劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

文字の大きさ
36 / 61

周瑜と孔明

しおりを挟む
「劉備からの使者が来ているのだ」
 軍議の後で、孫権が周瑜に告げた。
「会って、話をしてもらえないか。劉備と劉琦の連合軍と同盟を結ぶかどうかを決めねばならん」
「どんな使者です?」
「劉備の軍師だそうだ。名前は諸葛亮。年齢は私と同じくらいだ」

 周瑜は宿泊室へ行き、孔明と会った。
「周瑜公瑾です」
「諸葛亮孔明と申します」
 ふたりは名乗り合った。

「さきほど軍議で、曹操軍と戦うことが決まりました」と周瑜は言った。
 孔明は表情を変えなかった。
「勇気ある決断をされましたね。しかし、当然の決断でもあります」と答えた。
「なぜ当然なのです?」
「曹操には弱点があります。ひとつ、水戦能力が低いこと。ふたつ、補給線が長すぎること。降伏はあり得ません」
 周瑜は自分と同じ考えを孔明が持っていることを知って驚いた。

「しかし、曹操軍は大軍です。しかも曹操は百戦錬磨。戦うのは無謀だという声が多くあります。それでも諸葛亮殿は、戦うべきだとお考えか?」
「ここで孫権様が降伏なされば、曹操の天下簒奪が決まります。曹操は漢の帝を意のままにあやつる悪人です。多少の冒険だとしても、正義をつらぬき、戦うべきです」
「あはははは、つまらん考えだ。正義だ悪だなどというものは、子どもが言うことです。軍師たるもの、常に冷徹な計算で軍の行動を決めなくてはなりません」
 周瑜は哄笑した。

「そうでしょうか。正義をかかげない軍は、ただの暴力機関でしかありません。劉備軍は、正義のために行動します」
「あやうい考えだ。正義など、立場によって変わる」
「そのとおりです。しかし、計算だけで動くなど、面白味の欠片もない。周瑜様は、勝算がなくなったら、すぐに降伏するのですか? そんな軍とは、同盟を結びたくありません」
 周瑜と孔明は、睨み合った。

「劉備殿は兵力をどれほど持っておられる?」
「一万ほど」
「弱すぎる」
「孫権様はどうなのです?」
「十万の軍を動員できます」
 孔明は首を振った。
「揚州は荊州よりも人口が少ない。兵力は、せいぜい五万というところではないですか?」
 周瑜はまた驚いた。孔明の指摘が正確だったからだ。揚州軍の兵力は五万。すぐに曹操との対決に使えるのは、三万程度でしかなかった。

 周瑜は宿泊室を去ったその足で、孫権の執務室へ行った。
 孫権は周瑜と向き合った。
「どうだった? 私は劉備と同盟するべきだろうか?」
「非常に優秀な軍師を持っています。同盟なさいませ」
「そうか。曹操は強大だ。対抗するためには、少しでも兵力が多い方がいいしな」
「はい。使えるものは、猫でも使わなければなりません」
「では、諸葛亮を通して、劉備に同盟締結を申し込むことにしよう」
 周瑜は少し考え込んだ。
「いまは同盟を結ぶべきですが、ゆめゆめ油断しませぬよう。劉備と諸葛亮は、いつか恐るべき存在になるかもしれません」
 孫権は彼の軍師を見つめた。
「わかった。肝に銘じておこう」

 孫権から同盟を締結したいという回答を得て、孔明は夏口城に帰った。
 周瑜は三万の水軍を率いて、建業から長江南岸の赤壁へ航行し、曹操軍を迎え撃つための陣を敷いた。
 曹操は水軍八十万と号して、赤壁の対岸、烏林へやってきた。その軍の実数は、四十万ほどだった。五十万の兵を連れてきたかったのだが、兵糧の輸送が思うようにはいかず、兵力を減らしての行軍となっていた。
 劉備軍は夏口から赤壁に進出し、揚州軍と合流した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...