毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二章 初遠征、菌床処分

第30話 人造人間《ホムンクルス》

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 バチンッ!!

「いっっで!」

 ペガサス教団の男をワインルームの床に押さえ付けていたタリウムだが、押さえ付けていた男が手首に隠し持っていた小型スタンガンの電流(人間なら失神しているレベル)を喰らってしまい、反射で手を離してしまう。
 その隙にタリウムの下から脱した男はワインルームの奥へと走り、吹き飛ばされ床に転がっていた剣を取る。

「おいおい、なに手ぇ離してんだタリウム」
「流石に電撃喰らったら怯みもしますって!」

 みすみす自由にさせてしまったタリウムに呆れつつ、ニコチンもワインルームに足を踏み入れた。

「ったく。おい狂信者、〈根〉の居所知ってっか? 教えてくれんなら見逃してもいいぞ」

 問いかけても男は「ふーっ、ふーっ」と荒い呼吸を繰り返すばかりで答えない。
 揺れる蝋燭の火しか光源の中、剣を支えに立ち真っ赤な菌糸にまみれた彼の姿は、まるで手負いの獣のようだ。

「お前ぇ大分症状進んでんな。やけに理性的だが、ステージ4か? いっそこの場で5に進行してくれりゃ、気兼ねなく吹き飛ばせるんだがな」
「背徳者、背徳者……。自然の摂理に反する大罪人ども。俺は知っている、知っているんだぞ」

 ぶつぶつと、呪詛でも唱えるかのように男は言葉を紡ぐ。

「――《人造人間ホムンクルス》!!」

 そして次の瞬間、元より菌糸が生えていた胸元だけでなく背中からも真っ赤な菌糸を男は生やし、まるでカゲロウの羽のように左右に伸ばした。
 ピクリと、ニコチンが片眉を潜め険しい顔をする。

「げぇっ! 先輩がフラグ立てるから本当にステージ5になったっスよ!? あ、でもこれで処分が……」
「……。タリウム、あの気狂い生捕りにするぞ」
「えっ」

 ニコチンは降ろしていた拳銃を構え直し、男に銃口を向ける。
 ただし銃口で輝く白い発光体は扉に向け無遠慮に放っていた時と比べ、ずっと小さい。

「今もぶつぶつ喋っているんだ、まだ理性あんだろ。とっ捕まえて根こそぎ吐かせる」

 それは何故か。
 理由はシンプルだ。

人造人間ホムンクルス! 人造人間ホムンクルス! 産まれながらの背徳者! 大自然の異物めぇっ!」

 彼が、ペガサス教団の一味とはいえ単なる民間人である筈の男が、ウミヘビを《人造人間ホムンクルス》と称したから。

「そうとも! 俺たちゃ完全無欠の人工物、人造人間ホムンクルスだ! が、そいつァいち狂信者が知っていていい情報じゃねぇんだよ!!」

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!
 出力を落としたニコチンの銃撃が男を狙う。しかし弾は菌糸の端を掠めただけで、床を機敏に這う彼の身体に命中する事はなかった。チッとニコチンは舌打ちをする。
 男の言う通り、ウミヘビの正体は人造人間ホムンクルス
 人の手が入っていない所など何処にもない、受精を介さずに作られる、自然には産まれようがない究極の人工物。一人につき一つ宿す毒素も異様に高い身体能力も尋常ではない再生能力も、何なら見目の良ささえで与えられたものだ。
 その事実を知るのはオフィウクス・ラボのクスシヘビの他、国連の上層部など極小数。そうでなくてはおかしい、極秘事項。のはずだった。

「ラボの機密をクスシの誰かが漏らしたって事スかね!?」
「それか政府ないし軍の上層部と繋がっているかだ。それより何より確認せにゃならんのが、《レシピ》を把握しているかどうか!」

