さな懐中時計を取り出すと、時間を確認する。

「じゃあ、ロドワームに戻って、今日泊まる宿を探そっか。あとは、冒険者ギルドと商業ギルド、……薬師ギルドもかな。今後はダンジョンで手に入れたアイテムを頻繁に換金するだろうし、登録も視野に入れとこう。ただ、ここのギルドで【鍵持ち】がどういう扱いをされるのか分からないから、ひとまず俺だけ行って様子見てくるよ。ラビはお留守番しててー」

 登録料をとられる上に、ノルマがあったり一部断れない依頼があるんだっけ。迂闊に登録してしまえば動きづらくなるかもな。今は大人しくゼオに任せよう。

「それなら俺、もう一度〈標の塔〉に行ってきてもいいか? さっきはすぐ引き返したから、ほんの入り口しか見てないんだ」
「いいけど……ダンジョンに入ったりしないでよ? 碌な装備もなしに入れば、低層でも死ぬときは死ぬんだからね」
「分かってるって」

 また過保護モードに突入しそうなゼオを宥め、俺はなんとか別行動する許可を得る。
 合流は2時間後。
 そう約束をして俺たちはその場で別れた。
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