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第八章 特殊学会編
第138話 難攻不落の資料室
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「駄目だ駄目だ! 絶対に駄目だ! クスシなぞ全く信用ならん! 資料室に一歩でも足を踏み入れてみろ! その時は……!」
ホルムアルデヒドはキッと鋭い目でモーズとフリーデンを睨み付け、
「ネグラに引きこもってふて寝してやる!!」
何とも怠惰な宣言をした。
「それだけはやめてくださいホルムアルデヒド様」
「様付け……!?」
しかしフリーデンには効果覿面で、古参のウミヘビ水銀に対しても敬称を付けない彼が、最大級の敬称を付けてまでホルムアルデヒドに平身低頭している。
力関係が逆転してしまっている事に困惑するモーズに、フリーデンはひそひそと小声でホルムアルデヒドについて補足を伝えてくれた。
「モーズもこいつの機嫌損ねないようにしてな? 今までラボに集めた標本を全部管理しているの、ホルムアルデヒドなんだ。保存状態が標本にした当時と遜色ないレベルで保っているのは、あいつの徹底した管理のお陰なんだよ。自動人形の力でも成し得ない完璧さでさ」
「それは尊敬に値する素晴らしい事だが……。そもそもなぜホルムアルデヒドの信頼がゼロになっているのだろうか? 信頼があれば入室に条件なぞ課さないだろうに」
「……いや、その、俺達の扱いがぁ、ちょっと……」
気不味そうにモーズとホルムアルデヒドから顔を背けるフリーデン。
歯切れ悪く、誤魔化すように喋る彼の姿を見たホルムアルデヒドは、額に青筋を浮かべ怒りながら代わりに説明をしてくれた。
「ユストゥスは俺の作品を実験に使って爆発させるわ! フリッツは容赦なく切断するわ! パウルは耐久テストとかでぐちゃぐちゃにするわ! フリーデンは薬品で溶かすわ! 他にも例を挙げたらキリがない!!」
クスシは探究心の塊。
故に標本は保管する物ではなく調査対象という認識が強いようで、皆なにかしら損傷含む実験をしているようだ。
「俺は死者を未来永劫保存する為に作品へ仕立てているんだ! 消耗品じゃねぇし、ましてや玩具じゃねぇってんだよ!!」
「もっとも過ぎる憤り」
「その節は誠に申し訳なくぅ」
ホルムアルデヒドの嘆きはもはや魂の叫びである。
せめて許可を得てから標本を実験に使用すればよいのだろうが、この怒り狂っている様からして、恐らくクスシ達は無断でやらかしているのだろう。
これは信頼が地の底に落ちても仕方がない。とモーズは頭を抱えた。
「俺の綴った資料室内厳守規則を暗記したのはいい! 実験室を爆発させた経験がないのもいい!」
「他のクスシは爆発の経験があるのか?」
「ユストゥスさん含めて何人か……。ちなその人達はまとめて出禁な?」
「何と……」
「だがしかし! クスシとしての経歴が浅過ぎる! 信用も信頼も実績も足りない! よって入室は不可! ホログラム電子情報は開示してやってんだからそれで満足しな!!」
ホルムアルデヒドは捲し立てるように喋り切った後、乱暴に資料室の扉を閉めてしまった。
バタンッ! と扉の閉まる大きな音が廊下に響く。何だか既視感を覚える光景だ。具体的に言うと、パウルが共同研究室を出て行った時と重なる。
「難攻不落、って感じだなぁ」
「ううむ、どう説得したものか……」
◇
結局、資料室入室が叶わないまま共同研究室にフリーデンと共に戻ったモーズは、クスシの中でも比較的ホルムアルデヒドの信頼があると聞いたフリッツに助力を求めた。
「う~ん。今、資料室にすんなり入れるのは青洲さんぐらいじゃないかなぁ」
しかしフリッツも現在は入室できないらしく、困った様子で首を傾げられてしまう。そもそも彼も入室できないから資料室へ付き添わなかったらしい。
「あれ~? フリッツさんも入れないんですか?」
