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8話
しおりを挟む本日は聖女宮での謁見である。
チヨとルーカスが入室すると、王は座ってくつろいでいた。
「おお、そなたが聖女か」
「はじめまして、榊原チヨと申します」
とりあえずお辞儀をしてみる。
すると王はとても満足そうだった。
「チヨか。私はルゥナ帝国国王オスニエル・ノーリ=ルゥナである。よくぞ降りてきてくれた…」
20代頃だろうか?
精悍な顔立ちは何にも動じない冷静で強い王のようで、挨拶もそこそこに本題へと入っていった。
「ルーカスからも聞いていると思うが、私は近いうちに心を病む。そなたには辛い思いをさせてしまうのだが…どうかこの国を救ってほしい」
「それについては…すみません。今ここで返事をすることは出来ません」
何万という人の命がかかっているのだ。
断るということは選択肢には無いが、さっきの今ではまだ覚悟は決まらない。
「そうか…そうであろうな。実際のところ、私も自身がどうなるかは分からないのだ」
前回は500年前だから当然ながら書物での記録しかない。
書くと話すではニュアンスの伝わり方も違ってくるものである。
「だから…どんな醜い存在になるかも想像がつかない。そんなものをチヨにばかり負わせていいはずがない。だから私は…チヨが私を殺してしまってもいいと思っている」
むしろ愛らしいチヨになら歓迎だ、と明るく笑う声をルーカスが咎めた。
チヨは何も言えず俯いてしまう。
この人は何を言っているのだろう…負わせたくないと言いながら殺されてもいいだなんて。
怒りがふつふつと湧き上がってきてしまう。
それに気付かず王は話続ける。
「そうであろう?この——「いい加減にしてください!!」
チヨが叫ぶと2人が息を呑む。
「王様は役目を重荷に思わなくてもいい、失敗してもいい、という気持ちで『負わなくていい』と言ってくれたのだろうと思います。けれど…殺してもいいというのは…私が人殺しになっても仕方ないということですか?その罪は背負っていいと?」
王がハッとした表情をする。
どうやら矛盾に気が付いたようだ。
「何万人もの命を見捨てることなんて出来ません。浄化はします。だけど…私にはまだ覚悟が持てません。挑む覚悟、そしてどうなってもその結果を受け入れる覚悟が…」
浄化に挑むのはチヨだけなのだろうか。
チヨだけが頑張らねばならないのだろうか。
それは違う気がした。
「…あなたがそんな弱気でどうするんですか!心を病むのも、浄化を受けるのも他でもないあなたです!そんなんだから私の覚悟も決まらないの!自分も負けないように努力するからお前も頑張れ、くらい言ってよ!」
チヨの声が無くなった室内は誰も言葉を発さず静まり返っている。
その静寂を破ったのは王だった。
「大変、申し訳なかった」
「…」
「私は自分の環境に、状況に浸っていたようだ。どこかで仕方ないと思っていた。書物を読んで自分は何をしても無駄だと思っていた。結局は病むのだと…不幸な代に当たってしまったのだと。だがそれはただの甘えだった」
王は立ち上がるとチヨの側にやってきて綺麗なお辞儀をした。
「チヨに負わせたくないと言い、自分は逃げていた。今更かと思うかもしれないが呪詛に打ち勝つよう最大限努力をしよう。だからチヨ…そなたにも頑張ってもらえないだろうか?」
「はい。頑張ります。…すみません、王様が1番怖くて大変なのも分かるんですが、つい…」
「良いのだ。チヨの言葉で目が覚めた。私は確かに諦めていたのだ…ありがとう。どうかこの私とこの国を宜しく頼む」
それはチヨが聖女としての責任を負うことへの覚悟を決めた瞬間だった。
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