毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二十四章 機能家族

第514話 青い血

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 テオが青い色をした“血”とやらの調査を始めて一週間後。
 「今日はフランスのおっきい大学施設を使うんだ~っ」と上機嫌な様子で卵型機器カプセルの中に入り、数時間後に出てきたテオは……頬を膨らませ眉間にシワを寄せ、あからさまに不機嫌な顔をしていた。

「テオ? どうしたよ」

 夕飯の支度の手を一度止め、徐福はぶすくれ顔のテオへ歩み寄る。

「……オレさ。水銀と硫黄の血を調べるのに、血をスキャンして読み込んだデータを仮想空間に持ち込んでいたじゃん?」
「あぁ。現実リアルの施設に入る訳にはいかないからな。物理的な距離の問題もあるが、名義を偽っていることが一発でバレる」

 テオが大人として振る舞う時に使っている『パラケルスス』は、30歳という設定だ。下手に若い設定では悪目立ちするとして徐福が勧めた年齢設定(それでも若過ぎると思う事があるが)で、仮想空間でのアバターもその年齢設定に伴った外見をしている。
 つまり現在8歳のテオでは、現実リアルではどう足掻いてもパラケルススとなる事ができない。

「それがどうしたよ」
「……仮想空間の大学を見学に来てた、『ミシェル』って奴がさぁ。オレが実験室で頑張って分析作業しているの見て馬鹿にしてきたんだけどっ!」
「馬鹿に?」
「うんっ! 『現実にデータがないものをバーチャルに読み込んでも、フィルターがかかって再現できないだろうに。阿呆だな』みたいなこと言われたっ!」

 そのまま床を地団駄し、全身で苛立ちを表すテオ。
 尤も体重がさほどないテオが床を踏みつけても、たんったんっと乾いた音が鳴るだけで、迫力も何もないが。

「そのミシェルという奴の言う事……。一理あるね」
「えぇ~っ!?」

 あっさり同調する徐福に、テオは目を剥いて抗議の声を上げる。

「仮想空間で再現できるのは、基本的に既存のものよ。データのない未知を調査するには全く向いていない……とまでは言わないが、“既存”のものとして扱える程にデータを読み込ませるのは非効率的かもしれないね。人工知能の演算にも限界はあるのだし」
「むぅ~っ!」

 徐福の見解に、更にてしてしと地団駄をするテオ。

「が、アタシは今のテオのやり方が最善だと考えるよ。“血”とやらは危なっかしい代物ね。その点、仮想空間なら安全に研究ができる。既存物でない点は読み込みを繰り返せば問題ないよ。手数で精度をあげればいい」
「……つまり、もっと根気よくやれってこと?」
「身の安全には変えられないよ」
「うぅうう……。……シャワー浴びてくる」

 テオはまだ何か言いたげであったが、やがて肩を落とし引き下がり、バスルームへ向かっていった。
 徐福は気落ちしたテオの背を見送った後、鍋の火を弱めながら、

(変に影響されなければいいが)

 静かにそう案じた。
 しかし徐福の懸念は現実のものとなり、後日、テオが買い揃えた実験器具がリビングを占領し、テオはそこで研究に邁進するようになってしまったのだった。
 そうしてテオが、研究室となってしまったリビングに篭るようになってから、一月後。

「水銀は水銀で! 硫黄は硫黄だったよ!」
「は?」

 夕飯時のダイニングにて、テオは徐福にそう報告してきた。
 何の脈絡もなく告げられた徐福は、皿をテーブルに並べながら首を傾げる。

「純度も濃度も高くって、びっくりしちゃった!」
「意味がわからないよ。順を追って説明しろ」
「えっとねぇ。2人の血はね、2人が取り込んだ賢者の石の成分を濃縮した感じだったんだぁ」

 話しながら、テオは研究結果を書き込んだレポートを徐福に手渡す。徐福は皿の配置を終えてからそれを受け取り、上から下までじっくりと読み込んだ。
 そして血には体積に対して異様に濃度が高い毒が含まれている事を知る。水銀は水銀、硫黄は硫黄とそれぞれはっきり成分が異なっているのも特徴的だ。見た目は丸切り同じ、青い液体だと言うのに。

「2人の特性がそのまま出ているって事はさ、純水みたいに不純物がない、それでいて対象の特性を反映できる物体でなきゃ血にならないって事だよね。例えるなら鏡、みたいな? 難題だ~」
「そんなもの、現実に存在するのか?」
「実際にあるのは事実だよ? 水銀と硫黄の血を調べた結果がこれだもん」
「……言い方を変えるよ。再現できるのか?」
「頑張って研究するっ! なかったら造ればいいからね!」
「……。そうか」

 拳を振り上げ、「頑張るぞ~!」と意気込むテオに、徐福は諦観が混じった溜め息を吐いた。
 ここで小言を伝えたところで、テオは止まらないだろう。そして彼の頭脳と行動力を持ってすれば、実現できてしまうことだろう。
 そんなビジョンが何となく見えてしまったから。

 そうしてテオが青い血の研究に没頭し始めから、一つ年を超えた西暦2281年。
 様々な大学や研究施設を仮想空間で渡り歩き、何故か高確率で鉢合わせするミシェルなる人物の指摘に不機嫌になりながらも――テオは見事、青い血の元となる液体の開発に成功した。
 テオ曰く対象の血液型に関係なく輸血が可能な、人工血液を参考にしたのだという。試しに完成した液体を恐る恐る水銀と硫黄のいるフラスコに滴下してみても、拒絶反応等はなし(そもそも大抵の物体は溶かしてしまうので、害にならないと思われるが)。
 徐々に量を増やしていき、フラスコの持ち手まで青い血で満ちていった後、

『増やせたよ』
『増やせたわ』

 フラスコの中の卵が、増えた。
 水銀と硫黄、各々の側に一つずつ、寄り添うように浮かぶ新しい卵。
 それを見たテオは歓喜し、ダイニングにいた徐福の手を引っ張り、まるで蛹から孵った蝶を見せるかの如く興奮気味に報告をした。

「やった! やったよ、ジョーさん!」
「あぁ、よかったな」
「あ! そうだ、挨拶しないとっ。こんにちは! 初めまして!」

 しん……。
 しかし新しい卵は、テオが話しかけても一切の反応を示さなかった。無精卵、いや鉱石のように、青い血の中に漂うのみ。

『そのままだと、ただの血の塊だ。ワタシ達のようにはならない』
『どうやったらボク達のようになるのか、ボク達自身もわからないのだけれどね』
「むむむ! また試行錯誤しなきゃっ!」

 喜ぶのも程々に、テオはまた新しい研究へと移る意思を固める。
 そんなテオとフラスコの中の卵を交互に見詰めながら、徐福は、

(……これは単為生殖に入るのか?)

 などと、卵の増殖が現実の生殖に当てはまるのかどうかをぼんやりと考えていた。
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