毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十章 イギリス出張編

第180話 共鳴

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「なんで僕も巻き込まれているの!? 意味がわからないんだけど!?」

 人工島アバトンの南に面する砂浜にて。カールに強制的に連れて来られたパウルは怒り狂っていた。

「後輩の為じゃ~ん。ちょ~っと付き合ってくれてもよくなくなくなぁい?」
「よくないよ! 僕の予定が狂うだろ!?」
「そんじゃ授業に戻るんだけどぉ」
「だからさっきから無視すんなぁっ!」
「自由すぎる……」

 そこにラボから2人を追って出てきたモーズも合流する。

「だってパウルちゃん俺ちゃんのやり方に文句ありありじゃん? だからまぁずはパウルちゃんがお手本を見せてあげればモーズちゃんも助かるかなって!」
「どうして僕なんだよ。共同研究室にはユストゥス達だっていたのに……」
「俺ちゃんの次にアイギスを使いこなしているのパウルじゃない。先輩含めてね」

 疑問と不満をぶつけて来るパウルに対し、カールはさらりと連れてきた理由を答える。
 クスシの中で最もアイギスを使い熟すのが早かったと聞くカール。そんな彼の次に、しかもも含めて上手いと素直に称賛されて、パウルは少し居心地が悪そうに肩を揺らした。顔を隠すマスクで表情はわからないが、恐らく照れている。

「……わ、わかったよ。今日だけ! 備品を浪費しない訓練方法を指導してあげる!」
「キャーッ! パウル先輩、素敵ぃっ!」
「カールは後で海に沈める」
「ご、ご指導よろしくお願いします」

 何故か黄色い歓声(ただし低音)をあげるカールにパウルの苛立ちが再熱した所で、モーズは2人の間に割って入った。
 カールが何かしら喋る度に話が脱線するのだ、こうして物理的に、強制的に切り上げる他ない。

「それじゃ僕なりに教えるけど、寄生したアイギスが宿主から分離するには幾つか条件がある。1つは信頼関係を築く事。当たり前だけど、アイギスが身体から離れても宿主は逃げない、ってわかってなきゃ出て来ないからね」

 パウルは人差し指を立てて、順を追って1つずつ説明をしてくれる。

「2つ目はコミニュケーションを怠らない事。信頼関係を築くのと似ているけど、意思疎通がしっかり取れなきゃアイギスは分離した後に何をすればいいかわからなくて、出てきてくれない。運んで欲しいとか、毒を散布して欲しいとか、具体的な指示をあらかじめしておく事」

 パウルが話してくれたその2つは指導係のフリッツからも教わった事だ。信頼関係を築き、具体的な指示――イメージを電気信号を介して送る。
 このイメージをする部分がモーズにはなかなか難解で、触手一本、手首から出すのにも時間がかかってしまっている。
 しかしパウルの説明はそこで終わらなかった。

「3つ目、これが大事だ。――『共鳴』」
「共鳴……?」

 共鳴。初めて聞く単語だ。いや単語自体は知っているが、アイギスに関する言葉としてモーズが聞くのは初めてだった。

「モーズにも共鳴した瞬間なかった? 指示を出さなくともアイギスが思い通りに動いてくれた事」
「指示を出さずとも、思い通りに動いてくれた事……」

 一度だけ、ある。ユストゥスと共にドイツの菌床に赴いた時、城の最上階でオニキスと対峙した時、横たわる感染者を文字通り足蹴にしたのを目の当たりにした時、彼の凶行を何としてでも止めさせたいと頭に血が登った時、アイギスはモーズの指示を待たずに触手を手首から出し、オニキスを捕らえていた。
 その勢いにモーズが負けて転びかけ、アイギスは直ぐに戻ってはきたが、あれは確かに「思考して命ずる」という段階を飛ばした、まさに『共鳴』と称するに相応しい現状だったように思う。

「この『共鳴』を強めていけば、アイギスの分離も叶うようになる」
「パウルちゃんは特にアイギスとの共鳴力が強くって、ちょこちょこシャツ駄目にしちゃっているよね~」
「うるさいよ。カールもその点、人のこと言えないでしょ」
「まぁね⭐︎ あ、モーズちゃんもアイギスが好きな場所、把握しておいた方がいいよ~? じゃないと分離する時、服ボロッボロになるからね! 出先でそうなったら悲惨よ! はっはっはっはっ!」
「アイギスが好きな場所……」

 2人曰くアイギスは宿主から分離する際、気に入った場所から出入りする事が多いのだと言う。
 フリーデンとユストゥスは服の袖を捲りあげ、腕を露出して出していたが、フリッツは後ろ髪をかき上げてうなじからアイギスを分離するという少し変わった形を取っていた。
 そしてパウルのアイギスに至っては胸元から出るのが好きなようで、シャツのボタンを飛ばそうとも無理矢理出てきてしまうので少し困っているらしい。

「ちなみにカールさんのアイギスはどこから出るのが好きなのでしょうか?」
「俺ちゃんのアイギスはね~、背中っ!!」
「たまに腹部からも出てきてるよね。だから変に露出高いんだよこいつ」
「成る程」

 カールが何故、ヘソが見える程の短いシャツを着ているのか疑問だったが、ファッションを意識してではなくアイギスの好みを優先してだったようだ。
 スタンダードな白衣ではなく、色違いの黒衣を着ているのは趣味かもしれないが。

「その、手や手首周辺から分離はできないのでしょうか? いつもそこから触手を出しているので、他の箇所から出て来るイメージがわかないと言いますか……。アイギスの好みの場所の傾向もわかりませんし」
「あ~。手の平から出してるっていったらぁ、青洲先生だねっ!」

 極東の島国を故郷とするクスシ、青洲。
 彼とは植物園で一度会ったきりで、モーズは再び話すどころか見かける事すら出来ていない。

「青洲先生のアイギスちょ~綺麗だから、モーズちゃんもいつか見れるといいねっ!」
「フリッツのオキクラゲ型アイギスもなかなか優雅だけど、青洲さんは青洲さんで独特だからなぁ」
「そうなのですか」
「あっ! そう言えばモーズちゃんのアイギスって何型? 俺ちゃん気になるぅっ!」
「別にタイプを知ったって、基本性能は同じなんだから意味なくない? 分離の訓練に特に関係は……」
「でぇも知~りた~いじゃ~んっ!」

 腰に手を当て胸を張り、好奇心のまま堂々と駄々をこねるカール。そんな彼を見て呆れるパウル。
 カールはあまりにも自由奔放、傍若無人だ。ユストゥスが辟易する気持ちもわかる。
 しかしその何者にも囚われない挙動は、モーズが少し羨ましいと、思ってしまう。

「私のアイギスは、ハブクラゲの形をしています。海中のクラゲでしたら猛毒を持つ種類ですが、無毒種であるアイギスの場合はあまり特徴的ではないかと……」
「ハブクラゲ……。ハブクラゲ……? え、嘘でしょお前そんなの連れてたの?」
「はい?」

 アイギスを型を伝えたらパウルが明らかに困惑している。そしてカールは興奮気味に手をぶんぶん振ったかと思えば、その手でガシリとモーズの肩を掴みぐいと自身に引っ張り寄せた。

「よぅしモーズちゃん! 選手交代! 直ぐに分離できるよう猛特訓しよっか!!」
「……。はい?」
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