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第八章 特殊学会編
第136話 山積みの問題点
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「ステージ6について発表とか、そんなの絶対無理でしょ」
研究テーマが纏まりかけた時、水をさすように発言したのは、共同研究室の隅っこの丸椅子に座りふんぞり返っていたパウルであった。
「今まで遭遇したそれっぽいのが3人で? その内、実際に遺体が残っているのが1人だけ? そんなんじゃ情報が足りなさ過ぎるだろう。統計学として有意水準の400まではいかなくとも、せめて100人分のサンプルがなきゃさ」
パウルは座っていた椅子から立ち上がり、そのままズンズンとモーズの隣まで距離を詰める。
「それにステージ6、ステージ6、って進行度を決め付けているけど、それだって他人の話を元にした憶測じゃないか。進行に関係ない《変異体》の可能性だって充分あるし、災害現場にいた毒が効きにくい、かつ大怪我しても動けた子供とかも、他の要因によるものって説も捨てきれない。そもそも誰も感染者がステージ6に進行する瞬間を誰も見たことがない。エビデンスに欠けてて全部ふわふわしすぎ」
そしてモーズに接近したパウルは、捲し立てるように喋りながらモーズの眼前に人差し指を突き付ける。
「あと発表したところでどうするの? 健常者と全く同じ見た目をしている、って見解なんだろう? 見分け方がわからなきゃ、混乱を招くだけになる」
「それは……」
「あのさ、僕の指摘に押し黙っているようじゃ駄目だよ。審査役があのルイなんだ。僕なんて目じゃないぐらいのダメ出しが来る」
そこで手を下ろしたパウルは両腕を組み、天道虫が描かれたフェイスマスクで覆われた顔を、共同研究室の奥へ向けた。
「何せユストゥスが発表した論文を、完全に論破した事のある人なんだから」
正確には研究室の奥に立つユストゥスへ、視線を向けた。
視線を向けられたユストゥスは、パウルの発言を否定しない。
「それは、本当だろうか?」
「……昔の話だ。だが私の検証は足りていなかった。未熟だった。それは、事実だ」
恐る恐るモーズが確認をすれば、ユストゥスは苦々しげに肯定をした。
普段は感情的なものの、こと研究については理路整然と冷静に話すユストゥス。そんな彼の研究を纏めた数々の論文には、隙など一切見当たらない。彼の論文はいつ何時も、妥協を許さない徹底した検証とそれに伴う深い理解を元に綴られるからだ。
圧倒的な知見による説得力の塊。それを、『ルイ』という男は崩してきたのだ。ユストゥスを上回る、知見を持って。
生半可な研究発表では一蹴されてしまうのが目に見えて、モーズはごくりと生唾を飲み込んだ。
「ふんっ! まぁ予算が減るのは僕も嫌だし、僕は僕の研究発表の準備をしておくよ。君が醜態を晒した後のフォロー、穴埋めとしてね!」
「パウルくん、そこまで言うならモーズくんと共同発表をするというのは……」
「そいつの事なんて知らないっ! 公衆の面前で赤っ恥をかけばいいんだ! それじゃ僕は個別研究室に行くけど、誰も入ってくるなよ!?」
パウルは好き放題騒いだ後、荒い足取りで共同研究室から退室して乱暴に扉を閉めた。
バタン! と大きな音が共同研究室に響く。
異様なまでにモーズを拒絶するパウルの姿に、普段の彼を知るフリッツは困惑した。
「パウルくんは一体どうしたんだい? 普段はあんな意地悪な事を言う子じゃないのに」
「その、昨晩の出来事で徹底的に嫌われてしまって……」
「モーズがロベルト院長のスカウト受けているわ、そのスカウトを実質蹴ってラボにいるわ、更に退社時に院長に散々迷惑かけたのが悉く地雷だったみたいですよ」
「う~ん、あ~……。それは、嫌われてしまうかもしれないね……」
フリーデンから大まかな説明を受けたフリッツは、フェイスマスク越しに額に手を当てて悩ましげな声をあげる。
ロベルト院長といえばパウルの恩師であり家族。その事はクスシは全員把握していて、ロベルト院長に関する不祥事を起こすとパウルが烈火の如く怒るのも周知の事実。
故に「これはまともに話を聞いて貰えないな」と判断したフリッツは、さっさと頭を切り替えてモーズへ顔を向けた。
「パウルくんはああ言っていたけれど、やっぱり僕はこの発表を遅らせるべきではないと考えている。モーズくんが発表できる形になるよう、僕もできる限り手を尽くすよ」
「俺も手伝うよ、モーズ。ラボの命運めっちゃかかっているしな」
「新人に課す重荷が半端ないな……」
しかしフリッツとフリーデンの手を借りられるのは心強い。それにどうせ、このまま落ち込んでいても逃れられる課題ではないのだ。
何よりもステージ6の発表によって、回避できる悲劇があるかもしれない。街中で突如として発生する生物災害が今後も起きる可能性があると、その原因の一端がステージ6だと、正しく伝えられたのならば。
