12 / 35
第2章 声だけカワイイ俺は過保護な元従者と新たな国へ
2-4
しおりを挟む
「――おっ、戻ってきた。おかえりラビ」
森の中。ゼオは、太い木の幹に寄りかかるようにして待機していた。
離れていたのはほんの数分とはいえ、その行き先が行き先なだけに不安だったのだろう。再会するなり、ゼオは俺の全身を確認してまわり、異常はないと分かったところで、ようやく表情を緩める。
「それで、どうだったの?〈標の塔〉は」
「あー……たしかに塔というより城っぽかったかな……」
「へえ? 噂通りなんだ。……どうしたの? 妙に疲れてない?」
「色々あったんだよ、色々……」
怪訝そうなゼオに、俺は苦笑を返す。
あの後、ゼオがいないことに気づいた俺は、それはもう慌てた。
帰り方を知らなかったのだ。
回廊には転移陣のようなものが見当たらず、本気で絶望しかけたが、なんか、その……大きな扉があって。そこを開けたら、こうして無事、元の森に戻ってこれた。……うん。実はちょっと説明しづらい謎が残ってしまったのだけど、今はおいておく。それよりも、
「入れたのは俺だけか……」
「残念だけど、こればかりは仕方ないねー」
そう言って、ゼオは肩を竦める。
「追っ手を警戒しなきゃいけないラビには、いざという時のために安全な隠れ場所があった方がいいし、俺だけ入れて、ラビが入れないよりは全然いいよ。ここまでやってきた甲斐があった」
「……だな」
贅沢言ってられない。ここで文句を言っても何かが変わるわけじゃない。
それに、旅の間、ゼオにはずいぶんと助けてもらったのだ。今度は俺がゼオの分まで頑張ろう。
「俺、絶対加護をもらうから。レアアイテムも、すぐにたくさん見つけてくる」
やる気みなぎる俺だったが、途端に「ちょっと待った」と、ゼオからストップがかかる。
「ダンジョンの攻略は慎重にやらないとダメだよ。普通に死ぬ可能性があるんだから。俺と2人ならともかく、1人で入って何かあったらどうするのさ。ラビが強いのは知ってるけど、まずは1層、2層あたりでじっくり慣らして、行けそうだったらその先に進んで行こーよ」
そりゃ、本来ならそうするのが一番いいんだろうけれど。
「のんびりしてたら所持金が尽きるだろ。今どれくらい残ってるんだ?」
「んー、ロドワームの物価を考慮すると……数日は安宿に泊まれる?」
つまり、近々安宿にすら泊まれなくなる、と。
大問題じゃないか。
「ま、最悪俺はどこでも寝れるし、多少腐ったものでも腹満たせるから。焦って金稼ぎしなくていいよー」
いいわけないだろ……
「ゼオ」
「悪いけどこれだけは譲れない。死んだら元も子もないの、ラビだって分かってるでしょ」
ぐっ、と言葉に詰まる。
そのまましばらく無言の睨み合いが続いて、――やがて折れたのは、俺。
「はあ……分かった。無茶はしない」
「ほんとに分かってる? 約束だからね?」
念押ししてくるゼオは【収納】から小さな懐中時計を取り出すと、時間を確認する。
「じゃあ、ロドワームに戻って、今日泊まる宿を探そっか。あとは、冒険者ギルドと商業ギルド、……薬師ギルドもかな。今後はダンジョンで手に入れたアイテムを頻繁に換金するだろうし、登録も視野に入れとこう。ただ、ここのギルドで【鍵持ち】がどういう扱いをされるのか分からないから、ひとまず俺だけ行って様子見てくるよ。ラビはお留守番しててー」
登録料をとられる上に、ノルマがあったり一部断れない依頼があるんだっけ。迂闊に登録してしまえば動きづらくなるかもな。今は大人しくゼオに任せよう。
「それなら俺、もう一度〈標の塔〉に行ってきてもいいか? さっきはすぐ引き返したから、ほんの入り口しか見てないんだ」
「いいけど……ダンジョンに入ったりしないでよ? 碌な装備もなしに入れば、低層でも死ぬときは死ぬんだからね」
「分かってるって」
また過保護モードに突入しそうなゼオを宥め、俺はなんとか別行動する許可を得る。
合流は2時間後。
そう約束をして俺たちはその場で別れた。
