毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
51 / 600
第三章 不夜城攻略編

第51話 不夜城

しおりを挟む
「悪運強ぇ奴もいるなァ」
「ニコチンは手を出さないで!」

 落下のダメージを抑えた感染者に応戦しようと、拳銃を構えたニコチンをクロロホルムが止める。

『ギギ、グガガガ……ッ!』
(……? 感染者の動きが鈍い?)

 奇声を発しこちらを襲おうとする感染者の動きは、随分と怠慢だ。その隙にクロロホルムが槍を突き刺し、屠る。
 そういえば、城内に漂う甘い香りが強くなってきている。それに比例して感染者の動きが鈍っている事に気付いたモーズは、クロロホルムが毒素を漂わせている事を察した。
 ユストゥスも気付いているだろうが止めない。織り込み済みなのだろう。
 確かにクロロホルムは水銀よりも毒性が弱い。焼却での浄化も可能で、アイギスを扱う負担が少ないのかもしれない。

(ステージ5感染者がクロロホルムの毒素であれほど大人しくなるとは。麻酔としての効力は期待できないとユストゥスは言うが、動きを制限させる術を持つ彼は感染者保護に有効ではないだろうか)

 水銀に続き有用そうなウミヘビと邂逅した事に、モーズは内心歓喜をしていた。

「しかしクロロホルムは凄いな。目にも止まらぬ槍捌き……」
「俺あいつに任せて帰っていいか?」
「それは駄目だろう」
「チッ」

 モーズに却下を受けたニコチンは不服そうにタバコを吹かした。

「クロロホルム、油断するなっ!」

 順当に処分が進んでいると思った矢先に飛んできたユストゥスの警告。
 まるでそれを合図にするかのように、クロロホルムが仕留め損ねていた……落下時に頭を失い痙攣をしていた感染者が、城内に漂うクロロホルムの毒素をものともせず、アンデットの如く起き上がる。

 ――寄生菌は眠らない。

 車内で聞いたユストゥスの発言が、思い起こされた。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!
 起き上がった首なし感染者への反応が遅れたクロロホルムに変わり、ニコチンが拳銃で感染者らの胸を撃ち抜く。
 すると間もなく首なし感染者はバタバタと床に倒れ、動かなくなった。

「頭、つまり呼吸器官が潰れた者に毒素は吸入され難い! 閉所で毒霧を出しているからと慢心は厳禁だっ!!」
「っ、はい先生! 申し訳ありません!!」

 先程から、何だか違和感がある。モーズは怪訝に思った。
 珊瑚症感染者対策のエキスパートであるウミヘビ。その一人たるクロロホルムよりも、ユストゥスの方が対処に詳しく何なら
 それこそ教育者のように。

「ニコチン、クロロホルムはまるでユストゥスの生徒のようだがあれは一体?」
「クロロホルムは訓練場じゃいい成績なんだが、現場経験が少ねぇんだよ。ユストゥスは災害現場を学ぶ為だとか何だとかで、臨時で軍隊に入ってた事もあるんだと。クスシになる前からそんなだから、下手なウミヘビより場数踏んでンだよ」
「何と」

 時々ユストゥスが軍人のような物言いをしていたのはその名残りか、とモーズは納得した。

「そんで現場経験が少ねぇと……」

 不意にニコチンは拳銃を真上に向け、

「こういうのを見逃す」

 ドドドドドッ!!
 宙を舞う赤い胞子に紛れ飛んでいた『珊瑚』に感染した羽虫を、片端から撃ち落とした。
 人間の感染者に気を取られていると小さな物を見逃す。頭で理解はしていても、なかなか実践は難しい。

「き、気付いていたよっ! ただぼくの毒霧がちょっと届かなかっただけだ!」
「そもそも毒霧にあんま頼んなクロロホルム。水銀は例外として、本来は抽射器だけで処分すんのが理想だってお前ぇも知ってんだろが」
「う、ううぅ……っ!」

 クロロホルムに比べて、ニコチンは何というかベテランの風格だ。肩に力が入っておらず落ち着き払い、災害現場に慣れている。
 思い返せばセレンやタリウムは彼に対して『先輩』という敬称を付けていた。水銀は「ラボの中でも最古参」と自分で語っていたが、ニコチンも相当な古参なのかもしれない。

「口ではなく手を動かせ! 降りてくる感染者がいなくなった! 上層へ上がるぞ!!」
Jaヤー!」

 ユストゥスの指示に従い、モーズは螺旋階段に向かって足を運ぼうとしたが、
 ぐいっ

「……うん?」

 その足が床に着くことはなかった。
 ユストゥスのアイギスの触手に胴体をぐりんと絡め取られ、浮かび上がらされたからだ。ユストゥスもまた、アイギスの束になった触手に腰を下ろしている。
 そしてモーズは触手に掴まれたまま、アイギスによって最上階へ向け急浮上してゆく。

「うおっ!? ユ、ユストゥス、これは!?」
「こっちの方が早い! 今回は特別に私が手伝うが、次は自分のアイギスに運搬して貰え!」
「私はまだアイギスの分離に成功していないのにか!? 無茶を言わないでくれ!」

 そもそも意思疎通に成功したのもシミュレーターでの一回だけだ。上級者向けというアイギスの分離が出来るのはまだまだ先だろう。

「ウミヘビ置いていくとか正気かあいつ」
「先生は強いから大丈夫! それよりぼくらも早く行くよっ!」

 地上から聞こえるニコチンらの声を聞きつつ、モーズは気圧の変動に若干翻弄されながらも天井まで到達する。
 そこでアイギスに螺旋階段のステップに下される。次いで、ユストゥスも降り立つ。
 そこでアイギスは手の平サイズまで小さくなると、ユストゥスの腕の中へ戻っていった。

「では本丸を攻める。行くぞモーズ!」
「ユストゥス、ニコチンとクロロホルムは?」
「どうせ待っていても、最上階への出入り口を潜れるのは広さからして一人のみ! 私が先行する!」

 それにしても先ずは戦闘能力に勝るウミヘビを先行させるべきでは、とモーズが指摘する隙も与えずユストゥスは最上階へ上がってしまう。モーズも慌てて後を追った。
 幸い、最上階へ頭を出した途端感染者や菌糸に襲われる、などという事態には陥らなかった。動ける感染者は地上階で大方片したという事だ。

 残るは動けない感染者――〈根〉。
 最上階である屋根裏部屋。とんがり屋根の屋根裏を、蜘蛛が巣を張るかのように菌糸を張り巡らせ覆い付くし、そこから垂直に伸びる一本の菌糸の先に、若い青年の感染者がぶら下がっている。
 だがその〈根〉よりも目を引いたのは、床に山積みになった感染者の上に座る幼なげな顔をした黒髪黒服の少年であった。

「……民間人!?」
「民間人は民間人でも、あの胸のエンブレムは……ペガサス教団の者の証」

 ユストゥスが断言する。つまり、少年はバイオテロ組織の一人。
 警戒をしているとふと、少年が口を開いた。

「お兄さん方、だぁれ?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

処理中です...