「実は先月、借りていた標本に傷を付けてしまってね。2ヶ月の出禁を言い渡されてしまったよ。ホルムアルデヒドくんなりの譲歩なんだろうけど」
「厳しいですねぇ~」
聞けばフリッツは先日、手を滑らせて標本を実験台に落としてしまったらしい。
標本が大きく損傷した訳でも、わざとという訳でもないとは言え、管理が杜撰と判断され、ホルムアルデヒドは暫くフリッツの入室を禁止してきたのだ。
モーズはひとまず現時点で資料室の入室が許可されている、という青洲に携帯端末での連絡を試みてみるが、どれだけ着信音が鳴り続けても青洲は応答してこない。無視である。簡潔に要望をまとめたメールも送ってみたが、返事を返してくれるどころか相手が既読した際に付くチェックさえ入らない。
「……。期待はしていなかったが、応答はなしか……」
「だから以前にも言っただろう。あいつは居ない者と思え」
「万年出禁なユストゥスさんも戦力になりませんし、困りましたねぇ」
「ほう? こっちに来いフリーデン。丁度ここに針と糸がある」
「アッ、やめてっ! 縫合針を構えないでっ!? 失言でしたごめんなさい! 平和的解決を望みますぅっ!」
余計な口を叩いてしまったフリーデンに、縫合針と糸を構えてにじり寄るユストゥス。それを見て「ひぃいい」と悲鳴をあげ逃げ出したフリーデンに灸をすえる為、そのまま共同研究室で追いかけっこが始まってしまった。
共同研究室は部屋そのものは広いが、棚や機材や実験台が多く置かれているので人が歩ける幅は結構狭い。にも関わらずバタバタと音を立てて走り回る2人にフリッツは呆れつつ、モーズに退室を促してきた。
「モーズくん。君はまだ遠征の疲れが溜まっているし、実験や研究詰めで頭も身体も固まっているだろう。今日はあがって休んだらどうだい?」
「しかしフリッツ、私には時間が」
フリッツはゴネかけたモーズの肩を掴み身体を反転させると、ぐいぐい背中を押して強制的に共同研究室の扉の外へと追いやってしまう。
「休息も仕事の内っ! リフレッシュすればいい方法も見付かるかもしれないよ? だからもう部屋に戻って横になる。ね?」
「う、ううむ……」
そうしてモーズは半ば無理矢理、休暇を取らされてしまったのだった。
※なおユストゥスが実験室を爆発させたのは元ネタの方の史実ネタだったりする。
ホルムアルデヒドはキッと鋭い目でモーズとフリーデンを睨み付け、
「ネグラに引きこもってふて寝してやる!!」
何とも怠惰な宣言をした。
「それだけはやめてくださいホルムアルデヒド様」
「様付け……!?」
しかしフリーデンには効果覿面で、古参のウミヘビ水銀に対しても敬称を付けない彼が、最大級の敬称を付けてまでホルムアルデヒドに平身低頭している。
力関係が逆転してしまっている事に困惑するモーズに、フリーデンはひそひそと小声でホルムアルデヒドについて補足を伝えてくれた。
「モーズもこいつの機嫌損ねないようにしてな? 今までラボに集めた標本を全部管理しているの、ホルムアルデヒドなんだ。保存状態が標本にした当時と遜色ないレベルで保っているのは、あいつの徹底した管理のお陰なんだよ。自動人形の力でも成し得ない完璧さでさ」
「それは尊敬に値する素晴らしい事だが……。そもそもなぜホルムアルデヒドの信頼がゼロになっているのだろうか? 信頼があれば入室に条件なぞ課さないだろうに」
「……いや、その、俺達の扱いがぁ、ちょっと……」
気不味そうにモーズとホルムアルデヒドから顔を背けるフリーデン。
歯切れ悪く、誤魔化すように喋る彼の姿を見たホルムアルデヒドは、額に青筋を浮かべ怒りながら代わりに説明をしてくれた。
「ユストゥスは俺の作品を実験に使って爆発させるわ! フリッツは容赦なく切断するわ! パウルは耐久テストとかでぐちゃぐちゃにするわ! フリーデンは薬品で溶かすわ! 他にも例を挙げたらキリがない!!」
クスシは探究心の塊。
故に標本は保管する物ではなく調査対象という認識が強いようで、皆なにかしら損傷含む実験をしているようだ。
