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第三章
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「一つ、提案したいことがあるんだが」
二人が同時に、琉太に視線を向けた。琉太は迷いつつも、ゆっくりと口を動かした。
「──お前たちのこと、母さんたちに話さないか?」
とたんに彰太が表情を凍りつかせるのがわかった。やっぱり早すぎたかとも思ったが、琉太は続けた。
「彰太。怖いのはオレにだってわかる。でもな、母さんたちは本気で心配してるんだ。突然理由もわからないまま家族から離れて、遠くで一人暮らしをはじめたお前のことを」
彰太は視線を逸らし、一翔の背中にまわした腕の力を強めた。
「オレは理由を知ってる。そいつと万が一でも街中で会わないようにするためだったんだよな? でも母さんたちは何も知らないから、よけいに心配なんだよ」
一翔の指がぴくりと動く。それに気付く余裕もなく。彰太は一翔の胸に、額を擦り付ける。聞きたくない。そう拒絶するように。わかっていても、琉太はやめなかった。いずれは、絶対に言わなければいけないことだから。
「恋人もいなくて、このままずっと一人でいるのかって。それも心配してる。それに、これからそいつと一緒に暮らすんだろ? 遅かれ早かれ、いずれ気付かれるときがくる。だから」
彰太は一翔から離れないまま「──いやだ」とぽつりと洩らした。目は見開いたまま。全身が僅かに震えている。琉太は出来る限りの優しい声音で、諭すように告げる。
「すぐじゃなくていいんだ。でも、ずっと黙ってるわけにもいかない。それはわかるだろう?」
彰太は答えない。一翔は彰太の頭を撫でながら「琉太さんは、彰太のこと、ご両親のこと、すごく大事にしてくれているんだね」と囁いた。
「……うん」
わかっている。でも、どうして今そんなことを言うのか。一翔と再会したばかりなのに。この先もずっと一緒にいてくれる保証なんてない。なら、わざわざカミングアウトする必要なんてないのではないか。そんな考えが渦巻いていく。
彰太はうつ向きながら「……心配してくれてるのは知ってる。悪いとも思ってる。でも、無理だよ」と顔だけを琉太に向けた。
「……何が無理なんだ?」
琉太の問いに、彰太はつつけば泣きそうな不安定な表情をしながら顔を上げた。
「だって、否定されたら? お母さんやお父さんたちと、これまでみたいな関係じゃいられなくなる。それに、一翔と別れろって言われたら?」
彰太は一翔を見上げた。
「おれが親にそう言われても、一翔は傍にいてくれるの?」
一翔の瞳に、僅かな動揺が走った。それを見ぬいたのかどうかはわからない。彰太は双眸を潤ませ「やっと……やっとこれから一緒にいられるのに」と苦し気に吐露した。そして。
「……いつまで一緒にいられるか、わかんないのに」
消え入りそうな声音で呟き、再び一翔の腕の中におさまる彰太。琉太は、二人が別れてからのことは一切知らない。フラれてすぐに一翔が女の人と腕を組んで歩いていたこと。その女の人との結婚式を見たこと。子どもがいると聞いたこと。彰太はそれらのことに関しては何も話していない。ずっと一人で耐えてきた。事情を知った今でも、それは彰太の心の傷になっている。また、同じことが起こるのではないかと。
今度こそ本当に、一翔は帰ってこないのではないかと。
全てを知るわけではない。それでも彰太の様子から、これ以上の無理強いは出来ないと考えた琉太は、「今日はもう、帰るけど」と彰太の頭にぽんと手をのせた。
「これだけは忘れるな。オレの望みは、お前の幸せなんだからな」
きっと。母さんと父さん。瑠花も。
そう言って、琉太は部屋を後にした。
二人が同時に、琉太に視線を向けた。琉太は迷いつつも、ゆっくりと口を動かした。
「──お前たちのこと、母さんたちに話さないか?」
とたんに彰太が表情を凍りつかせるのがわかった。やっぱり早すぎたかとも思ったが、琉太は続けた。
「彰太。怖いのはオレにだってわかる。でもな、母さんたちは本気で心配してるんだ。突然理由もわからないまま家族から離れて、遠くで一人暮らしをはじめたお前のことを」
彰太は視線を逸らし、一翔の背中にまわした腕の力を強めた。
「オレは理由を知ってる。そいつと万が一でも街中で会わないようにするためだったんだよな? でも母さんたちは何も知らないから、よけいに心配なんだよ」
一翔の指がぴくりと動く。それに気付く余裕もなく。彰太は一翔の胸に、額を擦り付ける。聞きたくない。そう拒絶するように。わかっていても、琉太はやめなかった。いずれは、絶対に言わなければいけないことだから。
「恋人もいなくて、このままずっと一人でいるのかって。それも心配してる。それに、これからそいつと一緒に暮らすんだろ? 遅かれ早かれ、いずれ気付かれるときがくる。だから」
彰太は一翔から離れないまま「──いやだ」とぽつりと洩らした。目は見開いたまま。全身が僅かに震えている。琉太は出来る限りの優しい声音で、諭すように告げる。
「すぐじゃなくていいんだ。でも、ずっと黙ってるわけにもいかない。それはわかるだろう?」
彰太は答えない。一翔は彰太の頭を撫でながら「琉太さんは、彰太のこと、ご両親のこと、すごく大事にしてくれているんだね」と囁いた。
「……うん」
わかっている。でも、どうして今そんなことを言うのか。一翔と再会したばかりなのに。この先もずっと一緒にいてくれる保証なんてない。なら、わざわざカミングアウトする必要なんてないのではないか。そんな考えが渦巻いていく。
彰太はうつ向きながら「……心配してくれてるのは知ってる。悪いとも思ってる。でも、無理だよ」と顔だけを琉太に向けた。
「……何が無理なんだ?」
琉太の問いに、彰太はつつけば泣きそうな不安定な表情をしながら顔を上げた。
「だって、否定されたら? お母さんやお父さんたちと、これまでみたいな関係じゃいられなくなる。それに、一翔と別れろって言われたら?」
彰太は一翔を見上げた。
「おれが親にそう言われても、一翔は傍にいてくれるの?」
一翔の瞳に、僅かな動揺が走った。それを見ぬいたのかどうかはわからない。彰太は双眸を潤ませ「やっと……やっとこれから一緒にいられるのに」と苦し気に吐露した。そして。
「……いつまで一緒にいられるか、わかんないのに」
消え入りそうな声音で呟き、再び一翔の腕の中におさまる彰太。琉太は、二人が別れてからのことは一切知らない。フラれてすぐに一翔が女の人と腕を組んで歩いていたこと。その女の人との結婚式を見たこと。子どもがいると聞いたこと。彰太はそれらのことに関しては何も話していない。ずっと一人で耐えてきた。事情を知った今でも、それは彰太の心の傷になっている。また、同じことが起こるのではないかと。
今度こそ本当に、一翔は帰ってこないのではないかと。
全てを知るわけではない。それでも彰太の様子から、これ以上の無理強いは出来ないと考えた琉太は、「今日はもう、帰るけど」と彰太の頭にぽんと手をのせた。
「これだけは忘れるな。オレの望みは、お前の幸せなんだからな」
きっと。母さんと父さん。瑠花も。
そう言って、琉太は部屋を後にした。
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