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9話
しおりを挟むその後の時間は穏やかに進んだ。
王にチヨが本当は87歳だが、こちらに来たときに若返ったことを話す。すると王は「ならば伴侶はいたのか?」と聞いてきた。
「ええ、いましたよ。恋愛結婚で子供も5人います」
「えっ」
「それは…信じられぬな」
この少女の姿からは想像が出来ないのだろう。
「…こちらに落ちた者があちらではどのようになっているか分からぬ…心配されていることであろう」
「あ…いえ…数日前に亡くなったんです。こちらに来た日が葬儀でした」
「…すまぬ」
「いえ、…夫は朝目覚めたら冷たくなっていたんですが.だから人と住むのはもう嫌だって思っていました。でもここで過ごしてみてやはりいいものだと感じています」
「そうか…ありがとう、チヨ」
お礼を言ってから「それから」と付け加える。
「浄化が終われば褒賞がある。財産、土地など何でも良い。本当に何でも、だ。何が欲しいか是非考えておいてくれないか」
「分かりました…」
王は頷くと、この場の終了を告げた。
最後にまた謝罪とお礼をし、改めて呪詛に勝ってみせると誓ってくれる。
やはり良い王であるようだ。
その後、チヨはルーカスに自室まで送ってもらい一息着く。
(人が冷たくなるのはもう見たくない。それが自分の手でなら尚のこと…)
目をギュッと瞑り、胸の痛みに耐えるチヨだった。
———————
事態が動いたのはあの謁見の日から1週間。
チヨは祈り間で祈りを捧げていた。
祈りの力を強くするために過去の聖女が行っていたらしい。
正直、ソンツァル神などは信じていない。来て数日の国の神より87年生きてきた日本の神である。と思ってチヨは祈っていた。
しかし、胸にふと嫌な気持ちがよぎる。
これが恐らく虫の知らせというやつだろうか…
そう思っていた矢先、祈りの間が勢いよく開いた。
急いできたことに加え焦っているのだろう。使者の息が上がっている。
「せ、せ…せいじょさま……王に兆候が現れました」
「!!」
やはり。全く信じていない神だが、やはり遣いと言われるだけあるのか、今のはお告げのようなものだろう。
「分かりました」
「ルーカス殿がいらっしゃいますので自室でお待ち下さい」
急いで戻った直後にルーカスが入室してくる。
かなり精神的参っているようだ。
「使者からお聞きになったかと思いますが、王に兆候が現れました…」
「はい、聞いています。…大丈夫ですか?」
「…申し訳ありません。情けないですね」
そう言ってルーカスは力なく微笑む。
身近な者が得体の知れないものに侵されるのだ、当然のことだろう。
「…いいえ、そんなことはありません。それで…浄化は今からですか?」
「3日後に良い日があります。ソンツァル神の力が強くなる日と言われていますので、そこに合わせたいと思います」
「それまで大丈夫なんですか?」
「はい、前日までにチヨ様にも用意をして頂きます。明日は1日祈り間でのお勤めになります。そして前日は特別な部屋で物忌となります。その後、夜に禊をし3日後の朝から浄化の予定でございます」
「…分かりました」
「またその都度ご説明しますが、ご不明点、不安な点などありましたかお申し付け下さい。サポートには引き続きエマとモニカをおきます。宜しくお願い致します」
エマとモニカが力強く頷いた。
勝負は3日後である。
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