うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第一章

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 目が覚めると、彰太は自室のベッドの上にいた。しばらくぼんやりしてから、はっとした。白沢の姿が何処にもない

「白沢? どこ?」

 昨日、炭酸飲料で酔ってしまってからの記憶はおぼろげにある。めちゃくちゃ無遠慮に甘えてしまった恥ずかしい記憶がよみがえる。穴があったら入りたい。が、それよりも、嫌われてしまったのではないかという不安でいっぱいになった。

(……女でもないのに可愛い子ぶって甘えて、絶対引かれた。さすがに気持ち悪いって思われたかも)

 呆れて、帰ってしまったのかな。いやまて。急な仕事でも入ったのかも。そう考え、慌ててスマホを確認するが、何の連絡も来てはいなかった。

 やってしまった。彰太は顔を真っ青にしながら、項垂れた。そのとき。白沢がドアを開け、部屋に入ってきた。
 
「あ、起きた? ごめん。のど乾いたから、冷蔵庫にあったミネラルウォーターもらったよ。彰太も──どうしたの? じっと見て」

 目にじわっと涙を浮かべていた彰太は「……呆れて、帰ったかと思った」と、ぽかんと白沢を見上げた。

「? そんなことしないよ。それに、呆れるって何に?」

 白沢がベッドに腰かける。彰太はうつむき「……昨日、酔っ払って、白沢にめちゃくちゃ甘えてしまったことに」と呟いた。白沢は顎に手を当て「確かに可愛いかったけど。そこまで普段の彰太と変わらなかったような」と首を傾げた。

 がん。
 彰太は普通にショックだった。これでも結構我慢していると思っていたのに。

「普段のおれってあんなのなの?!」

「うん? 彰太って、甘えるのうまいよね。つい何でもしてあげたくなってしまうというか」

 それより。白沢は「彰太。白沢じゃなくて、一翔でしょ?」と顔を近付けてきた。彰太はいきなりのどあっぷに固まった。そして。

「彰太?!」

 白沢は突然慌てたようにティッシュを探しはじめた。何だろうと思っていると、鼻の下に違和感を覚えた。指でこすると、赤い液体がついていた。鼻血だった。


「……消えたい」

 ベッドの上に座り、顔を覆ったままの彰太が呟く。鼻血はもう止まっている。

「すぐ止まってよかったよ。ほら、彰太。こっちにおいで」

 隣に座る白沢が両腕を広げる。彰太はぴくっと耳を動かし、無言で白沢の膝の上にまたがった。首にしがみつき「……何で名前で呼ぶの?」と、ぽつりと呟いた。

「覚えてない? 彰太が名前で呼んでいいって言ってくれたんだよ」

 残念なことに、何となく覚えている。それを律儀に守ってくれるなんて、本当に白沢は優しいなあと、改めてじーんとした。そんな彰太の背を、白沢が優しく撫でる。

「さて、今日はどうする? 何処か出掛ける?」

「……親も琉兄も、夕方まで帰ってこないんだ。だからこのまま家で、二人でいたい」

「誰と?」

 問いかけに、彰太はゆっくりと顔を上げ「しろ──か、一翔と」と視線を交差させた。一翔が嬉しそうに笑う。身体中の体温が上昇していくのがわかった。にやける顔を見られたくなくて、一翔の肩にこてんと額をつけた。

「おれ、こんなに幸せでいいのかな。後でバチがあたったりしないかな」

「じゃあ、俺も一緒だね」

 一翔は何気なく答えたのかもしれない。でも、彰太は泣きたくなるぐらい嬉しかった。だって、一翔もこの時間を幸せだと思ってくれているということだから。


 高校三年生に進級した二人は再び同じクラスとなった。ついでに葉山も一緒だった。だんだんと余裕の出てきた彰太は、人前でも一翔と普通に話せるようになり、心にもゆとりがもてるようになっていった。

 不安は常にある。でも、ほんの少しだけ幸福感が勝っているような。そんな感じ。

 そんな二人の交際は、高校を卒業しても続いた。
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