劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

文字の大きさ
57 / 61

魏王曹操

しおりを挟む
「軍師府はすごいです。面白い兵器をつくっているし、活気があります」と孫尚香は劉備に話した。
「おまえなあ、女なんだから、軍事にはあまり首を突っ込むなよ」
「どうしてですか? 女が軍事に興味を持ったっていいじゃないですか」
「おまえみたいな女はいない」
「そんなことを言う玄徳様は嫌いです!」
 夫婦喧嘩になると、尚香は巴郡へ行ってしばらく戻らず、張飛と武術の鍛錬をしたりした。
 趙雲仕込みの彼女は相当に強く、張飛は面白がって尚香と手合わせをした。

「兄貴、尚香さんは本当に強いです。隊を指揮させてもいいくらいですよ」と張飛は言った。
「おまえまでそんなことを言うのか。妻を戦わせる州牧がどこにいる?」
「女が戦ったっていいと思うけどなあ。尚香さんは本当に優秀な戦士ですよ」

 劉禅は九歳になった。
 尚香は彼に武術の手ほどきをした。
 実の母親を亡くしてさびしがっている劉禅は尚香になつき、子どもながら懸命に剣の練習をした。
「えい、えい」と木刀で打ちかかる息子を、義母は軽くいなして、「禅、もっと強く打ち込んできなさい」などと言っている。
「尚香はこれでいいのかもしれんな……」
 木刀で打ち合うふたりを見て、劉備はそうつぶやいた。

 孔明は懸命に働いていた。
 法正、伊籍、李厳とともに蜀科という法律を制定し、公平公正に運用した。
 税は重く、兵役はきびしかったが、益州の民は孔明の公平さを知っていて、不満は少なかった。
 益州行政総督は十万の常備軍を備えることに成功した。

 魏延率いる軍師府は小型連弩を完成させた。
 魏延は孔明と相談して工場をつくり、連弩の量産体制を確立した。

 軍師府には、二万の直属部隊があった。
 魏延はこれをすべて特殊部隊にした。一万は小型連弩隊。五千を強弩隊にし、残り五千は攻城部隊。
 劉封は強弩隊隊長、劉循は攻城隊隊長、馬忠は連弩隊隊長になった。隊長は隊員に猛訓練を課した。
 攻城部隊は戦場で攻城やぐら、投石車、衝車、はしごを自作する能力を持った。地下道を掘ったり、仮設橋を架けたりする訓練も行った。

 張飛と馬超も二万の兵を持ち、熱心に調練をしていた。
 親衛隊長の張苞のもとには、精鋭三千がいた。
 その他、郡太守たちにも兵が預けられていた。簡雍は兵の訓練を副官の張翼に丸投げした。

「もっと多くの兵を」と魏延は孔明に要求した。
「現状ではこれで精一杯です。これ以上徴兵すると、反乱が起こりかねません」と孔明はつっぱねた。
 ふたりは微妙に対立したが、互いに職務に忠実であることは理解し合っていた。

 劉備はときどき江州城へ行き、関羽と龐統を呼び寄せて、情報交換をした。
「そちらの状況はどうだ?」
「荊州は豊かです。兵数は十二万になりました」と龐統は言った。
「騎兵の育成に力を注いでいます。趙雲が率いる騎兵隊は、五倍の歩兵を粉砕する力を秘めています」と関羽は自信を見せた。
「馬を買うのも大変なのですよ、関羽殿。これ以上、騎兵を増やさないでください」
「なにを言う、龐統殿。騎兵はもっと増やすぞ。一万にまで増強したい」
「それは無理です」
「貴公の力量なら、可能であろう」
 劉備はふたりの口論を微笑ましく思いながら見守った。

「わたしも兵を指揮したいです」
 ついに尚香がそんなことを言い出した。
「だめだ! おまえを戦場で死なせるわけにはいかん」
 劉備が一喝すると、彼女は拗ねて巴郡へ行き、張飛のもとで兵を指揮した。
 張飛と兵を分けて模擬戦をすると、いい勝負をした。
「尚香さんは天才かもしれません」と張飛は言った。
「おまえがそんなことを言うから、あいつが調子に乗るのだ!」と劉備は怒った。
 夫が怒れば怒るほど妻は軍事にのめり込み、馬超のもとにも出入りするようになった。
 馬超と馬岱は曹操との再戦に向かって燃えており、尚香と気が合って、ともに騎兵の訓練をしたりした。

 216年、曹操は魏王になった。
 その報が成都にもたらされると、衝撃が走り、曹操討つべしとの気運が高まった。

「魏王の次は皇帝になろうとするだろう。それは阻止せねばならん」と劉備は言った。
「まだ曹操と戦えるほどの実力は備わっていません」孔明は反対した。
「いや、戦えます」魏延は強気だった。益州軍は確実に強くなっているとの手応えがあった。
「いま立たなければ、わが軍の存在意義が問われる」
「殿、曹操と戦うのなら、絶対に勝ってください」
 孔明は暗い瞳を劉備に向けた。
「あの男は徐州で許されざることをしました。わが母は罪もないのに、斬り殺されました。無数の死体が河を堰き止めました。曹操をこの国の皇帝にしてはなりません。殿が負ければ、この国はおしまいです。戦うなら、必ず勝たなくてはならないのです」
「わかっておる」
 劉備は孔明と魏延の目を交互に見つめた。
「戦闘準備をせよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

処理中です...