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第一章
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「昨日のことなんだけど、友達でも何でもない俺があんなことするの、やっぱり嫌だった?」
「?!」
覚えてくれていたんだ。朝は昨日のことを聞かれたらどうしようと悩んでいたくせに、白沢が昨日のことを気にかけてくれていたのが単純に嬉しかった。
(おれのこと、少しは考えてくれたりしたのかな)
にへ。
思わず顔が緩んだ彰太に、白沢が「多比良?」と不思議そうに疑問符を浮かべる。彰太は慌てて顔を引き締めた。
「い、嫌とかじゃなくて。白沢は男から見ても綺麗だから、照れるって、いうか」
「そうなんだ、ありがとう。同性からは嫌われることが多いから嬉しいよ」
同性、か。
胸の何処かが、ちくりと痛んだ。そんな彰太に気付くはずもなく、白沢は気まずそうにそっと視線を遠くに逃がした。
「俺……何ていうかな。どうしようもなく人肌が恋しくなるときがあって……でも、女の子相手だと、事務所的にまずいというか」
「うん……?」
彰太が眉を潜める。白沢の言いたいことが理解出来ない。いや、正確には何となくわかるのだが、まさかという思いが強く、うまく呑み込めないと言った方が正しいのかもしれない。
「えと……人肌が恋しいけど、女の子だとまずいから、おれを代わりにしたってこと……?」
彰太はぼそぼそと小さく口にしながら、そんな馬鹿なと思っていた。それでは男友達と同じではないか。
(おれ的には奇跡に近い考え方ではあるけど)
「……ごめん。すごく失礼なこと言ってるね」
白沢が歯切れ悪く言葉を紡いでいく。いつものにこやかな白沢とは違う気がして、何だか落ち着かない気分になり、彰太は両手の指をくっつけたり離したりを繰り返す。
「いくら人肌が恋しくても、男なんて気持ち悪くない……?」
「そう、だね。気持ち悪ったよね、ごめん」
「違うよ。おれじゃなくて、白沢がだよ」
「俺? 俺は、全然。いつも多比良の友達のこと、いいなって思って見ていたぐらいだし──それに、実際にしてみて思ったんだ。抱き心地とか、匂いとか、好きだなって……何か、俺こそ気持ち悪いことばかり言ってるね」
ごめん。
再び、白沢が謝罪する。
どうしても嘘をついているようには思えなくて。彰太の期待が膨らんでいく。両想いだとは、さすがに思っていない。そういう期待ではなくて。
『それは、相手もおかしくないか?』
今なら、おかしいと思う。だってこんなこと、普通なら同性に言ったりしない。それとも、気持ちがバレて、からかわれているんだろうか。その可能性も大いにある。
だから、言っちゃ駄目だ。こんな言葉に惑わされたら、きっと後悔する。友達をなくすだけでなく、間違いなくいじめられる。
大袈裟でなく、人生が終わってしまうかもしれない。
「──もしおれが、白沢のこと好きだったらどうする?」
白沢が目を丸くし、視線を彰太に向けた。対し、彰太はうつむいていたので、どんな表情をしているのかは、互いにわからない。
「……恋愛対象として好きだって言ったとして、それでもおれを抱き締めたいって思う?」
彰太の拳が、わずかに震える。白沢からの答えはない。ああ、やってしまった。彰太の目の前がじわりと滲んでいく。
「へ、変なこと言ってごめん。嘘だから安心していいよ。それじゃ」
「──あ、待って!」
右腕を掴まれたけど、彰太は振り向かないまま「なに」と呟いた。涙声になってるのが、自分でもわかった。情けなくて、よけいに涙が溢れた。もう誤魔化しようがない。
言うんじゃなかった。ただ後悔だけが心に渦巻く。いったい、どんな答えを期待していたのか。
