解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流

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第1章 守護龍の謎

第8話 王家の秘密を知ってしまいました

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「何が書いてあるんですか?」
「今読んでるからちょっと待ってろ」

 急かすフラウを制して、俺は本を読み進めた。そこには驚くべき事実が書かれていた。

 曰く、その昔世界には『魔王』という存在がおり、女神ソフィアが守護する人間と激しく争っていたが、ある時『ドラゴンライダー』──マリオンが現れたことによって均衡が崩れたという。ここまではフラウが語ったとおりだった。

 強力な守護龍を使役するマリオンは、女神や人間たちと共に瞬く間のうちに魔王を滅ぼし、世界に安寧をもたらした。
 だが、その力を恐れたのが今の王族の祖先であるディートリッヒと女神ソフィアだった。
 二人は神格化され民衆から崇拝すうはいされいたドラゴンライダーを排除する計画を立てる。しかし、もはやドラゴンライダーは二人が真っ向から挑んでも手を焼くような存在になっていた。そのため罠を仕掛けたのだ。

 女神は守護龍をそそのかして彼女に呪いをかけ邪龍に変えてしまった。そしてパートナーであるはずのマリオンを襲わせ、人間の街をいくつも襲わせた。
 守護龍とドラゴンライダーに対する評価が地に落ちたところで、ディートリッヒとソフィアが邪龍を封印し、英雄に成り代わった。

「まさかそんな……」

 この話が本当なら、フラウは彼女が何よりも大切に思っていたドラゴンライダーのマリオンを自分の手で殺してしまったということになる。それを知ってしまったら彼女はどう思うだろう?

「……大丈夫ですか? ロイ」

 心配そうに見上げてくるフラウ。俺は彼女を抱き寄せるとその頭を撫でてやった。

「ああ、平気だ。やっぱりお前の言ってることは正しかったよ。ドラゴンライダーは英雄だった」

 そしてフリーダに向き直る。

「こんなことが明るみに出たら王族は権威を失うだろうな。──何故俺たちにこの本を読ませた?」
「ふふっ、知識は求めたものに与えられるべきなのです」

 フリーダは悪戯いたずらっぽい笑顔を浮かべると、俺に背を向けた。

「お役に立てたようで良かったです。……それではごきげんよう」
「あ、おい」
「私は王宮魔導師──国王陛下に仕えるものです。次に会う時は恐らく敵同士でしょう……『ドラゴンライダー』さん?」
「……っ! ちょっと待ってくれ」

 俺が制止する間もなく、フリーダはかすみのように消えてしまった。何らかの魔法を使ったのだろう。

「……一体なんだったんだ?」
「ロイ……」

 残されたのは、呆然と立ち尽くす俺たちだけだった。


 ***


 フリーダは国王であるヨアヒム1世の元を訪れていた。王家の秘密を知る彼女にとって、自分の取るべき選択肢は常に複数用意しておきたかった。
 つまり、王家と復活したドラゴンライダーどちらにも近づいておき、状況を見極めて瞬時に乗り換えられるように立ち回っていたのだ。

「陛下、ご報告が」
「申してみよ」
「陛下が探しておられた邪龍を見つけました。奴と契約したドラゴンライダーの少年と一緒です」
「なんだと? 既に契約を済ませていたというのか!」
「はい、しかしその力はいまだに使いこなせていない様子。また、あのドラゴンは守護龍として覚醒しきってはおりません」
「……やはり手に負えなくならないうちに始末するのが良いか」
「ええ、それがよろしいかと」

 フリーダはうやうやしく頭を下げた。

「……ところで、例の件はどうなっている?」
「はい、滞りなく準備は整っております。いつでも実行できましょう」
「よし。打つべき手は多い方が良い。……頼んだぞ。それと、殺せるようならドラゴンライダーは殺せ。容赦ようしゃはするな」
御意ぎょい

