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第2章 声だけカワイイ俺は過保護な元従者と新たな国へ
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日が空高く昇りきった頃。
俺たちはスティビア王国の北西、国境沿いにある、商業都市ロドワームへ到着した。
ここから〈標の塔〉までもうすぐだ。
街の中央広場に繋がる道には屋台が並んでいて、大勢の人で賑わっていた。
昼食をとろうと思っていたから、ちょうどいい。俺とゼオはウサギ肉の串焼きを購入し、広場の空いているベンチに腰かける。
包みを解いて、早速いただく。
……うまい。
安いウサギ肉はパサパサして美味しくないものも多いのに、焼き方が上手いのか肉汁たっぷりで。かかっているこの甘辛いソースも、初めて食べるが、かなり好きな味だ。
すぐに1本目を食べ終わり、俺は次の串に手を伸ばす。それにしても、
「栄えてるな……」
広場に来るまでに、大きな建物をいくつも見た。人の行き来は絶えず、あちこちで明るい声が飛び交っている。かつて訪れた自国の王都を彷彿させる、そんな光景だ。
「近場にダンジョンがあるし、〈標の塔〉にも近いからねー」
そう言って4本目の串焼きを食べ終えたゼオに、俺は自分の串焼きを1本分けてやる。会話をするために【防音】の結界を張ってもらっているから、そのお礼。
「これだけ大きい都市なら、入るのに苦労するかと思ったけど、すんなり入れてよかったよな」
俺はもう平民だし、なんなら逃亡中の身だ。身元を明かせと言われても困る。
だが、門番の審査はそこまで厳しくなかった。
やはり〈標の塔〉を目指してやってくる者が多いのだろう。俺とゼオを見て、旅の目的を口頭で確認し、通行料を受け取ると、門番はあっさり中に入れてくれた。
「一番行きやすいのはスティビアのロドワームからだけど、他の国からも〈標の塔〉に行こうと思えば行けるんだろ?」
「うん。だいぶ行きにくいらしいけどねー」
地形や、近場にあるこの大きな商業都市の存在により、“〈標の塔〉に行くならスティビア王国へ”というイメージが定着しているが、実際には〈標の塔〉のある森は、まわりを3つの国に囲まれていて、現状、どこの国にも属していないのだ。
「……さて。食事も済んだし、そろそろ行動開始しますかー」
ゴミを片付けたゼオは俺を見る。
「どうする? このまま〈標の塔〉に行くー? 先に今晩泊まる宿を決めちゃってもいいけど」
「んー……いや、宿を決めるのは後にしよう。【鍵持ち】かどうかで、今後の計画も大きく変わるんだから」
俺たちが【鍵持ち】で〈標の塔〉に入れたなら、ダンジョンで得たアイテムを売って生活費を稼げる。入れる人間がかなり限られたダンジョンなのだ。そう深いところまでいかずとも、それなりに高価なアイテムが手に入るはず。
しかし、どちらも【鍵持ち】じゃなかったら。
その後しばらくロドワームに滞在するにしても、また別のところに行くにしても、収入源を得るまで所持金の消費をできるだけ抑える必要がでてくる。
「了解。じゃ、さくっと確認しに行こー」
広場を出て、俺たちは〈標の塔〉がある森へと続く門を目指し歩き出す。
……いよいよだ。
俺はごくりと唾を飲み込む。
せり上がる緊張を振り切り、いざ〈標の塔〉へ。
***
「……なんか」
「うん」
「普通の森だね?」
「だな」
あの〈標の塔〉に繋がる場所なのだ。さぞかし風変わりな森が待っているのだろうと期待していただけに、少々拍子抜けしてしまう。それくらい、今俺たちの目の前に広がっているのは、この旅の中で散々目にしてきた、ごく一般的な森。
俺とゼオは、揃って顔を見合わせる。
「えっと……たしか、目に見えない境界? があるんだっけ」
「そう聞いてるけど……歩いてると、急に景色が変わるんだって。あ、一応手でもつないどく?」
差し出された手をとって、俺はゼオと並んで歩く。
しばらく代り映えしない景色が続いた。
駄目だったか――
落胆の気持ちが膨らみ始めたその時。
すっ、とあたりを漂う空気が変わって、
「――、っ」
俺は剣を抜いた。
同時に地を蹴り、素早く後ろへ下がる。――が、
「…………置物……?」
突然目の前に現れた何者か。それは、よく見ると、黒い甲冑を身に着けた騎士のような男で。さらによくよく見れば、直立不動の姿勢を崩さないそれは、ただの置物でしかなく。
戸惑いのまま周囲を見回せば、いつの間にか、重厚感漂う石造りの壁に囲まれた、広い回廊のような場所にいる。
