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第三章 不夜城攻略編
第41話 《塩素(Cl)》
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長らく放置された使われてない倉庫、という設定で形作られた仮想空間。
床はコンクリート、壁はプレハブ、天井はトタン屋根な倉庫に陳列しているドラム缶ラックには、ぎっしりとドラム缶が隙間なく並べられていて視界を遮っている。
ラックの物陰に転移したモーズは、そのドラム缶のラベルには引火性や毒性を示すラベルが貼られているのを見て、この倉庫は危険物保管倉庫をモチーフにしているとわかった。
大きく深呼吸してみれば、薬品の臭いまで感じられる。
(……うん? マスクがない)
ざっくり辺りを見回し終えた後。モーズは自分がマスクをしていない事に気付いた。顔に触れると、素肌に触れる。よく見たら服装も今日着てきた物と違う。
白衣こそラボの制服である裏地が蛇柄の特徴的な物だが、中に着ている服はシンプルな白いシャツにズボン。遠方との会議などで使うバーチャル空間、それを利用する際のデフォルトアバターのような格好になっていた。
(そうか。このシミュレーターは生体情報は読み込めても無機物までは読み込めない。だからマスクはないし、服装も異なるのか)
それにしても非常にリアルな仮想空間である。
手足を動かしても現実と変わらない程に違和感がなく、指先で腕を突けば触感もあり、空気の流れ、閉められた倉庫の扉から吹いてくる隙間風さえ感じる。
映像も歪みや遠近の不自然さは存在せず、倉庫だけの空間とは言え、破綻がない。高度な仮想空間だ。
『モーズ~。聞こえるか~?』
じっくりと観察していた所に、耳に付けられていたワイヤレスイヤホンからフリーデンの声が聞こえた。
どうやらこのイヤホンは、仮想空間の外にいる者と会話できる通信機器装備のようだ。
「あぁ、問題なく聞こえる」
『よかった~。この仮想空間、めちゃくちゃリアルだろ? 痛覚はほぼ感じないよう調整してるけどさ、血が出たりする演出はあるから精神的に辛くなる事もある。キツくなったら直ぐにギブアップしろよ?』
「気遣い感謝する、フリーデン」
モーズはフリーデンに礼を述べつつ、左腕の袖をめくって一の腕を露出する。
その腕には、モーズのアイギスが体表を悠々と泳いでいた。
「では早速、アイギスの扱いを……」
バキンッ!
大きな金属音と共に、モーズの背後にあったラックが破壊され、崩れ落ちる。
音が聞こえたと同時に退避行動を取ったので、モーズがラックの崩壊に巻き込まれる事はなかったが、それにより視界を遮る物がない広場に出てしまった。
「そんな薄っぺらい障害で、俺から隠れた気になるなよ?」
ラックを破壊した張本人、両端に白いナイフが付けられた長い鎖を持って広場に仁王立つクロールが、不敵に笑う。
「へっ、そんな面してたんだな雑魚。結構な間抜け面だ」
彼に斬られたラックは……いや斬られたのとは違う、溶かされたのだ。黄緑色の靄に覆われたナイフが切ったラックに、綺麗な切断面はなく、ぐじゅぐじゅと溶け崩れている。
急速な、腐食。
(塩素の毒性がそのまま出ているな。しかしあの鎖……。分銅鎖というやつか? 尤も先端には分銅ではなくナイフ。刃は付いていないようだが、随分と殺傷力の高い作りをしている)
「黙ってねぇで何か言ったらどうだ!!」
クロールを凝視したまま顎に手を当てて考え込むモーズに苛立ち、クロールは容赦なく鎖に付いたナイフを放った。
モーズに向けて真っ直ぐ飛んでくるナイフ。これなら躱せるか、とナイフが銅に刺さる前に身をよじったがしかし、クロールが“くん”と手元でナイフと同じく黄緑色の靄を纏った鎖を操作すれば、モーズの身体はいとも簡単に上半身と下半身に両断された。
鎖が纏っていた腐食力によって、溶解されたのだ。
それによって死亡判定を受けたと同時に、モーズの身体は光の粒子となってその場から消え、倉庫の舞台はそのままにラウンドがリセットされ初期位置とは異なる場所に再転送される。
そこもまた、ドラム缶ラックの物陰だ。
『モーズ! 大丈夫か!?』
「凄いな。あの鎖、目で追えなかった」
『クロールの抽射器だ。攻撃範囲は広いしあちこち絡ませる事で応用出来るし、自分の毒素を纏わせて、物理法則を無視して自在にコントロールも出来る。アイギス使えなきゃまともに相手できないぞ!』
水銀が操る液体金属のようだな、とモーズは素直に感心する。
「フリーデン、アイギスを扱うコツは何だろうか?」
『コツ? うーん、やっぱ〈イメージ〉か? アイギスは神経の電気信号を読み取って従ってくれるんだけど、その信号って脳から出るだろ? 声をかけるのも大事だけど、なるべく具体的な想像をして伝えるのがいい』
「そうか。イメージ……、動くアイギスのイメージ……」
『けど一朝一夕でこなすのは無理が……っ!』
ドスッ!
