Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ

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第三章 大谷匠、という男。

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 響いた声に返事はない。一応振り返って見ると、そこにはグレーのスーツにアーガイル柄の上質なニットベストを着て、今時風にセットされた髪にやんちゃそうな顔の青年が驚いた表情をしてこちらを見ていた。

「あ、失礼。人違いでした」

「い、いえ。大丈夫です」

「えっと、どこの部署の方ですか? お会いした事ありませんよね?」

 前言撤回。シャキシャキと喋るイケメンは、真面目そのものだった。誠実そうな話し方にこちらも背筋が伸びる。

「部署は・・・まだわからないのですが、決して怪しい者ではありません」

「もちろん。うちは警備も厳重なので、その辺は疑っておりませんよ。でも、そんなに挙動不審だと怪しく見えてきました」

「えっ?! 嘘! どうしましょう。私、捕まるわけには「捕まってるじゃん」

 第三の人物の声に振り返ると、少し呆れ顔の匠くんがこちらに向かって歩いてきているところだった。その後ろには青木さんと先程の美女もいる。

「やあ、匠。元気にしていたかい?」

 やんちゃイケメンもとい誠実イケメンが、匠くんに向かって親しげに手の平を上げて見せた。私は後方の誠実イケメンと匠くんの顔を交互に見ながら、顔面偏差値の高さに鼻息を荒くするしかない。

「亜子ちゃん。お花畑からここよりも、会議室までのほうが近かったはずなんだけど。迷ったの?」

「え、えへへ」

「もう」

 私のダメさ加減が皆さまに伝わったところで、目の前に到着した匠くんに手首を掴まれて引き寄せられた。

「なるほど。匠の連れの方だったのか。・・・なるほどね」

 誠実イケメンが私の事を値踏みするように見るので、居た堪れない気持ちになって匠くんの後ろに隠れる。

「やめてよ、司兄」

「にぃ?」

「あ、ごめんね亜子ちゃん。こちらが僕の兄の司。ちなみに次男のほうね」

「次男のほうの司です。お見知りおきを」

「あ、えっと、私は白石亜子です。匠くんの「大切な人。ね?」

 小首を傾げて微笑みかけてくる匠くんに、左の口角だけ持ち上げて歪に笑い返す。もしや、今日は旦那様のご実家に挨拶イベントなんじゃ・・・。心の準備、ゼロなんですけど。

「匠くん。そっか、そうなんだ」

 後ろで静観していた美女が「ふぅん」と言いたげに前に出てきた。そこに茶化したり悪意の類は感じられない。コツコツとヒールを鳴らして私たちの隣を通り過ぎて、司くんの隣に立った。

「匠が選んだ人だから、俺たちが言うことは何もないよ」

「___そうね」

 並んだ二人は雑誌の表紙になってもいいくらいお似合いで、是非二人で結婚式場のCMに出て欲しいくらいだった。

「お二人は・・・ご結婚されているんですか?」

「けっ、結婚?」

「してないわよ」

「んんん。こちらは藤本さん。俺の大切な人です」

 尻に敷かれていそうな司くんに、ご愁傷様と言ってあげたい。こんなにも気高い美女を捕まえてしまった、貴方の魅力が悪いんですね。司くんから藤本さんへと視線を移すとまんざらでもなさそうな表情をしていて、初対面だけれど二人の幸せを願わずにはいられなかった。

「そういえば、今日は兄さんはいないらしい。ま、それもそうか」

「ええ。まだひと月も経っていないもの。一緒にいたくて仕様がないでしょうね」

「今頃どんな顔をしているのか見てみたいもんだね。匠は? 一緒に行くか?」

 司くんと藤本さんが話しているのを黙って聞いていた。主語の無い会話が相手では、さすがに私の勘も働かない。

「いいや、僕たちはもう行くよ」

「そうか。まあ、匠は日本にいるんだからいつでも見れるもんな。じゃあ、亜子さん。また」

「行こう」

 急かす様に腕を引かれて、肩越しに司くんに頭を下げた。廊下の向こうで小さくなっていく司くんの表情が心配そうで、ざわつく胸のまま隣を早足で歩く匠くんを見上げる。横に結ばれた唇は動かず、真っ直ぐ前を見つめる匠くんの瞳に恐らく私は映っていない。
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