毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二十四章 機能家族

第503話 こどもパーク

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 ◆

 今から48年前。西暦2272年。
 スイスのとある街で、神さまに祝福された男の子が産まれました。
 彼はとっても賢い、ギフテッドだったのです。
 一歳を過ぎる頃にはお喋りができて、本が読めて。
 二歳になる頃には文字を書けました。
 三歳になる頃には計算もお手のもの。
 好奇心が強くって、本を一日中読みふけることもあれば、お家の庭園で虫を捕まえられるまで追いかけ続けることもありました。
 一度、見聞きしたものは完璧に覚えてしまって、お父さんとお母さんの方がびっくりするレベル。

 お母さんは考えました。

「あの子の成長が早過ぎる。このままじゃ、学校で孤立してしまうんじゃないか」

 お父さんは考えました。

「あの子は優しい。自分より幼い子相手でも、話を合わせることもできるだろう。でもそれで、あの子は幸せだろうか?」

 両親は考えました。

「我が子と同じくらい頭のいい、友達を作れるようにしよう」

 ◇

 両親は、5歳になった男の子の為に卵型機器カプセルをプレゼントしてあげました。
 これは中に入ると、仮想空間へ連れて行ってくれるのです。
仮想空間の中で両親は男の子に、『こどもパーク』と呼ばれる、世界中の子供たちが安心して遊べる遊園地へ案内しました。
 遊園地の中は幼い子供たちで溢れかえっています。

「ここで楽しくお喋りができる、お友達を見つけられたらいいね」

 お母さんはゲートの前でそう言いました。
 ゲートの先は子供の世界。お母さんは中に入れないのです。

「楽しんでいらっしゃい」
「うんっ!」

 男の子は遊園地の中へ飛び込みました。

『イラッシャイマセ、ココハ楽シイこどもパーク。心ユクマデ楽シンデネ』

 遊園地に入るとまず、カタコトで喋るウサギのぬいぐるみが出迎えてくれます。
 ウサギは子供たちを見守ってくれるスタッフです。

「色んな子と遊びたいんだ」
『カシコマリマシタ。デハ、協力型ゲームハイカカデショウカ?』
「じゃあ、そこに連れて行って!」

 男の子はウサギの案内で、仲間を募って魔王を倒す、冒険ゲームができるお城へ辿り着きました。

 お城の中で男の子は、魔法使いのジョブを選びました。
 とんがり帽子を被って、黒いローブを羽織って、魔法の杖を持って。お城のてっぺんにお姫様を閉じ込めている、悪いモンスターをやっつけるのです。

「ファイアーッ!」

 魔法の炎を操って、男の子はヘビのモンスターもコウモリのモンスターも、見上げるぐらい大きな一つ目モンスターも、たった一人で倒してしまいました。
 お城の奥へ進むことを拒む謎解きも、男の子は簡単に解いてしまいます。まるで最初から答えを知っているかのように。
 男の子の一緒にお城に入った子供たちは、また一人、また一人と離れていってしまいました。
 皆んな口を揃えて「つまらない」と言って。
 お城の真ん中ぐらいの高さに着く頃には、男の子はひとりぼっちに……。

『進マなイのカ?』

 いいえ、いいえ。もう一人残っていました。
 子供の姿をしたアバターを使っていないから気付くのが遅れてしまいましたが、四角いカードが一枚、男の子に向かって喋りかけていました。
 このカードはカプセルを使っていない子供が、こどもパークの中で表示される姿です。カプセルどころか、バーチャルゴーグルもホログラムパソコンも使っていません。
 音声は不鮮明でノイズだらけ。カードに描かれた絵の編集もできないぐらいスペックの低い、ノートパソコンを使っている子のものです。

「……進むっ!」

 それでも男の子は他にも子供がいることを知って、目を輝かせ、うきうきでお城の奥へ進んで行ったのでした。
 あっという間にお城のてっぺんに辿り着いた男の子は、お姫様が閉じ込められたお部屋を封じている、魔王へ戦いを挑みました。

「えいっ! えいっ!」

 でも、どうしてでしょう。
 何度、魔法の炎をぶつけても、魔王はひるみもしません。

『たった一人で何ができる!』

 魔王は高笑いをして、雷を落としてきます。
 男の子は慌てて魔王の部屋から逃げて、廊下で一息つきます。

「どうして魔法が効かないんだろう。剣じゃなきゃ倒せないのかな?」
『あノ魔王といウやツ。背中ニ目があッタ。あれが弱点ジャないカ?』

 男の子の側に浮かぶカードがノイズだらけの音声で言います。

「そうか! その目を攻撃しないと倒せないんだ! ……でも、どうしよう」

 魔王の背中を攻撃するのは、大変なことです。攻撃を当てるには後ろに回って狙わないといけませんが、魔王は男の子から顔をそらしてくれません。
 一人では、倒せないのです。

「ねぇ、君は何のジョブにしたの?」

 男の子はカードに問いかけました。

『オマエと同ジだヨ』

 カードは答えました。男の子はパッと笑顔を浮かべます。

「じゃあ魔法使いなんだ! お揃いだね!」
『…………』

 帽子からローブから杖まで、きちんと装備を揃えて、誰が見ても魔法使いに見える男の子。
 模様さえ描かれていない薄っぺらなカード。
 それはお家にある設備やこどもパークのチケット(課金)代の差からくるものだと、男の子は知りません。

「ねぇ! オレが囮になるから、君が魔王を倒してよ!」
『……? どウしてダ? それハ、オマエが一番やりたいことダろウ?』
「オレはどっちでもいいよ? オレは君とクリアできるんなら、囮でも何でもやるよ!」
『…………。そうカ』

 そうして男の子とカードはもう一度、魔王の部屋へ入ると、男の子は注意を引き付け、カードは後ろに回って、魔王へ風の魔法を同時に放ちました。

『ぐぁああああ』

 避けることができず、背中の目玉を攻撃された魔王は、断末魔をあげて倒れます。
 2人の連携で見事、魔王を倒すことができたのです。

「やったぁ!」

 勝利のファンファーレが鳴り響き、2人を祝福します。

「楽しかったね! オレはテオって言うんだけど、君の名前は?」
『…………。名……ジョ、……ザザッ、ザザザッ……。ダ』
「あれ? ごめん、よく聞こえないや。でも“ジョ”って言ったよね? じゃあ、『ジョーさん』で!」

 冒険をクリアしたテオは、ジョーさんのカードを手に取ると、お姫様のご褒美という報酬も忘れ、早々にお城を出てこう言います。

「ねぇジョーさん! オレと友達になってよ!」
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