――備えが、大幅に変わる。
モーズは腹を括って、ステージ6の『珊瑚』を培養したシャーレを手に持った。
「だが私もフリッツと同じく、ステージ6の発表を遅らせたくない。必ずや世間に広め、その危険性を認知して貰わなくては」
研究テーマが纏まりかけた時、水をさすように発言したのは、共同研究室の隅っこの丸椅子に座りふんぞり返っていたパウルであった。
「今まで遭遇したそれっぽいのが3人で? その内、実際に遺体が残っているのが1人だけ? そんなんじゃ情報が足りなさ過ぎるだろう。統計学として有意水準の400まではいかなくとも、せめて100人分のサンプルがなきゃさ」
パウルは座っていた椅子から立ち上がり、そのままズンズンとモーズの隣まで距離を詰める。
「それにステージ6、ステージ6、って進行度を決め付けているけど、それだって他人の話を元にした憶測じゃないか。進行に関係ない《変異体》の可能性だって充分あるし、災害現場にいた毒が効きにくい、かつ大怪我しても動けた子供とかも、他の要因によるものって説も捨てきれない。そもそも誰も感染者がステージ6に進行する瞬間を誰も見たことがない。エビデンスに欠けてて全部ふわふわしすぎ」
そしてモーズに接近したパウルは、捲し立てるように喋りながらモーズの眼前に人差し指を突き付ける。
「あと発表したところでどうするの? 健常者と全く同じ見た目をしている、って見解なんだろう? 見分け方がわからなきゃ、混乱を招くだけになる」
「それは……」
「あのさ、僕の指摘に押し黙っているようじゃ駄目だよ。審査役があのルイなんだ。僕なんて目じゃないぐらいのダメ出しが来る」
そこで手を下ろしたパウルは両腕を組み、天道虫が描かれたフェイスマスクで覆われた顔を、共同研究室の奥へ向けた。
「何せユストゥスが発表した論文を、完全に論破した事のある人なんだから」
正確には研究室の奥に立つユストゥスへ、視線を向けた。
視線を向けられたユストゥスは、パウルの発言を否定しない。
「それは、本当だろうか?」
「……昔の話だ。だが私の検証は足りていなかった。未熟だった。それは、事実だ」
恐る恐るモーズが確認をすれば、ユストゥスは苦々しげに肯定をした。
普段は感情的なものの、こと研究については理路整然と冷静に話すユストゥス。そんな彼の研究を纏めた数々の論文には、隙など一切見当たらない。彼の論文はいつ何時も、妥協を許さない徹底した検証とそれに伴う深い理解を元に綴られるからだ。
圧倒的な知見による説得力の塊。それを、『ルイ』という男は崩してきたのだ。ユストゥスを上回る、知見を持って。
生半可な研究発表では一蹴されてしまうのが目に見えて、モーズはごくりと生唾を飲み込んだ。
「ふんっ! まぁ予算が減るのは僕も嫌だし、僕は僕の研究発表の準備をしておくよ。君が醜態を晒した後のフォロー、穴埋めとしてね!」
「パウルくん、そこまで言うならモーズくんと共同発表をするというのは……」
「そいつの事なんて知らないっ! 公衆の面前で赤っ恥をかけばいいんだ! それじゃ僕は個別研究室に行くけど、誰も入ってくるなよ!?」
パウルは好き放題騒いだ後、荒い足取りで共同研究室から退室して乱暴に扉を閉めた。
バタン! と大きな音が共同研究室に響く。
異様なまでにモーズを拒絶するパウルの姿に、普段の彼を知るフリッツは困惑した。
「パウルくんは一体どうしたんだい? 普段はあんな意地悪な事を言う子じゃないのに」
「その、昨晩の出来事で徹底的に嫌われてしまって……」
「モーズがロベルト院長のスカウト受けているわ、そのスカウトを実質蹴ってラボにいるわ、更に退社時に院長に散々迷惑かけたのが悉く地雷だったみたいですよ」
「う~ん、あ~……。それは、嫌われてしまうかもしれないね……」
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「パウルくんはああ言っていたけれど、やっぱり僕はこの発表を遅らせるべきではないと考えている。モーズくんが発表できる形になるよう、僕もできる限り手を尽くすよ」
「俺も手伝うよ、モーズ。ラボの命運めっちゃかかっているしな」
「新人に課す重荷が半端ないな……」
しかしフリッツとフリーデンの手を借りられるのは心強い。それにどうせ、このまま落ち込んでいても逃れられる課題ではないのだ。
何よりもステージ6の発表によって、回避できる悲劇があるかもしれない。街中で突如として発生する生物災害が今後も起きる可能性があると、その原因の一端がステージ6だと、正しく伝えられたのならば。
――備えが、大幅に変わる。
モーズは腹を括って、ステージ6の『珊瑚』を培養したシャーレを手に持った。
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