モーズの胸の中心に、ナイフが突き刺さる。クロールの鎖ナイフが、背後にあるドラム缶ごとモーズを貫いてきたのだ。
「ハッ! また、なァんも出来なかったな」
再びラウンドがリセットされ、モーズは今度は倉庫の隅っこに転送される。
『モーズ!』
「なかなか難しいな。想像力など、私に一番欠けているだろう能力なのだし、フリーデンやフリッツのように分離して扱うのは厳しそうだ」
『初っ端から分離しようと目論んでいたのかよ。アレ上級者向けだから今はやんなくていいって』
「そうなのか?」
フリーデンもフリッツも当たり前のように身体からアイギスを分離して操っていたので、モーズはてっきりそれが普通なのかと思っていた。
『まずは触手を一本! 手から出るよう想像してみる! えーと、そうだなぁ。何か高い所にある物を見て届かないな~、届きたいな~って感じの場面を想像して、アイギスに手の延長線として触手を出して貰う!』
「具体例がわかりやすくていいな。いきなり動くクラゲを思い浮かべるのではなく、手の延長線……。何かを取って貰う……」
フリーデンの教えをぶつぶつと復唱しつつ、モーズは左腕の袖を捲り上げる。
するとアイギスはにゅるりと、彼の左手の甲に向かって元気よく泳いだ。
「よし。では、行こう」
▼△▼
補足
塩素(Cl) 別名、クロール。
漂白剤、消毒剤、塩化ビニールなど身近な物の材料に扱われる元素。実は人体必須元素のうちの一つ。
腐食性がありチタンを除く金属をじわじわ溶かす。
所謂【混ぜるな危険】を実行すると簡単に塩素ガスが発生し、人を死に至らしめる危ないやつ。手動で混ぜなくとも排水溝の中で勝手に混ざってガスを出したりする。
ちなみにアルカリ洗剤で掃除しながらレモン(酸性)齧っていても口内でガスが発生するぞ! 反応しやす過ぎない? 気を付けよう。
外見
気体が黄緑色なことからギリシャ語で黄緑色から名前の由来がきている。ので髪は黄緑色。
固体だと黄白色ので瞳は黄白色となっています。
あと特徴として気体が重い。重い(意味深)。
床はコンクリート、壁はプレハブ、天井はトタン屋根な倉庫に陳列しているドラム缶ラックには、ぎっしりとドラム缶が隙間なく並べられていて視界を遮っている。
ラックの物陰に転移したモーズは、そのドラム缶のラベルには引火性や毒性を示すラベルが貼られているのを見て、この倉庫は危険物保管倉庫をモチーフにしているとわかった。
大きく深呼吸してみれば、薬品の臭いまで感じられる。
(……うん? マスクがない)
ざっくり辺りを見回し終えた後。モーズは自分がマスクをしていない事に気付いた。顔に触れると、素肌に触れる。よく見たら服装も今日着てきた物と違う。
白衣こそラボの制服である裏地が蛇柄の特徴的な物だが、中に着ている服はシンプルな白いシャツにズボン。遠方との会議などで使うバーチャル空間、それを利用する際のデフォルトアバターのような格好になっていた。
(そうか。このシミュレーターは生体情報は読み込めても無機物までは読み込めない。だからマスクはないし、服装も異なるのか)
それにしても非常にリアルな仮想空間である。
手足を動かしても現実と変わらない程に違和感がなく、指先で腕を突けば触感もあり、空気の流れ、閉められた倉庫の扉から吹いてくる隙間風さえ感じる。
映像も歪みや遠近の不自然さは存在せず、倉庫だけの空間とは言え、破綻がない。高度な仮想空間だ。
『モーズ~。聞こえるか~?』
じっくりと観察していた所に、耳に付けられていたワイヤレスイヤホンからフリーデンの声が聞こえた。
どうやらこのイヤホンは、仮想空間の外にいる者と会話できる通信機器装備のようだ。
「あぁ、問題なく聞こえる」
『よかった~。この仮想空間、めちゃくちゃリアルだろ? 痛覚はほぼ感じないよう調整してるけどさ、血が出たりする演出はあるから精神的に辛くなる事もある。キツくなったら直ぐにギブアップしろよ?』
「気遣い感謝する、フリーデン」
モーズはフリーデンに礼を述べつつ、左腕の袖をめくって一の腕を露出する。
その腕には、モーズのアイギスが体表を悠々と泳いでいた。
「では早速、アイギスの扱いを……」
バキンッ!