呆気にとられながら、俺はひとまず剣を鞘に納めた。
「……って、あれ? ゼオ……??」
俺たちはスティビア王国の北西、国境沿いにある、商業都市ロドワームへ到着した。
ここから〈標の塔〉までもうすぐだ。
街の中央広場に繋がる道には屋台が並んでいて、大勢の人で賑わっていた。
昼食をとろうと思っていたから、ちょうどいい。俺とゼオはウサギ肉の串焼きを購入し、広場の空いているベンチに腰かける。
包みを解いて、早速いただく。
……うまい。
安いウサギ肉はパサパサして美味しくないものも多いのに、焼き方が上手いのか肉汁たっぷりで。かかっているこの甘辛いソースも、初めて食べるが、かなり好きな味だ。
すぐに1本目を食べ終わり、俺は次の串に手を伸ばす。それにしても、
「栄えてるな……」
広場に来るまでに、大きな建物をいくつも見た。人の行き来は絶えず、あちこちで明るい声が飛び交っている。かつて訪れた自国の王都を彷彿させる、そんな光景だ。
「近場にダンジョンがあるし、〈標の塔〉にも近いからねー」
そう言って4本目の串焼きを食べ終えたゼオに、俺は自分の串焼きを1本分けてやる。会話をするために【防音】の結界を張ってもらっているから、そのお礼。
「これだけ大きい都市なら、入るのに苦労するかと思ったけど、すんなり入れてよかったよな」
俺はもう平民だし、なんなら逃亡中の身だ。身元を明かせと言われても困る。
だが、門番の審査はそこまで厳しくなかった。
やはり〈標の塔〉を目指してやってくる者が多いのだろう。俺とゼオを見て、旅の目的を口頭で確認し、通行料を受け取ると、門番はあっさり中に入れてくれた。
「一番行きやすいのはスティビアのロドワームからだけど、他の国からも〈標の塔〉に行こうと思えば行けるんだろ?」
「うん。だいぶ行きにくいらしいけどねー」
地形や、近場にあるこの大きな商業都市の存在により、“〈標の塔〉に行くならスティビア王国へ”というイメージが定着しているが、実際には〈標の塔〉のある森は、まわりを3つの国に囲まれていて、現状、どこの国にも属していないのだ。
「……さて。食事も済んだし、そろそろ行動開始しますかー」
ゴミを片付けたゼオは俺を見る。
「どうする? このまま〈標の塔〉に行くー? 先に今晩泊まる宿を決めちゃってもいいけど」
「んー……いや、宿を決めるのは後にしよう。【鍵持ち】かどうかで、今後の計画も大きく変わるんだから」
俺たちが【鍵持ち】で〈標の塔〉に入れたなら、ダンジョンで得たアイテムを売って生活費を稼げる。入れる人間がかなり限られたダンジョンなのだ。そう深いところまでいかずとも、それなりに高価なアイテムが手に入るはず。
しかし、どちらも【鍵持ち】じゃなかったら。
その後しばらくロドワームに滞在するにしても、また別のところに行くにしても、収入源を得るまで所持金の消費をできるだけ抑える必要がでてくる。
「了解。じゃ、さくっと確認しに行こー」
広場を出て、俺たちは〈標の塔〉がある森へと続く門を目指し歩き出す。
……いよいよだ。
俺はごくりと唾を飲み込む。
せり上がる緊張を振り切り、いざ〈標の塔〉へ。
***
「……なんか」
「うん」
「普通の森だね?」
「だな」
あの〈標の塔〉に繋がる場所なのだ。さぞかし風変わりな森が待っているのだろうと期待していただけに、少々拍子抜けしてしまう。それくらい、今俺たちの目の前に広がっているのは、この旅の中で散々目にしてきた、ごく一般的な森。
俺とゼオは、揃って顔を見合わせる。
「えっと……たしか、目に見えない境界? があるんだっけ」
「そう聞いてるけど……歩いてると、急に景色が変わるんだって。あ、一応手でもつないどく?」
差し出された手をとって、俺はゼオと並んで歩く。
しばらく代り映えしない景色が続いた。
駄目だったか――
落胆の気持ちが膨らみ始めたその時。
すっ、とあたりを漂う空気が変わって、
「――、っ」
俺は剣を抜いた。
同時に地を蹴り、素早く後ろへ下がる。――が、
「…………置物……?」
突然目の前に現れた何者か。それは、よく見ると、黒い甲冑を身に着けた騎士のような男で。さらによくよく見れば、直立不動の姿勢を崩さないそれは、ただの置物でしかなく。
戸惑いのまま周囲を見回せば、いつの間にか、重厚感漂う石造りの壁に囲まれた、広い回廊のような場所にいる。
呆気にとられながら、俺はひとまず剣を鞘に納めた。
「……って、あれ? ゼオ……??」
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