(……冗談だよね、って確認されるかな。それならまだ救われるけど)
──多比良って、ホモだったんだ。気持ち悪い。
ひゅっ。
吸った息が、一瞬詰まった。
「俺の気持ち、正直に言うね。最初はやっぱり驚いた。でも、嫌われていると思っていたから、どちらかというと嬉しいかな」
拒絶ではない声音に、ほっと息を吐く。大丈夫、息は出来る。彰太は前を向いたまま「……何でそんな嘘言うの」と消え入りそうな声量で呟いた。
「嘘じゃないよ。だって多比良は、俺と目が合うたびに、すごい勢いで目を逸らしていたから。よっぽど嫌われているんだなって」
彰太が「……そんなことしてない」と僅かに身体をよじる。白沢はそれでも、手を離してくれない。
「無意識、かな? でも、好きの裏返しって思えば、むしろ可愛いよね」
いつもと変わらない様子の白沢。彰太は白沢の意図が全くわからなかった。
「……おれは女顔だけど、女じゃないよ。気持ち悪いなら、そう言っていいから」
やっぱり、そんなこと思ってたんだ。
白沢は一度言葉を切り、声音をワントーン落とした。
「──あのね。俺、実は男に二回告白されたことがあって」
驚きに打たれるように、彰太は振り向いた。白沢が、ぶつかった目を細めた。
「二人とも、すごく震えてたよ。女の子もそうなんだろうけど、何ていうかな……同性相手なら、より勇気がいるんじゃないかって思って──何で俺なんかのためにって……」
白沢は一瞬、何処かわからない遠くを見た。
「でも、そっか……ごめん。無神経だったね」
白沢はそっと、彰太の腕を離した。
「さっきの答えは、イエスだよ。多比良が俺を恋愛対象として好きだとしても、抱き締めたいって思うし、気持ち悪いなんて思うわけない。それだけは、知っておいてほしかったんだ」
彰太の身体が、僅かにぴくんと揺れる。違う。真に受けちゃ駄目だ。何処かで声がする。でも、止まらなかった。
「……白沢がおれのこと、恋愛対象として見てくれなくても、いいよ」
今度は彰太が、白沢の服の袖を掴んだ。
「?!」
覚えてくれていたんだ。朝は昨日のことを聞かれたらどうしようと悩んでいたくせに、白沢が昨日のことを気にかけてくれていたのが単純に嬉しかった。
(おれのこと、少しは考えてくれたりしたのかな)
にへ。
思わず顔が緩んだ彰太に、白沢が「多比良?」と不思議そうに疑問符を浮かべる。彰太は慌てて顔を引き締めた。
「い、嫌とかじゃなくて。白沢は男から見ても綺麗だから、照れるって、いうか」
「そうなんだ、ありがとう。同性からは嫌われることが多いから嬉しいよ」
同性、か。
胸の何処かが、ちくりと痛んだ。そんな彰太に気付くはずもなく、白沢は気まずそうにそっと視線を遠くに逃がした。
「俺……何ていうかな。どうしようもなく人肌が恋しくなるときがあって……でも、女の子相手だと、事務所的にまずいというか」
「うん……?」
彰太が眉を潜める。白沢の言いたいことが理解出来ない。いや、正確には何となくわかるのだが、まさかという思いが強く、うまく呑み込めないと言った方が正しいのかもしれない。
「えと……人肌が恋しいけど、女の子だとまずいから、おれを代わりにしたってこと……?」
彰太はぼそぼそと小さく口にしながら、そんな馬鹿なと思っていた。それでは男友達と同じではないか。
(おれ的には奇跡に近い考え方ではあるけど)
「……ごめん。すごく失礼なこと言ってるね」
白沢が歯切れ悪く言葉を紡いでいく。いつものにこやかな白沢とは違う気がして、何だか落ち着かない気分になり、彰太は両手の指をくっつけたり離したりを繰り返す。
「いくら人肌が恋しくても、男なんて気持ち悪くない……?」
「そう、だね。気持ち悪ったよね、ごめん」
「違うよ。おれじゃなくて、白沢がだよ」
「俺? 俺は、全然。いつも多比良の友達のこと、いいなって思って見ていたぐらいだし──それに、実際にしてみて思ったんだ。抱き心地とか、匂いとか、好きだなって……何か、俺こそ気持ち悪いことばかり言ってるね」
ごめん。
再び、白沢が謝罪する。
どうしても嘘をついているようには思えなくて。彰太の期待が膨らんでいく。両想いだとは、さすがに思っていない。そういう期待ではなくて。
『それは、相手もおかしくないか?』
今なら、おかしいと思う。だってこんなこと、普通なら同性に言ったりしない。それとも、気持ちがバレて、からかわれているんだろうか。その可能性も大いにある。
だから、言っちゃ駄目だ。こんな言葉に惑わされたら、きっと後悔する。友達をなくすだけでなく、間違いなくいじめられる。
大袈裟でなく、人生が終わってしまうかもしれない。
「──もしおれが、白沢のこと好きだったらどうする?」
白沢が目を丸くし、視線を彰太に向けた。対し、彰太はうつむいていたので、どんな表情をしているのかは、互いにわからない。
「……恋愛対象として好きだって言ったとして、それでもおれを抱き締めたいって思う?」
彰太の拳が、わずかに震える。白沢からの答えはない。ああ、やってしまった。彰太の目の前がじわりと滲んでいく。
「へ、変なこと言ってごめん。嘘だから安心していいよ。それじゃ」
「──あ、待って!」
右腕を掴まれたけど、彰太は振り向かないまま「なに」と呟いた。涙声になってるのが、自分でもわかった。情けなくて、よけいに涙が溢れた。もう誤魔化しようがない。
言うんじゃなかった。ただ後悔だけが心に渦巻く。いったい、どんな答えを期待していたのか。
(……冗談だよね、って確認されるかな。それならまだ救われるけど)
──多比良って、ホモだったんだ。気持ち悪い。
ひゅっ。
吸った息が、一瞬詰まった。
「俺の気持ち、正直に言うね。最初はやっぱり驚いた。でも、嫌われていると思っていたから、どちらかというと嬉しいかな」
拒絶ではない声音に、ほっと息を吐く。大丈夫、息は出来る。彰太は前を向いたまま「……何でそんな嘘言うの」と消え入りそうな声量で呟いた。
「嘘じゃないよ。だって多比良は、俺と目が合うたびに、すごい勢いで目を逸らしていたから。よっぽど嫌われているんだなって」
彰太が「……そんなことしてない」と僅かに身体をよじる。白沢はそれでも、手を離してくれない。
「無意識、かな? でも、好きの裏返しって思えば、むしろ可愛いよね」
いつもと変わらない様子の白沢。彰太は白沢の意図が全くわからなかった。
「……おれは女顔だけど、女じゃないよ。気持ち悪いなら、そう言っていいから」
やっぱり、そんなこと思ってたんだ。
白沢は一度言葉を切り、声音をワントーン落とした。
「──あのね。俺、実は男に二回告白されたことがあって」
驚きに打たれるように、彰太は振り向いた。白沢が、ぶつかった目を細めた。
「二人とも、すごく震えてたよ。女の子もそうなんだろうけど、何ていうかな……同性相手なら、より勇気がいるんじゃないかって思って──何で俺なんかのためにって……」
白沢は一瞬、何処かわからない遠くを見た。
「でも、そっか……ごめん。無神経だったね」
白沢はそっと、彰太の腕を離した。
「さっきの答えは、イエスだよ。多比良が俺を恋愛対象として好きだとしても、抱き締めたいって思うし、気持ち悪いなんて思うわけない。それだけは、知っておいてほしかったんだ」
彰太の身体が、僅かにぴくんと揺れる。違う。真に受けちゃ駄目だ。何処かで声がする。でも、止まらなかった。
「……白沢がおれのこと、恋愛対象として見てくれなくても、いいよ」
今度は彰太が、白沢の服の袖を掴んだ。
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