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第一章
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奇跡の昼休みからの、放課後。
「たーいら。部活に行く前にハグさせて」
抱き付こうとした男友達を、彰太はさっとかわした。男友達が「な、何で」と目に見えて落ち込む。
「おれ、風邪気味なんだ。うつったらやだろ?」
わざとらしく、彰太は咳をした。せっかくの白沢の感触が消えてしまうのが嫌だからという理由から出た行動だ。だが幸いというか、何というか。「確かに、顔、赤いな」「あーほんとだ。保健室行く?」と、クラスメイトの何人かが心配そうに集まってきた。
何かすみません。罪悪感を覚えながら、彰太は「へーき。家に帰って寝るから」と言いながら、教室を後にした。
(早く琉兄に話し聴いてもらいたいなあ)
とはいえ、今日の琉太は大学が終わってバイト先に直行なので、帰宅は夜十時を越えるのだが。
駐輪場で自転車の前かごにカバンを入れたタイミングで、名を呼ばれた。この透き通った甘い声は。勢いよく振り向くと、そこにはやっぱり白沢がいた。
「良かった、追い付いた」
何かわかんないけど、わざわざ追いかけてきてくれたんだ。彰太は出来る限り表情には出さないようにしながら「なに?」と、目に見えない尻尾を全力でふった。とはいえ、目の輝きはちっとも消せてはいない。白沢は申し訳ないなと思いながらも、隠しきれない素直さに、少し吹き出しそうになった。
「あの。良かったら、連絡先交換しない?」
「え?」
「駄目かな」
てっきり必要以上の接触はもうしてくれないだろうと覚悟していた彰太は「だ、駄目じゃない!」と、慌てて口調を強めた。白沢がほっと息をつく。
「良かった。それでね、多比良が良ければなんだけど。明日からもときどき、その……ハグさせてもらっていいかな」
「?! い、いいよ!」
むしろいいの?!
問い返したかったが、下手な質問で白沢の気が変わるのが嫌だったので、止めた。白沢が再度「ほんと? 余計に辛くなったりしない?」と確認してくる。
彰太が全力で首を左右にふる。このチャンスを逃したくなくて必死だった。
「しない。おれはね、とっくに恋愛は出来ないって諦めてるんだ。でも好きな人に抱き締めてもらいたいっていう願望はずっとあった。だから、すごく嬉しい」
あ、でも。
彰太がうつ向き、ぼそぼそと呟く。
「出来れば人のいないところがいい、かな。絶対に顔、赤くなるから」
万が一でもバレたら、おれだけじゃない。下手をしたら、白沢を巻き込んでしまうかもしない。それだけは避けたかった。
白沢は一言「わかった」と言い、綺麗に笑った。どうしてこんな人がおれなんかと思ったけど、口には出さなかった。
(女顔だから、男でも抵抗ないのかなあ)
この顔に生まれて良かったと心から思いながら、彰太は「また、明日」と照れながら白沢に小さく手をふり、軽やかに自転車にまたがった。またあの幸福感が味わえるのだと思うと、まさに天にも昇る想いだった。
「しょうちゃん、お風呂沸いたわよ」
夕飯をすませ、リビングでテレビを見ていた彰太は、母の言葉に「あ、おれ今日は」との後に、入らない。と続けようとしたが、今日で白沢のハグが最後ではないことを思い出し「入ってくる」と、スキップしそうな勢いのまま、ご機嫌で風呂場に向かった。
「お帰り! 琉兄!」
「……お前はまた、人の部屋に勝手に入って」
部屋の明かりがついていたのでわかってはいたが、バイトから帰宅したばかりの琉太は眉を寄せた。彰太はご機嫌で兄の言葉を遮り「聴いて!」と目を輝かせた。
まあ泣いているより何倍もマシかと、琉太は「へーへー」と、机にカバンを置いてから、彰太に向き直った。
「たーいら。部活に行く前にハグさせて」
抱き付こうとした男友達を、彰太はさっとかわした。男友達が「な、何で」と目に見えて落ち込む。
「おれ、風邪気味なんだ。うつったらやだろ?」
わざとらしく、彰太は咳をした。せっかくの白沢の感触が消えてしまうのが嫌だからという理由から出た行動だ。だが幸いというか、何というか。「確かに、顔、赤いな」「あーほんとだ。保健室行く?」と、クラスメイトの何人かが心配そうに集まってきた。
何かすみません。罪悪感を覚えながら、彰太は「へーき。家に帰って寝るから」と言いながら、教室を後にした。
(早く琉兄に話し聴いてもらいたいなあ)
とはいえ、今日の琉太は大学が終わってバイト先に直行なので、帰宅は夜十時を越えるのだが。
駐輪場で自転車の前かごにカバンを入れたタイミングで、名を呼ばれた。この透き通った甘い声は。勢いよく振り向くと、そこにはやっぱり白沢がいた。
「良かった、追い付いた」
何かわかんないけど、わざわざ追いかけてきてくれたんだ。彰太は出来る限り表情には出さないようにしながら「なに?」と、目に見えない尻尾を全力でふった。とはいえ、目の輝きはちっとも消せてはいない。白沢は申し訳ないなと思いながらも、隠しきれない素直さに、少し吹き出しそうになった。
「あの。良かったら、連絡先交換しない?」
「え?」
「駄目かな」
てっきり必要以上の接触はもうしてくれないだろうと覚悟していた彰太は「だ、駄目じゃない!」と、慌てて口調を強めた。白沢がほっと息をつく。
「良かった。それでね、多比良が良ければなんだけど。明日からもときどき、その……ハグさせてもらっていいかな」
「?! い、いいよ!」
むしろいいの?!
問い返したかったが、下手な質問で白沢の気が変わるのが嫌だったので、止めた。白沢が再度「ほんと? 余計に辛くなったりしない?」と確認してくる。
彰太が全力で首を左右にふる。このチャンスを逃したくなくて必死だった。
「しない。おれはね、とっくに恋愛は出来ないって諦めてるんだ。でも好きな人に抱き締めてもらいたいっていう願望はずっとあった。だから、すごく嬉しい」
あ、でも。
彰太がうつ向き、ぼそぼそと呟く。
「出来れば人のいないところがいい、かな。絶対に顔、赤くなるから」
万が一でもバレたら、おれだけじゃない。下手をしたら、白沢を巻き込んでしまうかもしない。それだけは避けたかった。
白沢は一言「わかった」と言い、綺麗に笑った。どうしてこんな人がおれなんかと思ったけど、口には出さなかった。
(女顔だから、男でも抵抗ないのかなあ)
この顔に生まれて良かったと心から思いながら、彰太は「また、明日」と照れながら白沢に小さく手をふり、軽やかに自転車にまたがった。またあの幸福感が味わえるのだと思うと、まさに天にも昇る想いだった。
「しょうちゃん、お風呂沸いたわよ」
夕飯をすませ、リビングでテレビを見ていた彰太は、母の言葉に「あ、おれ今日は」との後に、入らない。と続けようとしたが、今日で白沢のハグが最後ではないことを思い出し「入ってくる」と、スキップしそうな勢いのまま、ご機嫌で風呂場に向かった。
「お帰り! 琉兄!」
「……お前はまた、人の部屋に勝手に入って」
部屋の明かりがついていたのでわかってはいたが、バイトから帰宅したばかりの琉太は眉を寄せた。彰太はご機嫌で兄の言葉を遮り「聴いて!」と目を輝かせた。
まあ泣いているより何倍もマシかと、琉太は「へーへー」と、机にカバンを置いてから、彰太に向き直った。
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