「俺は死者を未来永劫保存する為に作品へ仕立てているんだ! 消耗品じゃねぇし、ましてや玩具じゃねぇってんだよ!!」
「もっとも過ぎる憤り」
「その節は誠に申し訳なくぅ」
ホルムアルデヒドの嘆きはもはや魂の叫びである。
せめて許可を得てから標本を実験に使用すればよいのだろうが、この怒り狂っている様からして、恐らくクスシ達は無断でやらかしているのだろう。
これは信頼が地の底に落ちても仕方がない。とモーズは頭を抱えた。
「俺の綴った資料室内厳守規則を暗記したのはいい! 実験室を爆発させた経験がないのもいい!」
「他のクスシは爆発の経験があるのか?」
「ユストゥスさん含めて何人か……。ちなその人達はまとめて出禁な?」
「何と……」
「だがしかし! クスシとしての経歴が浅過ぎる! 信用も信頼も実績も足りない! よって入室は不可! ホログラム電子情報は開示してやってんだからそれで満足しな!!」
ホルムアルデヒドは捲し立てるように喋り切った後、乱暴に資料室の扉を閉めてしまった。
バタンッ! と扉の閉まる大きな音が廊下に響く。何だか既視感を覚える光景だ。具体的に言うと、パウルが共同研究室を出て行った時と重なる。
「難攻不落、って感じだなぁ」
「ううむ、どう説得したものか……」
◇
結局、資料室入室が叶わないまま共同研究室にフリーデンと共に戻ったモーズは、クスシの中でも比較的ホルムアルデヒドの信頼があると聞いたフリッツに助力を求めた。
「う~ん。今、資料室にすんなり入れるのは青洲さんぐらいじゃないかなぁ」
しかしフリッツも現在は入室できないらしく、困った様子で首を傾げられてしまう。そもそも彼も入室できないから資料室へ付き添わなかったらしい。
「あれ~? フリッツさんも入れないんですか?」
「実は先月、借りていた標本に傷を付けてしまってね。2ヶ月の出禁を言い渡されてしまったよ。ホルムアルデヒドくんなりの譲歩なんだろうけど」
「厳しいですねぇ~」
聞けばフリッツは先日、手を滑らせて標本を実験台に落としてしまったらしい。
標本が大きく損傷した訳でも、わざとという訳でもないとは言え、管理が杜撰と判断され、ホルムアルデヒドは暫くフリッツの入室を禁止してきたのだ。
モーズはひとまず現時点で資料室の入室が許可されている、という青洲に携帯端末での連絡を試みてみるが、どれだけ着信音が鳴り続けても青洲は応答してこない。無視である。簡潔に要望をまとめたメールも送ってみたが、返事を返してくれるどころか相手が既読した際に付くチェックさえ入らない。
「……。期待はしていなかったが、応答はなしか……」
「だから以前にも言っただろう。あいつは居ない者と思え」
「万年出禁なユストゥスさんも戦力になりませんし、困りましたねぇ」
「ほう? こっちに来いフリーデン。丁度ここに針と糸がある」
「アッ、やめてっ! 縫合針を構えないでっ!? 失言でしたごめんなさい! 平和的解決を望みますぅっ!」
余計な口を叩いてしまったフリーデンに、縫合針と糸を構えてにじり寄るユストゥス。それを見て「ひぃいい」と悲鳴をあげ逃げ出したフリーデンに灸をすえる為、そのまま共同研究室で追いかけっこが始まってしまった。
共同研究室は部屋そのものは広いが、棚や機材や実験台が多く置かれているので人が歩ける幅は結構狭い。にも関わらずバタバタと音を立てて走り回る2人にフリッツは呆れつつ、モーズに退室を促してきた。
「モーズくん。君はまだ遠征の疲れが溜まっているし、実験や研究詰めで頭も身体も固まっているだろう。今日はあがって休んだらどうだい?」
「しかしフリッツ、私には時間が」
フリッツはゴネかけたモーズの肩を掴み身体を反転させると、ぐいぐい背中を押して強制的に共同研究室の扉の外へと追いやってしまう。
「休息も仕事の内っ! リフレッシュすればいい方法も見付かるかもしれないよ? だからもう部屋に戻って横になる。ね?」
「う、ううむ……」
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