毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第三章 不夜城攻略編

第42話 不屈

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「そんな物か!? 雑魚はやっぱ才能ねぇなぁっ!」
「そうだな。不出来な自分が嫌になってくる。今に始まった事ではないが」

 クロールの前に出て早々。
 アイギスを扱う前に彼の鎖ナイフによって左腕を切り落とされたモーズは、自分自身に呆れていた。

「意思疎通が下手な宿主で、アイギスにも申し訳ないな」

 アイギスは切り落とされた腕の方に居て、宿主と離れてしまった事に焦っているのか、体表を激しく泳ぎ回っている。

「ハッ! やっと自分の低脳さを自覚したか! そんじゃ、さっさと吠え面かいて降参し……」
「よし、もう一度お願いする」

 シミュレーターはまだ死亡判断を下していないものの、体勢を立て直す為モーズは自らラウンドの切り替えを申し出た。
 手も足も出ていないというのに、自分から嬲られに来るとは。クロールはにやりと不敵な笑みを浮かべる。

「おうとも。何度だって付き合ってやるよ、雑魚学者さまよ!!」

 次のラウンドもクロールはモーズを見付けるや否や、頭上にあったドラム缶に穴を空け、中に入っていた強硫酸を浴びさせ焼き殺した。

「もう一度」

 次のラウンドではクロールはドラム缶ラックを片端から鎖ナイフで破壊していき、モーズを倒壊に巻き込ませ圧死させた。

「もう一度」

 次のラウンドでは鎖ナイフをモーズの首に巻き付けて、骨ごと溶かす事により彼の首を断首した。

「もう一度」

 次のラウンドでは鎖ナイフのナイフを持ったクロールが直接、モーズの心臓を抉り取った。

「もう一度」

 だがそれでも、幾ら疑死体験を重ねさせても、モーズは再戦を求めてきた。

(な、何だコイツ)

 身体が溶けようが圧死しようが首を落とされようが滅多刺しにされようが、一歩も引かないモーズに、クロールは背中に嫌な汗をかき始める。

「っ! いい加減、力の差を思い知れってんだ!!」
「力の差? そんな物、最初から知っている」

 焦りが混じった声音で叫ぶクロールに、モーズは淡々と応える。
 彼は何もヤケになっている訳ではない。猛攻をしてくるクロールに対処出来るよう、アイギスを扱えられるよう、一回一回真剣に挑んでいるのだ。

「もう一度」

 側頭部に直撃した鎖ナイフによって頭皮を大きく裂かれ、流れる血によって真っ赤に染まった顔面の中、緑色の左目だけが血に染まる事なくクロールを凝視してくる。
 まるで、射抜くように。
 その異様な、薄気味悪い光景に、クロールは無意識にたじろいでしまった。そしてたじろいだ事を自覚し、自己嫌悪した。

(クソクソクソ! 雑魚の惨めな姿をフリーデン先生に晒して、愛想を尽かせたいってのに! 何ならこの場で雑魚の心を折って、アバトンから追い出してぇのに! 何で、何でこいつ顔色一つ変えねぇんだ!?)

 幾らここが仮想空間で痛覚らしい痛覚はないと言っても、麻酔をかけた状態でも触れられている感触は残るように、何も感じない訳ではない。
 まして身体が両断されたり血が飛び散ったりと、リアルな映像ビジョンが視覚情報に飛び込んでくるのだ。痛みがなかろうと精神的な苦痛を味わうはず。
 そう踏んでいたクロールだったが、モーズは何一つ想定通りに動いてくれない。ただただ、真顔でクロールを見詰めてくるばかりだ。
 何なら表情が見えないフェイスマスクを付けている時よりも不気味である。

(セレンに指摘されたからな。マスクを付けていようがいまいが、患者の不安を煽らないようポーカーフェイスに努めなければ)

 当のモーズはと言うと、以前セレンに『直ぐに表情に出る』と指摘された事を反省し、あまり表情筋を動かさないようにと努めていた。
 クロールは患者ではないが、自身の練習にわざわざ付き合って貰っている相手。時間と労力を割いて貰っているのに、匙を投げたり情けない姿を見せてはいけないと、モーズなりに気を遣っているのだ。
 ちなみに仮想空間の外、卵型機器内部のホログラム映像からシミュレーションの様子を伺っていたフリーデンはというと、

「うわ、えぐ」

 モーズに対し普通にドン引きしていた。



 そうして再び、ラウンドが切り替わる。

(クソ! 何で俺が根比べに付き合う羽目になってんだ……!?)

 倉庫の中央に再転送されたクロールは、苛立ちからラックのステンレス棒を思い切り蹴った。
 ガキィンッ!
 甲高い、大きな金属音が倉庫に反響する。
 すると少しの間を置いて、クロールの足元に影がかかり、頭上から何かが急接近してくる。その気配を察したクロールはすかさず鎖ナイフを投げた。
 大方、ラックの上から飛び降りたモーズが自由落下の衝撃を利用し、相打ち覚悟でダメージを与えてこようとしたのだろうと読んで。

「チッ! 俺に何度歯向かおうが、結果は同じなんだよ……っ!」

 しかしクロールが投げた鎖ナイフが溶かし切ったのは、モーズではなくドラム缶であった。
 そのドラム缶のラベルには、《NH4OH》という化学式が印刷されている。
 つまり中身は、アンモニア水だ。

(ドラム缶!? しかも中身がアンモニアだぁっ!?)

 まともに浴びれば、ウミヘビであるクロールの身体でも流石に網膜にダメージを負う。
 目を潰される訳にはいかないと、クロールは苛立ちながらもドラム缶の落下地点から距離を取り、直撃を免れた。
 尤もアンモニア水を浴びなくとも、刺激臭と共に空気中にミスト状で飛散したそれはクロールが振り回した鎖ナイフ、それが纏う塩素と激しく反応し――微小の白い個体《塩化アンモニウム(NH4Cl)》を形成、巻き上がり、辺りを包み込む。
 その結果、視界が一面、白で覆われる。

「ゲホッ! あの雑魚……! こっちの目眩しが本命、」

 ガシッ
 その白煙に紛れてクロールに背後から接近したモーズが、彼の首を黄緑色の髪ごと鷲掴む。

「こう使うのだな。ようやく、コツが掴めた気がする」

 ドスドスドスッ!
 直後、モーズの右手首から生えた無数の触手がクロールの身体を貫く。次いでそこから吸血をし、急速に失血させる。
 ――それによりシミュレーターに失血死判定が入り、そのラウンドはモーズの勝利で終わった。
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