森の中。ゼオは、太い木の幹に寄りかかるようにして待機していた。
離れていたのはほんの数分とはいえ、その行き先が行き先なだけに不安だったのだろう。再会するなり、ゼオは俺の全身を確認してまわり、異常はないと分かったところで、ようやく表情を緩める。
「それで、どうだったの?〈標の塔〉は」
「あー……たしかに塔というより城っぽかったかな……」
「へえ? 噂通りなんだ。……どうしたの? 妙に疲れてない?」
「色々あったんだよ、色々……」
怪訝そうなゼオに、俺は苦笑を返す。
あの後、ゼオがいないことに気づいた俺は、それはもう慌てた。
帰り方を知らなかったのだ。
回廊には転移陣のようなものが見当たらず、本気で絶望しかけたが、なんか、その……大きな扉があって。そこを開けたら、こうして無事、元の森に戻ってこれた。……うん。実はちょっと説明しづらい謎が残ってしまったのだけど、今はおいておく。それよりも、
「入れたのは俺だけか……」
「残念だけど、こればかりは仕方ないねー」
そう言って、ゼオは肩を竦める。
「追っ手を警戒しなきゃいけないラビには、いざという時のために安全な隠れ場所があった方がいいし、俺だけ入れて、ラビが入れないよりは全然いいよ。ここまでやってきた甲斐があった」
「……だな」
贅沢言ってられない。ここで文句を言っても何かが変わるわけじゃない。
それに、旅の間、ゼオにはずいぶんと助けてもらったのだ。今度は俺がゼオの分まで頑張ろう。
「俺、絶対加護をもらうから。レアアイテムも、すぐにたくさん見つけてくる」
やる気みなぎる俺だったが、途端に「ちょっと待った」と、ゼオからストップがかかる。
「ダンジョンの攻略は慎重にやらないとダメだよ。普通に死ぬ可能性があるんだから。俺と2人ならともかく、1人で入って何かあったらどうするのさ。ラビが強いのは知ってるけど、まずは1層、2層あたりでじっくり慣らして、行けそうだったらその先に進んで行こーよ」
そりゃ、本来ならそうするのが一番いいんだろうけれど。
「のんびりしてたら所持金が尽きるだろ。今どれくらい残ってるんだ?」
「んー、ロドワームの物価を考慮すると……数日は安宿に泊まれる?」
つまり、近々安宿にすら泊まれなくなる、と。
大問題じゃないか。
「ま、最悪俺はどこでも寝れるし、多少腐ったものでも腹満たせるから。焦って金稼ぎしなくていいよー」
いいわけないだろ……
「ゼオ」
「悪いけどこれだけは譲れない。死んだら元も子もないの、ラビだって分かってるでしょ」
ぐっ、と言葉に詰まる。
そのまましばらく無言の睨み合いが続いて、――やがて折れたのは、俺。
「はあ……分かった。無茶はしない」
「ほんとに分かってる? 約束だからね?」
念押ししてくるゼオは【収納】から小さな懐中時計を取り出すと、時間を確認する。
「じゃあ、ロドワームに戻って、今日泊まる宿を探そっか。あとは、冒険者ギルドと商業ギルド、……薬師ギルドもかな。今後はダンジョンで手に入れたアイテムを頻繁に換金するだろうし、登録も視野に入れとこう。ただ、ここのギルドで【鍵持ち】がどういう扱いをされるのか分からないから、ひとまず俺だけ行って様子見てくるよ。ラビはお留守番しててー」
登録料をとられる上に、ノルマがあったり一部断れない依頼があるんだっけ。迂闊に登録してしまえば動きづらくなるかもな。今は大人しくゼオに任せよう。
「それなら俺、もう一度〈標の塔〉に行ってきてもいいか? さっきはすぐ引き返したから、ほんの入り口しか見てないんだ」
「いいけど……ダンジョンに入ったりしないでよ? 碌な装備もなしに入れば、低層でも死ぬときは死ぬんだからね」
「分かってるって」
また過保護モードに突入しそうなゼオを宥め、俺はなんとか別行動する許可を得る。
合流は2時間後。
そう約束をして俺たちはその場で別れた。
0
あなたにおすすめの小説
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる