敵国王子に一目惚れされてしまった

伊川有子

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番外編

後日談(7)※ルイス視点

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 馬車が到着しきる前にシンシアは飛び出してこちらへ一直線に駆けて来た。

「ルイスっ!」

 ガッと飛び掛かられて、僕は押し倒されないように全身に力を込めてその場に踏み留まる。この子は前世が猪だったんじゃないのってくらいに突進してくるから。

「思ったよりも早く来てくれて良かった。元気だった?」
「ええ、もちろんよ」

 初めて彼女に会った時よりもずいぶん大人になったシンシア。赤茶の髪は伸びて、赤くふっくらとした唇が前よりもずっと違和感なく美しく白い肌に映える。これは決して贔屓目ではない。

「ちょうどドレスが出来たんだよ。気に入ってくれるといいけど」
「なんでも嬉しいわ。ルイスと結婚できるんだもの」

 シンシアは心の底から嬉しそうににっこりと笑う。今すぐにでもキスしたかったけど、城の至るところから感じる視線に僕は諦めて彼女を見つめるだけに留めた。仕方ない、シンシアを独占するのはもう少しお預けかな。

 仕方なく諦めたのに彼女は不思議そうな顔をして僕を見上げてくる。

「キスしてくれないの?」

 そんな目で見ないでよ、我慢してるのに。

「皆見てるけど、それでもいいなら」

 シンシアはハッとして城の方を見れば、君たちは間者かなってくらいに物陰からこっそりと僕たちを覗いている衛兵や侍女たちに気が付く。
 気付いた途端にシンシアは零れんばかりの笑顔で皆に向かって大きく手を振った。皆は友人のように接するのが恐れ多いのか、とても遠慮がちに手を振り返してくる。

「久しぶりだわ!元気そう!」
「元気だよ。皆、シンシアが来るのを心待ちにしてたんだ」

 挨拶に周ろうかと彼女の腰に腕を回して言えば「うん!」とシンシアは僕が促すより先に走って皆の元へ行ってしまい、僕は苦笑してゆっくりと彼女の後を追った。

















 廊下を歩いていると後ろからすっ飛んできた姉さんに捕まった。

「ねえねえ、義妹ちゃんは今日来るのよね?」
「もう来てるよ」
「え!?どこ!?」

 姉さんはきょろきょろと上半身ごと動かしてあちこちを見て回るが、シンシアの姿はなく責めるような目で僕を見てくる。

「どこよ!」
「今は彼女の友人といるんだ」

 軽く挨拶に周るだけのはずが彼女は親しい友人と偶然に会ったため話し込んでしまい、僕はシンシアを友人に譲って先に戻って来た。女性は一度話し出すと長いから。

 姉さんは唇を尖らせて文句を言う。

「えー?」
「そのうち来るよ。もう城に居るんだから」
「そうよね・・・もうすぐ会えるのよね」

 興奮と少しの緊張でソワソワしだす姉さん。

 もう部屋に戻っていいかなあと思ったけれど、姉さんはシンシアに会えるまで僕を離してくれそうになかった。

 何するでもなくぼーっと無言で待ち続けること10分、廊下の奥からやって来たシンシアの姿に姉さんの体が飛び上がる。

「義妹ちゃんっ!」

 シンシアは姉さんの姿を一目見て目をぱちくりさせた。あまりにも母様に瓜二つだから驚いている。身内の僕から見てもほとんど同じに見えるくらい似てるから無理もない。

「レイラ王女でいらっしゃいますか?」
「そうよ!ようやく会えたわー!」

 むぎゅっと音がしそうなほどシンシアを抱き潰す姉さん。まあ姉さんの細腕ならシンシアはあまり痛くないだろうけど、困っているのでさり気無く引き離した。

「グレスデンのシンシアと申します」
「姉のレイラよ。ふふっ、妹ができて嬉しいわ」
「私も長女なのでお姉さんができて嬉しいです」
「よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」

 もういいかなあ、そろそろシンシアを返して欲しいんだけど。挨拶も終わったし部屋に引き上げようかな。

「ねえ!よかったらドレスの試着しない?細かい調整もしなきゃいけないし、一度袖を通して欲しいの」
「ええ、もちろ―――」
「ちょっと待って」

 さすがにドレスの試着ともなると時間がゴッソリと奪われてしまう。ここはシンシアが来るのを誰よりも待ってた僕を優先してもらってもいいでしょ。

「試着は明日にできない?少しはシンシアとゆっくりさせて欲しいな」
「えー!?ルイスは二か月前にも会ったばかりでしょ!?」

 思った通り姉さんは唇を尖らせて文句を言う。長いんだよ、その二か月が。

 どう説得しようかなと考えていると、僕が口を開くより先にシンシアが前へ出る。

「お誘いは嬉しいのですが、私もルイスと会えるのを楽しみにしていたんです。ドレスは明日以降に着ますので、今日はルイスと2人きりになってもいいですか?」

 すっごく直球。

 シンシアは目上の人間にもきっちりと言いたいことは言う性質だから当然なんだけど、そういうのに慣れていない姉さんはパチパチと瞬きを何度か繰り返した。普通の人は笑顔で頷くだけで言い返したりして来ないから。こういう所がシンシアが皆に一目置かれる所以だ。

「まあ・・・ラブラブなのねえ」
「はい、大好きなので」
「しかもとっても積極的」

 正直すぎるシンシアに姉さんも思わず肩を揺らして笑った。

「グレスデンの方ってやっぱり情熱的な人が多いのかしら」
「そうかもしれません。ただ、私はちょっと極端かも」
「シンシアの場合は性格もあるだろうね」

 ちょっと愛情表現をすれば、じゃあ自分はもっと!と対抗してくる。なにもここで負けず嫌いを発揮しなくてもって思うくらい何に対しても対抗するので、僕としてはいい思いをさせてもらっている。

「ルイスはちゃんと大事にしてくれてるのかしら?好きだって言葉にして言われてる?」
「はい、もちろんですよ。ルイスも結構はっきりしてる方なので」
「そうなの?意外~。うじうじして告白するのもどんくさそうなのに」

 精一杯微笑んでいるシンシアの頬が引き攣る。うわあ騙されてる!って思ってるんだろうなあ。相変わらずシンシアは何を考えているのかわかりやすい。

 姉さんとは双子だけど、母様と同じく超絶鈍い系の人種だ。猫かぶったって全然バレない。性格が違うのでそんなに一緒にいることもなかったからバラす必要もなかったし。

「じゃあそろそろ失礼してもいいかな」

 シンシアの手を握って彼女の目を見つめれば、彼女も僕の視線に気づいてニコリと笑って見つめ返してくる。

 鈍い姉さんもさすがに白旗を上げた。

「分かった、邪魔して悪かったわ。ドレスはまた明日にしましょうね」
「ありがとう」

 姉さんと別れ「行こう」とシンシアの手を引き、僕の部屋まで導くように彼女を連れていく。1歩部屋の中に踏み入れればシンシアは感嘆の声を上げた。

「わあ、懐かしい。全然変わってないのね」
「そうだね。あれから特に模様替えとかしてないからね」

 シンシアがドローシアに滞在したとき、僕たちはこの部屋で一緒に暮らしていた。たくさんの思い出が詰まった場所だ。
 もう少しでこの慣れ親しんだ部屋ともお別れになるけど寂しさは感じない。グレスデンで彼女との新しい生活が待っているから、未来への期待の方がずっと大きい。

「あの時はびっくりしたわ。いきなり会ったばかりの人と同じ部屋に寝泊まりすることになって」
「僕もだよ。まさか一目惚れした子といきなり一緒に暮らすなんて思ってなかった」

 それは嘘。

 本当は母様なら同じ部屋に泊まりなよって勧めてくるだろうなと思っていた。あんなに強引に決められるとは思っていなかったけど、ある程度は想定内だったしそうなるように誘導した面もあった。
 だけどそれは彼女には一生の秘密。だって君に好きになってもらうのに必死だったなんて、ちょっとカッコ悪いし恥ずかしい。君にかける言葉のひとつひとつに頭を悩ませて、言葉遣いさえ反応を見ながら手探りでやってたなんて教えたりするもんか。

 苦労して努力して、ようやく手に入れたんだから。

「もう待てないんだけど」

 部屋を眺めているシンシアを両手で捕まえて、耳元に囁く。彼女は肩を小さく揺らして笑い、頷いた。

「私も待てない」

 順序も無視していきなりシンシアの唇に噛みつくようなキスをする。彼女はちゃんと僕が教えたように口を開いて僕を受け入れた。

 こういうことだけには何故か従順。お好きなだけどうぞ、抱いてくれて嬉しいって態度だから、僕を寝かせる気ないの?っていつも困ってしまうくらい。
 もちろんシンシアは僕を煽ってるつもりなんてない。ほんと、恐ろしい子。

 視界の端にベッドが映ったし、そろそろ―――。




 突然爆発音のようなものが響いて鼓膜が悲鳴を上げた。扉が大きく開いて部屋の中へ飛び込んできたのは・・・。

「ルイスー!」

 ―――目からボロボロと大粒の涙を流している母様。

 シンシアは石のように固まってしまい完全に動かなくなった。僕は思わず頭を抱える。
 なんてタイミングの悪さ。っていうか鍵壊されてるんだけど。

「ルイスー!聞いてくれよー!・・・ってあれ?シンシア!?」

 母様はシンシアの姿に気づいてハッとした。

「じゃあシンシアでいいや!借りてくぞ!」

 有無を言わさずシンシアの腕を掴んで拐っていく。固まっていた彼女はいとも簡単に母様に手を引かれ、あっという間に二人の姿は遠くへ消えていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」

 僕はしんと静まり返った部屋で一人怒りを抑えるために笑顔で震える拳を握る。

 ―――どいつもこいつも邪魔ばっかり!
 この状況でおあずけって酷くない?悪意がないのはわかってるけどちょっとは怒ってもいいよね?

 自分を落ち着けるために何度か深呼吸を繰り返したが一度荒立った精神は元に戻らず、手で目元を覆いながらしばらくその場で立ち尽くした。




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