大きな金属音と共に、モーズの背後にあったラックが破壊され、崩れ落ちる。
音が聞こえたと同時に退避行動を取ったので、モーズがラックの崩壊に巻き込まれる事はなかったが、それにより視界を遮る物がない広場に出てしまった。
「そんな薄っぺらい障害で、俺から隠れた気になるなよ?」
ラックを破壊した張本人、両端に白いナイフが付けられた長い鎖を持って広場に仁王立つクロールが、不敵に笑う。
「へっ、そんな面してたんだな雑魚。結構な間抜け面だ」
彼に斬られたラックは……いや斬られたのとは違う、溶かされたのだ。黄緑色の靄に覆われたナイフが切ったラックに、綺麗な切断面はなく、ぐじゅぐじゅと溶け崩れている。
急速な、腐食。
(塩素の毒性がそのまま出ているな。しかしあの鎖……。分銅鎖というやつか? 尤も先端には分銅ではなくナイフ。刃は付いていないようだが、随分と殺傷力の高い作りをしている)
「黙ってねぇで何か言ったらどうだ!!」
クロールを凝視したまま顎に手を当てて考え込むモーズに苛立ち、クロールは容赦なく鎖に付いたナイフを放った。
モーズに向けて真っ直ぐ飛んでくるナイフ。これなら躱せるか、とナイフが銅に刺さる前に身をよじったがしかし、クロールが“くん”と手元でナイフと同じく黄緑色の靄を纏った鎖を操作すれば、モーズの身体はいとも簡単に上半身と下半身に両断された。
鎖が纏っていた腐食力によって、溶解されたのだ。
それによって死亡判定を受けたと同時に、モーズの身体は光の粒子となってその場から消え、倉庫の舞台はそのままにラウンドがリセットされ初期位置とは異なる場所に再転送される。
そこもまた、ドラム缶ラックの物陰だ。
『モーズ! 大丈夫か!?』
「凄いな。あの鎖、目で追えなかった」
『クロールの抽射器だ。攻撃範囲は広いしあちこち絡ませる事で応用出来るし、自分の毒素を纏わせて、物理法則を無視して自在にコントロールも出来る。アイギス使えなきゃまともに相手できないぞ!』
水銀が操る液体金属のようだな、とモーズは素直に感心する。
「フリーデン、アイギスを扱うコツは何だろうか?」
『コツ? うーん、やっぱ〈イメージ〉か? アイギスは神経の電気信号を読み取って従ってくれるんだけど、その信号って脳から出るだろ? 声をかけるのも大事だけど、なるべく具体的な想像をして伝えるのがいい』
「そうか。イメージ……、動くアイギスのイメージ……」
『けど一朝一夕でこなすのは無理が……っ!』
ドスッ!
モーズの胸の中心に、ナイフが突き刺さる。クロールの鎖ナイフが、背後にあるドラム缶ごとモーズを貫いてきたのだ。
「ハッ! また、なァんも出来なかったな」
再びラウンドがリセットされ、モーズは今度は倉庫の隅っこに転送される。
『モーズ!』
「なかなか難しいな。想像力など、私に一番欠けているだろう能力なのだし、フリーデンやフリッツのように分離して扱うのは厳しそうだ」
『初っ端から分離しようと目論んでいたのかよ。アレ上級者向けだから今はやんなくていいって』
「そうなのか?」
フリーデンもフリッツも当たり前のように身体からアイギスを分離して操っていたので、モーズはてっきりそれが普通なのかと思っていた。
『まずは触手を一本! 手から出るよう想像してみる! えーと、そうだなぁ。何か高い所にある物を見て届かないな~、届きたいな~って感じの場面を想像して、アイギスに手の延長線として触手を出して貰う!』
「具体例がわかりやすくていいな。いきなり動くクラゲを思い浮かべるのではなく、手の延長線……。何かを取って貰う……」
フリーデンの教えをぶつぶつと復唱しつつ、モーズは左腕の袖を捲り上げる。
するとアイギスはにゅるりと、彼の左手の甲に向かって元気よく泳いだ。
「よし。では、行こう」
▼△▼
補足
塩素(Cl) 別名、クロール。
漂白剤、消毒剤、塩化ビニールなど身近な物の材料に扱われる元素。実は人体必須元素のうちの一つ。
腐食性がありチタンを除く金属をじわじわ溶かす。
所謂【混ぜるな危険】を実行すると簡単に塩素ガスが発生し、人を死に至らしめる危ないやつ。手動で混ぜなくとも排水溝の中で勝手に混ざってガスを出したりする。
ちなみにアルカリ洗剤で掃除しながらレモン(酸性)齧っていても口内でガスが発生するぞ! 反応しやす過ぎない? 気を付けよう。
外見
気体が黄緑色なことからギリシャ語で黄緑色から名前の由来がきている。ので髪は黄緑色。
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