うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第二章

3

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「……琉兄」

 どれぐらい泣いていたのだろうか。涙を流し過ぎて、がんがんと頭が痛む。でも、溜めたままだった哀しみを吐き出したおかげが、心は少し、すっきりしていた。時間が経つにつれ、きっとこんな風に、傷付いた心は癒されていくのだろう。なら。

「うん?」

 顔を上げると、ずっと頭を撫でてくれていた琉太の、心配を滲ませた視線とぶつかった。

 ──ああ。おれは、何て恵まれているんだろう。

 改めてそう感じた。

「今まで、たくさん話しを聴いてくれてありがとう」

「彰太……?」

「たぶん。恋愛をするのはこれで最後だから。だからもう、泣かないよ」

 泣き腫らした目。それでもその双眸は、確かに、強い決意を宿していた。


 ひと月後。

 街で、一翔を見かけた。目尻の下に、横に並んで二つホクロのある綺麗な女性と、腕を組んで歩いていた。SNSで、一翔がモデルをやめたことを知ったのは、つい数日前のこと。

 そのとき彰太は、一つの科白を思い出していた。

『俺……何ていうかな。どうしようもなく人肌が恋しくなるときがあって……でも、女の子相手だと、事務所的にまずいというか』

 そうだ。おれは、いわば仮の恋人だったのだ。どうして忘れていたんだろう。一翔に好きだと言われ、キスをされ、舞い上がり、あの科白をなかったことにした。

 いや。きっかけはそうだったとしても、一翔は本当に、自分のことを好きになってくれたのだと誤解した。そんなわけないのに。だって一翔は、ゲイではない。自分とは違うから。

 大学生になって、一翔の部屋に誘われるようになってからも、一度も抱かれたことはない。

 きっとそれが、答えだった。気付かずに、一翔の優しさに甘えた。これまで付き合ってくれてたのは、一翔の事情というよりも、同情の方が大きい気がしてならない。

(……あの子と付き合うために、モデルをやめたのかな。それともモデルをやめたから、女の人と付き合うことにしたのかな)

 いずれにせよ、もう仮の恋人はいらなくなった。だからフラれたのだと納得した。

 ──泣かないよ。決めたからね。

 彰太は、染み渡る青空を仰いだ。息を吐くと、すうっと白い息が溶けていく。

(……一目惚れしてから、ずっと一翔のこと見てたな)

 ときどき、一翔は何処か遠くを見ていることがあった。人肌が恋しい。そう言っていた一翔は、好きな人を、好きになれる人を探しているのかと思うことがあった。自分がそれになれる。そう勘違いしそうになったこともあったけど。

 ──その隣にいる人が、そうなの? それとも、まだ探している途中なのかな。

 彰太は哀しげに小さく笑ったあと、一翔とは反対の道を歩きだした。
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