敵国王子に一目惚れされてしまった

伊川有子

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番外編

後日談(6)※ルイス視点

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 雪は溶けたがシンシアは看病が忙しくて一緒にドローシアに来ることはできなかった。僕は式の準備をしなくてはならないため、彼女よりも一足早く故郷へ帰る。

 ところがシンシアを連れてこなかったために一部でブーイングが起こってしまった。酷いな、僕はちゃんと帰って来たのにそれは喜ばないんだね。

「なんで義妹ちゃん連れてこなかったのー!?」

 一番うるさかったのは双子の姉であるレイラ姉さん。義理の妹ができるのが嬉しくて会うのを楽しみにしていたらしく、真っ先にブーブー言い出した。

「今年は病人が多くて抜け出せなかったんだよ。あの子は医者でもあるから・・・」
「そうなの?えー、残念・・・」

 本人は医者だとは名乗らないけれど、人を助けるためなら躊躇なく切るし縫うし薬も作る。なんでもする。貧しくて医者にかかるお金がない民たちにとって彼女はどれだけ大きな存在か。

 姉さんは諦めきれないのか母様そっくりの顔で一層大きな声で喋り始めた。

「ねえ、ねえ、どんな子なの?早く会いたいのよ!」
「もう何度も言ったよね?背が高くて、凛とした雰囲気の子だよ」
「口で言われたって本人に会わないとわかんないもの」

 じゃあ黙ってシンシアが来るのを待ちなよ。

 めんどくさいなあ、と思いつつ苦笑いをして姉さんを振り切る。

「心配しなくても式には間に合うように来るから。じゃあ用事があるから、またね」

 後ろで何か叫んでいたけれど無視してスタスタと早足で逃げた。

 久しぶりのドローシアの城に懐かしい顔をたくさん見かけたが、皆はシンシアが一緒でないことに気付いてショボンとした顔をする。
 まあしょうがない、僕がいくら皆に優しくして望まれるように振る舞おうと、シンシアはその生き様だけで皆の心をかっさらってしまう。
 彼女がドローシアへ来た当初はその珍しい出で立ちから警戒しまくっていたのに、いつの間にか皆はキラキラした目をしながらシンシアを見つめるようになっていた。一人で出かけて行ったはずなのに、帰りには後ろにゾロゾロとお供を引き連れて帰ってくる。まるでカルガモの親子の散歩のような光景は城でちょっとした名物になっていた。
 イズラ王女が居た時は僕に対する視線がすごく冷たくって(仕事だったのに・・・)、シンシアがグレスデンへ帰った時なんて無言の袋叩きにあっているような気分だった。ちゃんと結婚するよって言ったのにな。

 シンシアは自覚がないけれどとても人に好かれやすい。何か生まれつき特別なものを持っているんだろうか、グレスデンの王家の人たちってすごく特別な風格を持っていて、特にシンシアはあの性格なので否応が無しに人の注目を集める。それでいて媚びず頼らず平等で、何に対しても誰に対しても堂々とした態度で接するので自然と尊敬される。

 ずっとドローシアで良い子をやってきた僕の好感度が吹っ飛んでしまうくらいに、シンシアはただ存在するだけで敬意を集める人だった。チェスでは負けないけど、この点において僕は一生彼女に勝てる気がしない。

「おかえりなさいませ」
「ただいま、フィズ」

 騎士のフィズが出迎えて、僕は彼を引き連れて父様に挨拶するために執務室へ向かう。

「・・・シンシア王女はいらっしゃらないんですか?」

 君もか。

「彼女はまだグレスデンに居る。式の前には来るよ」

 迎えの馬車を手配しておかないとなあ。後、シンシアの代わりの医者も手配しなければ。

「そうですか」

 あ、と思い出したようにフィズは付け加えた。

「結婚式の件ですが、レイラ王女の企画が予算の20倍に膨れ上がっております」
「・・・」

 僕は立ち止まり、すぐに方向転換して今来た道を急いで引き返し始めた。















「えー!?どうしてー!?」
「だから、シンシアはそういうドンチャン騒ぎは好きじゃないんだってば」

 姉さんはムッスーと口をへの字に曲げて駄々をこねる。

「完璧なのに。一生に一度の結婚式よ?勿体ないわよ!」
「だからシンシアはそういうの嫌がるんだよ・・・」

 あまりお金をかけすぎると無駄遣いするなと怒られるのが目に見えている。僕だって式にこだわりはないしこんなことで嫌われたくない。

「僕たちは無難なもので十分だから。
豪華絢爛な結婚式は自分の時にやればいいよ」
「・・・・っ!」

 姉さんはしくしくと泣き始めた。気にすることはない、ただの泣き真似だ。

「私が前に婚約破棄したの知ってるでしょ!?どうしてそんなに酷いことを言うの!?
私はできなかったから、代わりにルイスの結婚式は素晴らしいものにしてあげようと思ってたのに!」
「気持ちだけ有難くいただいておくよ。・・・だけどライオンのパレードとかは本当にやめて欲しいんだよね」

 下手したら人が死ぬんだけど。

 レイラ姉さんの企画書に目を通す。ライオンのパレードもまずいけど、10メートルのウエディングケーキとか、ブーケトス100連発とか、どうして企画書に書く前に誰も止めなかったんだろう。このままじゃお金をかける云々の前に普通にドン引きされてしまう。

「シンシアは派手なのが好きではないし、10メートルのケーキはバランスを崩したら大惨事だし、ブーケトスも20投目くらいでシンシアがキレてしまうと思うよ」
「じゃあ私も一緒に投げるのを手伝うわ!」

 そういう問題じゃない。

 僕は大きなため息を吐いた。レイラ姉さんは結婚式に対するこだわりが半端ないし、シンシアと性格がまるで違うから理解させるのが難しい。

「もう僕がやろうかな・・・」

 大変だけど今からならギリギリ間に合う。ドレスはもうすぐ出来上がるはずだし、招待状も秋には出しているので仕事量もそんなに多くない。姉さんに懇願されて顔を立てるために任せたけど、やっぱり難しいか・・・。

 僕がそう呟いた途端、姉さんはカッと目を開き大きな声を出した。

「嫌よ!私が任されたんだから!」
「じゃあ普通にしてよ、お願いだから。シンシアの結婚式なんだから、シンシアが一番喜ぶようにやってほしいんだ」

 そう言うと姉さんは少しの間黙り込み、しぶしぶながら頷いた。

「そうよね・・・。ルイスとシンシアの結婚式だものね・・・」
「分かってくれてありがとう、姉さん。シンシアの最高の笑顔が見たいから、企画は女性の方が適してると思うんだ。頼りにしているよ」

 まあここまで念を押せば大丈夫かな。

「ええ、頑張るわ!」

 練り直してくる!と姉さんはものすごい早足で去って行った。次はまともな案を持ってきてくれ、と心の中で祈る。

 気がつけば空は赤くなっていて思わず「うわっ」と声が出た。

「早く父様に挨拶しなきゃ」
「もうすぐ陛下は執務を終えてお部屋に戻られる時間です」
「嘘!急がないと!」

 早く行かないと父様たちが部屋でいちゃつき始めてしまうかもしれない。鉢合わせるのは絶対に嫌だ。

 僕は姉さんに負けないくらいの早足で執務室へと向かった。



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