 ウミヘビは男性しか存在しない。何故か。億が一でも『勝手に増えないよう』制限する為だ。
 身体が女性である場合、同種の精子がなくとも単為生殖してしまう可能性が億分の一といえど残ってしまう。それを防ぐ為に男性の身体しかウミヘビには用意されていない。
 だが人造人間ホムンクルスの作り方が記された《レシピ》があれば制限など関係なくウミヘビを作れてしまう。それはラボも国連も警戒している事項だ。

「いち民間組織に《ウミヘビ造り》なんぞされたら厄介極まりないぞ!!」

 《レシピ》が流通していた場合、小国一つ平気で滅ぼせる生物兵器を、此方の預かり知らぬ場所で作られてしまう。それは何としてでも避けなくてはいけない。
 ニコチンは今度は的確に男の菌糸を次々に撃ち抜き、次いで胴体にも撃ち込む。しかしそこでタリウムに腕を掴まれて発砲を止められた。

「先輩撃ち込み過ぎっス! 相手が中毒死しますよ!?」
「だ~っ! 生かさず殺さずとか面倒過ぎる! 水銀呼ぶぞ、水銀!」

 ◇

『教団の人間がステージ5まで進行! しかもラボの機密を知っているみたいだ! つぅ訳で水銀、こっち来い! お待ちかねの生捕りチャレンジが出来るぞ!』
「ボクに命令しないで頂戴な。そもそも何処にいるのよアンタ達」
『西館の地下の……。なんかワインがある部屋っス!』
「全く役に立たない情報寄越さないで」

 【処分】が終わりひと段落していた水銀の腕時計型通信機から届く、ニコチンとタリウムの声を聞いて呆れる水銀。
 これでは地下にいること以外わからない。

「ワインのある地下室といえばワインルームじゃないでしょうか? なら階段を下がって左手、奥から二番目の部屋かと」

 すると通信を聞いていたセレンが彼らのいる部屋を当ててみせた。

「暗記しているのか、凄いなセレンは」
「私は記憶力がいいのでっ」
「まぁ西館に向かったらドンパチしているのが聞こえるだろうから、分かると思うけどね」

 言いながら、フリッツはフェイスマスクの額に手を当てて重いため息を吐く。

「それにしても教団に聞き出さなきゃいけない事が出来てしまったね。直ぐに捕えなくては。水銀くん、ここはどうか助力をお願いしたい」

 しかしため息一つで頭を切り替えたフリッツは水銀の方へ向き直ると、両手を合わせ頭を下げ、祈りを捧げるように嘆願した。

「君の力が、必要だ」

 クスシはフェイスマスクで顔を覆い隠しているので表情を伝えられない。故にこうして言葉で身体で、最大限の気持ちを伝えているのだ。
 そしてその嘆願を無碍にするほど、水銀は薄情ではない。

「『お願い』、ね。仕方ないわねぇ。けどボクが向かえばここにはセレンだけになるわ、それで平気?」
「僕にはアイギスがある。セレンくんにはモーズくんさえ守って貰えたらそれで凌げる。大丈夫だよ、心配有難う」
「そ。じゃあ遠慮なく」

 トントン。
 水銀がヒールの先で軽く廊下の床を叩く。
 するとヒールの先から銀色の液体金属が溢れ出し、形を整え、小さなサーフボードに似た姿となった。
 その上で水銀が身を任せれば、ボードは廊下を滑るように動き出し、彼は瞬く間に移動していってしまう。

「……とんでもない汎用性を持っているな、水銀さんは」
「元が液体金属だからか変幻自在なんだよねぇ。ウミヘビの中でも唯一無二だよ」

 唖然とするしか出来ないモーズに、フリッツも「凄いよね」と同意してくれる。

「さて、僕らも急ごう。教団も気掛かりだけど〈根〉も放っておけない。〈根〉を放置したままアクアリウムの中に居ると、異物を排除するかのように菌糸や感染者が延々に襲ってきて、すごーく危険だからね。手早く東館を確認するよ」
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