解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流

文字の大きさ
6 / 40
第1章 守護龍の謎

第6話 図書館で調べものをすることにしました

しおりを挟む
「頑張れーっ!」
「いいぞ!」
「そこだぁ! ぶっ潰せぇ!」

 周りの歓声に応えるように二人はペースを上げてどんどんとさかづきを重ねていく。しかし、俺の頭の中では警鐘けいしょうが激しく鳴っていた。これはまずい。非常にまずい。なにがって……代金がである。
 俺は仮にも駆け出しの冒険者だ。金なんてそんなに持っていない。かといって止められる雰囲気でもない。

「おいフラウ、もうその辺にしとけって!」

 俺がそう言った時だった。グラスを置いた男が「これじゃあ決着がつかねぇ、ひとまずは引き分けにしようや」と言った。
 ギャラリーからはブーイングが巻き起こったが、男の容姿に恐れをなしたのか、すぐに各々の席に戻っていく。
 男は俺の隣に腰をかけると、フラウを指差しながらこう言い放った。

「あの嬢ちゃんは流石だぜ。このオレ相手に互角にやり合うヤツなんて王都中探してもそうそういないだろうよ」
「じゃあなんで途中でやめたんだよ?」
生憎あいにく、オレは今日死ぬわけにはいかないんでね」
「どういう意味だよ……」

 俺が尋ねると、男は小声で答えた。

「本当は口止めされてるんだが、兄ちゃん達は酒をみ交わした仲だ。特別に教えてやる。──オレはな、ドラゴンを倒しに行くんだよ」
「──っ!?」

 俺とフラウは同時に動きを止めた。

「驚いたかぁ? そうさ、長い間封印されていた邪龍の封印が解かれたらしくてな。王様の命令で討伐しにいくところだ。だが相手は仮にも世界を混沌におとしいれた邪龍、オレも死ぬかもしれん。だからこうして飲み明かしてるのさ」

 男の言う『邪龍』というのは、フラウのことで間違いないだろう。ということは、フラウは男に命を狙われていることになる。

「嬢ちゃん。オレが生きて帰ってきたらまた勝負しようや。今度はどちらかが潰れるまで徹底的にな」
「えっと……」

 フラウは少し困った顔をしている。男の言葉ですっかり酔いが覚めてしまったのだろう。

「お? なんだ? 怖い顔して。まさかお前も邪龍退治に参加しようとか考えてんじゃねぇだろうな? 冗談じゃねえ! 足手まといはいらねぇよ! じゃあな! 生きてたらまた会おうぜ!」

 男は大声を上げながら店を出ていった。呆然とそれを見送っていた俺とフラウの前に、店員がやってきた。

「……あの、さっきの方はお連れ様ですよね? 会計をお願いできますか?」
「はぁ?」
「会計をせずに出ていってしまわれまして……」
「いや、連れでもなんでもないですけど……あの、お会計お願いします」
「はい、ありがとうございます」

 店員に示された金額を見て俺はひっくり返りそうになった。フラウのやつ、どんだけ飲んでるんだ。足りないぞマジで……。

「あの、お金が足りな──」
「これで足りますか?」

 その途端、俺の横からフラウの手が伸びて、店員の手に煌めく宝石を載せた。

「──は? えっ、えぇぇぇぇぇっ!!! こ、これはっ!!!」
「どうかしましたか?」
「こここ、こんなものを頂いてよろしいのですかっ!!」

 恐縮する店員に、フラウは涼しい顔で答える。俺も開いた口が塞がらなくなった。一体どこからそんな宝石を取り出したのだろう! いや、でもドラゴンだから宝石くらい持っていても不思議じゃないか!

「いいんですよ。それではごきげんよう」


 フラウは優雅に立ち去ると、スタスタと歩き出した。俺は慌ててその後を追う。

「おい待てよ! いいのかあんなことしちゃって!お前の正体がバレたら大変なことに──」
「大丈夫ですよ。あの程度の宝石、そこまで値打ちのあるものではありません。それに私の正体を知っているのはあなただけです。問題ありません」
「そっか。そういえばそう……じゃねぇだろ! さっきの男の言葉聞いてなかったのか? お前命狙われてるんだぞ!」
「そうですね」
「そうですねって……もっと危機感持ってくれよ!」

 俺が詰め寄ると、フラウは小さくため息をついた。

「私はただ、ロイが困っていたから助けただけなのですが……。やはり人間というものはよく分かりません」
「それについてはその……ありがとう」
「どういたしまして」

 フラウは笑顔を見せた。

「まぁ、とにかく気をつけてくれよな……」
「はい。ところで……」
「ん?」
「あの人の言っていた『邪龍』ってなんでしょうか?」

 フラウは真剣な表情になって尋ねてきた。そういやそうだ。こいつは邪龍として暴虐ぼうぎゃくの限りを尽くしていた頃の記憶が無いんだった。

「それはだな──明日書物を漁る予定だから、その時に説明するよ」
「わかりました」

 とりあえず回避することができた。
 しかし、いつかこいつに本当のことを話さないといけない。自分がしでかした過ちと向き合ってもらわないといけないのだ。でも、まずは彼女を邪龍にとした存在を暴く、それが先だろう。
 俺は不安を抱えつつ宿屋に向かった。


 翌日。俺たちは朝早くから市場に買い物に来ていた。やはり、豊富な歴史書を読むには王宮の図書館に限る。しかし、そこは貴族しか入れない。そのため、せめて身なりだけでも整えようと、服を買いに来たのだ。

「お待たせ致しました」

 振り返ると、そこには派手な貴族風の衣装に身を包んだフラウがいた。いつもの地味な服装も良かったのだが、今日のも似合っている気がする。
 ちなみに、今回もフラウが宝石を出してくれたので、二人分の貴族衣装を難なく揃えることができた。

「よし行くか」
「はい!」

 俺たちははぐれないように手を繋ぎながら王都の中心を目指した。図書館は王族の住む王宮とは別棟になっているとはいえ、それなりに警備は厳しい。だが、俺には考えがあった。

「そこの者、止まれ」

 鉄製の鎧をまとった兵士が俺たちの行く手をさえぎる。

「俺たちですか?」
「そうだ。これより先は貴族しか入ることができん。名を名乗れ」
「チャーチル家次男のアトラスです。こっちは侍女のエミリア。……よろしいでしょうか?」
「チャーチル家のアトラス?」

 眉をひそめた兵士に近づいた俺は、その手にフラウから貰った宝石をそっと乗せた。途端に兵士の表情が変わった。

「入ってもいいですか?」
「は、はいっ! もちろんでございますアトラス様!」
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」

 俺はさわやかな笑みを浮かべてその場を離れた。そしてフラウの手を引いて小走りに駆けていく。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...