毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第三章 不夜城攻略編

第44話 招集

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「ぶふっ! あーはっはっはっ!!」

 シミュレーションルームの静寂を破った声。それは大きな大きな笑い声であった。

「アセト、笑い過ぎだ」
「だって傑作っていうかさぁ! いやぁ、ねぇ! あひゃひゃ、おっかしぃ~っ!」
「相変わらず沸点低いなお前ぇ」

 手を叩きながら笑うアセトアルデヒド。その彼と共に、ニコチンもシミュレーションルームへ入ってくる。

「あ、でも試合もう終わっちゃった感じぃ? 折角タリカリコンビから聞いたのに~。新人さんとクロールのドンぱち見たかったなぁ」
「ンなもん記録ログ見りゃいいだろ」
「ニコは生配信って言うか、リアルタイムの楽しみ方知らない感じぃ? とーってもいいんだよぉ?」
「興味ねぇな」

 いつも通りタバコを吹かしていたニコチンは空いた卵型機器、つまりモーズらの側にある蓋の開いた機器の元までやってきた。

「使ってねぇなら使うぞ?」
「あ、あぁ。どうぞ」

 シミュレーションルームが妙な空気に包まれていようが関係なく動くニコチンは、タバコの先端を携帯灰皿で押し潰して火を消すと、アセトアルデヒドと共に卵型機器に入る。そして蓋を閉じ、一つしかない座席はアセトアルデヒドに譲り、自分は立ってホログラムキーボードを操作し始めた。
 アセトアルデヒドは譲られた座席に座ってはいるものの、仮想空間に入る為のダイブなどは取らず、卵型機器内に浮かび上がったホログラム映像、先のモーズとクロールの試合記録ログをニコチンと一緒に鑑賞しだした。
 マイペースな二人によってようやくシミュレーションルームの喧騒が戻ってきて、そこでモーズはフリーデンに先の不可思議な現象について訊ねる。

「フリーデン、今の静寂は何だったのだろうか?」
「そりゃ、方向性が全然違う二人を似ているって言ったら、皆んな困惑もするだろうよ」
「そうか? 私は似ていると思うのだが……。確かにセレンには品がある。しかし人を比較する場合に用いるのは、表面的な言動だけではないだろう」
「本人の前でそれ言う?」

 そこでモーズはハッとした。勝手に他人と比較されていい気分になる人などそういない。
 モーズは直ぐセレンに謝罪をした。

「セレン、気に障ってしまったのならばすまない」
「い、いえいえっ! 先生の面白い知見が聞けてよかったですっ!」
「本当に悪かった。ところで、よくここに私がいる事がわかったな」
「シミュレーションルームの試合映像はネグラの随所に設置された、大型電子掲示板にランダムで表示されるのですよ、先生! それで先生の姿を見て、慌てて馳せ参じましたっ!」
「……え。つまり私の醜態が筒抜けだったと言う事か? それは恥ずかしいな」
「あくまでランダム表記ですから、一部始終は見れませんよ」

 だから屋台バーにやってきたタリウムとカリウムに面白そうな話を聞いたアセトアルデヒドは、通しで試合を見ようと店を出て、一階に居たニコチンを誘ってシミュレーションルームにやってきたのだ。
 しかしニコチンは記録ログ鑑賞に興味なさそうな顔をしているのがカバー越しに見える。あくまでアセトアルデヒドの付き添いでここに居るのだろう。さして興味がない事でも付き合える程、二人の仲が良い事が伺える。

「さーて。シミュレーションルームとアイギスの大凡の使い方も教えた事だし、次はどうすっかな」
「そうだな。可能なら資料室を当たりたい。そして珊瑚症患者の解剖記録を確認したい」
「あ~……。資料室、それも解剖記録を閲覧するにはちょーっと、いや、かな~り面倒な奴が……。電子資料を読む分にはいいんだけども」
「電子資料ならば自室でもう読んだ」
「デスヨネー」

 データベースで共用されている事項以上のことを知りたくて、モーズは資料室を所望しているのだ。それはフリーデンもわかっている。
 しかしフリーデンはラボの資料室を利用するのには一つがある事を知っているので、どうしたものかと頭を悩ました。

「フリーデンさん、私がお供すれば入れて貰えるのでは?」
「ん~、どうだろ……」
「っ、先生! なら俺がを叩きのめしてでも資料室をこじ開けますよ!」
「平和的解決からかけ離れている上に、確実に資料室が吹っ飛ぶからやめな?」

 ウ~ッ! ウゥ~!
 に対して有効な手立てが思い浮かばない中、シミュレーションルームに突如としてけたたましいサイレンが鳴り響く。次いで電子音がスピーカーから流れ警報内容を告げた。

『ドイツ東部で『珊瑚』感染者による菌床が発見されました。手の空いているクスシヘビは資料を拝読後、速やかに現場へ向かってください。繰り返します。ドイツ東部で……』

 それを聞いたウミヘビ達は自身が身に付けている腕時計型電子機器、または携帯端末を取り出し凝視し、指示待ちをしている。
 誰が招集されるのかウミヘビからはわからないので、作業を中断し身構えているのだ。

「また遠征かぁ、最近なんか多いな。普段はもうちょい平和的な筈なんだけど。しっかしフリッツさんは具合悪いしユストゥスさんはご機嫌斜めだし、他のクスシはどうせキャンセルしてくるだろうし、やっぱ俺が行くしかないか? モーズには悪いけどさ」
「私は大丈夫だが……」
「フリーデン先生っ! 遠征には是非、俺を! 以前のようにあのヤニカスなどではなく俺を!」
「クロールは黙っててな?」

 ピピピ。
 その時、モーズの腕時計型電子機器に通知音が鳴る。しかもメールではなく通信だ。相手はユストゥス。
 一体、何の連絡だろうとモーズが通信に出てみると、

『今すぐウミヘビを一人連れて港に来い』

 何かに対する恨み辛みが籠った低い声と共に、そう命じられてしまった。

「ええと、それは何の為に?」
『そんなもの、遠征の為に決まっているだろう!』
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