 フリーダは再び一礼すると部屋から出ていった。

「これで全てが上手くいく……。私の計画通りにね」

 フリーダの呟きは誰にも聞かれることなく闇へと溶けていった。


 ***


 図書館を後にした俺たちは、一直線に宿に戻ってきた。
 王都にやって来てから得た情報は、俺の今までの常識をくつがえすようなもので、
 正直まだ頭が混乱している。

「ロイ、少し休まれてはいかがですか?」
「ん、そうだな」

 俺はベッドの上に腰掛けると、深くため息をついた。

「……大変なことになってしまいましたね」

 フラウが俺の隣に座ってきた。

「ああ、まさかこんなに早く俺たちの正体がバレるなんて……でもあのフリーダって人は俺たちを本気で殺す気はなんじゃないかと思う」
「どうして分かるんですか?」
「殺すつもりならいくらでもスキがあったし、そもそも俺たちを禁書庫に招き入れるような真似はしないだろ?」
「確かにそうですね……」

 俺はふと先ほどの本の内容を思い出していた。どうやらフラウも同じことを考えていたらしい。

「あの、教えてもらえませんか? あの本にいったい何が書いてあったのかを」
「なにって……フラウが前に言ったことが書いてあったよ」
「それ以上のことは? 私が封印された経緯や、マリオンのことは書かれていましたか?」
「……」

 俺は正直に話すか悩んだ。本に書いてあった内容をそのまま彼女に伝えるのは酷すぎる。少なくとも俺なら耐えられないだろう。

 しかし、フラウは真剣な表情で俺の目を見つめてきた。

「お願いします。話してくれないと……わたしはパートナーとしてロイのことを信頼できなくなります」
「……分かった。話してやるよ」

 俺は彼女がマリオンを殺したことは省いて話すことにした。それでも充分ショックが大きいだろうと思ったからだ。

「そんな……じゃあ私は……」

 案の定、フラウは目を見開いて愕然がくぜんとしていた。

「私のせいで人間たちが大勢……」
「フラウのせいじゃないさ。フラウにこんなことをさせた女神ソフィアが悪い」
「いいえ、違います。守護龍は人間を守るのが役目。……それなのに逆に人間を傷つけてしまうなんて」

 フラウは唇を強く噛み締めた。

「私はもう守護龍には戻れません。このままだと多くの人たちを不幸にしてしまいます」
「それは違う! 現にこうやって俺はドラゴンライダーをやってるじゃないか! どうしても償いたいってんなら俺も付き合うから、人助けをしよう!」
「ロイ……」
「大丈夫、きっとうまくいく」

 俺は彼女の肩に手を置いた。

「だから自分を責めるのは終わりにしろ。な?」
「……分かりました」

 彼女は小さくうなずいた。

「……ありがとうございます。ロイのお陰でいくらか気持ちが楽になった気がします」
「よかった……」

 俺は心底ホッとした。

「ただ、ひとつだけ言っておきたいことがあります」
「なんだ?」
「私はあなたを絶対に見捨てたりしません。たとえこの命に代えても、あなたのことを守り抜きます」
「フラウ……」

 俺は彼女をそっと抱きしめると、そのままベッドに押し倒した。それほどまでにこの目の前の女の子が愛おしかった。人間とドラゴンだとか、そんなことは些細ささいな問題だった。

「あっ、ちょっ、ちょっと待ってください!」
「なんだ? 今更怖じ気づいたのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「だったらいいだろ?」
「で、でもこういうことはちゃんと順序立ててというか、お互いの心の準備が出来てからというか……」
「要するに、まだそっちはその気じゃないってことか……」
「いえ……でも今は……」
「わかったよ。悪い、俺もどうかしてた」
「すみません」

 俺はフラウから離れると、再びベッドに腰掛けた。

「今日は疲れてるみたいだ。とりあえず休もうぜ」
「はい」

 フラウは顔を赤くしながら微笑んだ。
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