毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第三章 不夜城攻略編

第45話 選択肢

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「あの~、ユストゥスさん? モーズはアイギスをちょーっと動かせるようになっただけで、まだまだ現場に行けるような実力じゃ……」
『その程度の事、先程の試合で知っている!』
「あ、見てたんだ?」

 フリーデンがモーズを遠征に連れて行く事をそれとなく反対しても、ユストゥスは聞かなかった。

『そんなヒヨッコ、端から戦力に数えていない! 私はただそいつに、模範的な【処分】の手順を学ばせようと思っただけだ!』
「ご教授頂けるのは大変嬉しいのだが、何故突然……?」
『うるさい! いいから早く港に来い! ただし、連れて来るウミヘビは一人だけだ!』
「理由を伺っても?」
『本来、ウミヘビは大所帯で連れて行くものではないからだ! フリーデンは未熟者だしフリッツは貴様に気を遣って念の為にと複数人連れていたが、奴らは一人居れば町一つ地図から消し去ってしまうような連中! 万が一、現場が毒霧で汚染された場合の制御し易さも考慮し、一人だけを連れて行くのが定石だ!』
「成る程」
「今俺ディスられなかった?」

 不満そうな声を出すフリーデンだが、モーズが心配なのは変わらないので「無理して行かなくていいんだぞ」と気を遣ってくれる。

「不安なら俺がユストゥスさんを説得するからさ」
「いいや、積極的に現場に投入して頂けるのは寧ろ有り難い。ステージ5の感染者を直にできるのだから。ただ問題は今回、連れて行くウミヘビだが……」

 選択肢は事前に交流があるセレン、ニコチン、タリウム、水銀の四人。
 あと今回の交流でクロールも選択肢に入れていいだろう。断られそうなので今は除外するが。

「先生っ! 私はいつでも行けますよっ!」

 セレンはやる気満々に挙手をしてくれている。
 彼は人懐っこく反抗的な態度もなく従順。それでいて自分の意見も遠慮せずに口に出してくれる。ウミヘビの扱いに慣れていないモーズに向いた人材だ。
 しかしそれではよくない事を、モーズは知っている。

「立候補してくれるのはとても嬉しいよ、セレン。ただ今回は、気持ちだけ頂こう」
「ええっ!?」

 納得いっていない様子のセレンに、モーズは腕時計から宙にホログラムで資料を投影しつつ説明をした。

「資料によると今回の感染者は虫型。加えて昨日の遠征よりも更に大きい規模。しかも羽虫などの飛行する感染者も確認させている。ならば虫型に強く飛び道具を所持している……ニコチンがいいだろう」

 モーズは卵型機器の中にいるニコチンに視線を向けてそう言った。
 名前を呼ばれたのが聞こえたのだろう、ニコチンは機器の中で「は?」と解せない顔をしている。

「そもそも、セレンは処分向きの能力を持っていないのだろう?」
「それは、そうですが……っ! 私も戦力にならない訳ではありませんよ!? 最悪、毒霧で辺り一帯を包めば一掃出来ます!」
「フリッツの二の舞になってしまうから遠慮しておく」

 モーズは丁重にお断りをした。
 そこまではっきりと断れてしまうとセレンから言えることはなくなってしまい、これ以上駄々を捏ねても迷惑をかけてしまう、と判断した彼は渋々といった様子で引き下がった。

「次! 次の機会がありましたら是非私をお供にっ!」
「あぁ、考えておく」

 そこでモーズはニコチンが入っている卵型機器のケースをコンコンとノックし、開けるようお願いした。
 そして嫌々ながらケースを開けてくれたニコチンに、モーズは改めて頼み込む。

「ニコチン、共に遠征先に向かって欲しい」
「おいマジかよ。俺じゃなくて水銀を使い倒せよ」
「彼は……とても優秀だが、まだ扱い切れる気がしない」
「そりゃ、……っ、そうかもしれねぇけども!!」
「あっはっはっはっ! 納得しちゃった時点でニコの負けだねぇ」

 話を聞いていたアセトが笑いながら座席から立ち、次いでニコチンの肩をぽんぽんと叩く。

「また土産話聞かせてねぇ。新人さん、ニコの事よろしくぅ~」
「了解した」
「アセトッ! 俺はまだ行くと決めた訳じゃねぇぞ!?」

 決定事項のように喋るアセトにニコチンが意義を唱えるが、アセトはさして気にする事はなく、ぽんぽんと、今度はニコチンの頭を優しく叩いた。

「新人さん、面白くて良い人だからさぁ。一緒に行けない僕の代わりに、ニコがしっかりお世話してあげてねぇ? ……お願い」

 そしてただ素直に、頼まれてしまう。
 ニコチンはアセトのを断れない性分なのか、何度か文句を言いたげな顔を暫くしていたが、やがて眉間にシワを寄せガシガシと茶髪をかき乱し始めた。
 次いで自棄ヤケっぱちになった。

「……っ! だぁーっ! 行きゃいいんだろう行きゃあ! ウミヘビに拒否権なんぞないからな、行ってさっさと帰るぞ畜生が!!」

 こうしてモーズはニコチンを連れ、港に向かったのだった。

 ◇

「遅い!!」

 既に港でモーズらを待っていたユストゥスは開口一番、そう叫んだ。
 彼の隣には見知らぬウミヘビが立っている。蛍石に似た薄緑色の髪をなびかせる、透明感のある白い肌を持つ美青年。彼の顔付きはどことなくクロールに似ている。
 そして何より、仄かに甘い香りがした。香水でも付けているのだろうか。

「遅くなり、誠にすまない」
「相変わらず生意気な口使いだな! フリッツの要望でなければ即刻、改めさせている所だが……まぁいい!!」

 ユストゥスは苛立ちを隠そうともせずにそう言うと、踵を返して昨日使ったのと同じリムジン車に向かった。運転席にも昨日と同じく黒いゴーグルを付けた赤毛の青年が座っていて、ルービックキューブを弄って暇を潰している。

「現場は我らが祖国! ドイツ東部の村一つだ!! その命潰えぬよう、今から気を張っておけ!」
「了解した。……ユストゥスの祖国はドイツなのか。あぁ、それでドイツのシンボルの一つ、双頭の黒鷲デザインのマスクを……」
「何をぶつぶつと! 貴様とて同じ祖国だろう!? その祖国を寄生菌どもに蹂躙されて悔しくないのか!?」
「えっ? いや私の出身は一応、フランスだが? プロフィールにもそう記入してある」

 しんと、港が一瞬静まり返った。

「マージか。意外だわ」
「そうか?」

 予想と反していたらしいモーズの出身地に、ニコチンは素直に驚いている。
 それに対しユストゥスは自分が間違った事が許せないのか解せないのか、車のドアを掴む手を戦慄かせていた。

「先生、行きましょう」
「ぐぅうう!」

 しかしここで固まってしまっていては出入り口を塞いでしまう。
 ユストゥスは側に控えるウミヘビに促され、苛立ちながら車内へと入って行った。

「ケッ。あいつフリッツもフリーデンもドイツ出身だからって早とちりしたんだろよ。本来ある程度は名前で出身て絞れるもんだが、モーズって名前珍しいもんなァ」
「な、成る程? 私もみなゲルマン風の名だなとは思っていたが……」
「そうでなくともクスシの半分はドイツ人だ、感覚が抜けないのかもな」
「なっ!? 10人中5人もか! 流石は勉学に力を入れているドイツ、幼少の頃からの教育環境が違うのだろうか!?」
「早く乗れウスノロ共!!」

 そうして全くもってスムーズでない状態で、リムジン車は目的地に向け発車したのだった。
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