毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十章 イギリス出張編

第181話 ハブクラゲ型

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「も~っ! ハブクラゲ型だったとか早く言ってよぉ~っ! こりゃさっさと使いこなさせてポテンシャル引き出し切って貰わなきゃ! そしてデータを取らなきゃっ!!」
「カールさん?」
「よぅし! そうと決まれば訓練だ訓練! 人工血液を使わない方向での訓練となると小道具は必須だよなそして訓練を続けるには楽しさが大切だ厳しいばっかじゃ身に付くものも身に付かない軍隊じゃないんだからまして相手は俺たち人間ではなくアイギス言葉で通じ合うのではなく電気信号でやり取りをする異種属なんだ人間のルールなんてこれっぽっちも関係ないアイギスに負担をかけない形で宿主の意思疎通力をあげるには何が一番最適かそれもラボにあるものでとなるとあいやラボじゃなくてネグラにある物でもいいのかそうだネグラならいい物あるな訓練場とかにちょっと取ってくるか!」
「カールさん……?」
「ちょっと待っててねモーズちゃん、俺ちゃん準備してくるから! その間パウルちゃん相手してあげててっ!」

 聞き取れないレベルの早口で思考を纏めて答えを導き出し自己完結をしたカールは、モーズの肩を掴んでいた手を話し砂浜を駆け抜けて鉄柵に囲われたネグラへ向かってしまった。
 置いていかれたモーズは唖然とし、半端にあげてしまった行き場のない右手を漂わす。

「な、何なんだ……?」
「そりゃあ、うん、ハブクラゲだからね。正直、僕もちょっと気になると言うか」
「気になる? とは?」
「あれ、もしかしてフリッツ達から何も話聞いてない?」
「アイギスのタイプによって多少の性能差はある、という事は教えて貰いました。しかしあくまで多少で、基本は同じだと。それはパウルさんも先程、おっしゃっていたでしょう?」
「そうだけどさぁ、何事も例外ってあるでしょ。あれ? それとも僕、フリッツとユストゥスに教えてなかったっけな……? リハビリ優先してたし……」

 自分のかつての指導に穴があったかもしれない事に、パウルはがしがしと、コーヒーのモカの色に似た明るい茶髪を乱雑に掻く。

「まいいや。それじゃ僕が教えてあげるけど、アイギスの中でも特異なタイプは存在する」
「そう言えばフリーデンに以前、『ユウレイクラゲ型』は大喰らいで血液を沢山消費するという話を聞いた事がありますね」
「それは知っているんだ? まぁそれと似た形だよ。お前に寄生しているハブクラゲってのは、蓄えられる毒の数と種類が段違いなの」

 アイギスはどんな姿形をしたタイプだろうと全ての個体は無毒で、自分で毒を作る事はない。しかしアイギスは触手に毒を蓄える機能を持っており、そこにストックをする事で毒の注入や散布ができる。
 そして基本的に1匹のアイギスがストックできる毒は、10種類。毒性は劇物の強さまで。アイギス自体はより強い毒も蓄えられ、訓練をすれば種類も増やせるが、宿主のキャパシティと安全性を考慮して基本的にはそこまでに留まっている。実際、10種類ほど扱えれば菌床処分や浄化作業を遂行するに十分で、それ以上の種類を扱う事は滅多にない。

 ただ、モーズに寄生するハブクラゲ型は特殊なのだと、パウルは言う。

「アイギス本体の毒耐性が強いから、毒物以上の毒素を宿主の影響なく蓄えられるうえに、訓練なしでも100個ストックができるんだよね」
「……。100?」

 100。10の10倍。シンプルながら現実味のない数字を出されて、モーズは思わず聞き返してしまう。

「だから、100個ストックができるの。それもテトラミックスとかパラチオンの毒素も含めてね」

 毒耐性が強まった鼠型感染者を右手だけで処分したテトラミックスに、そんな彼と同じ第三課所属の……複数のウミヘビ相手に無双し圧倒的な力を見せ付けたパラチオンの毒素を、所持できる。
 つまりハブクラゲ型アイギスを寄生させた人間は歩く毒物劇物保管庫になれると言う事で、自覚なく連れ歩いていたモーズはその恐ろしさを正しく理解し、マスクの下で一人青ざめた。

「何なら分離の訓練よりストック溜める方を頑張るのもありじゃない? そりゃあ分離も大事だけど、使える毒を強くするのも身を守る手段としては有効だろう? 何より手っ取り早いし」
「ア、アイギスと信頼関係を築きあげ切れていない内に毒を強めるのは、危険でしょう? 何かの拍子で毒を散布してしまったら大惨事です」
「慎重だなぁ。悪い事じゃないけどさ。お前のアイギスならその気になれば超規模菌床も片せるのに」
「今の私では荷が重すぎます……っ!」

 分不相応な力(毒)を身に付けた所で、自滅するのは目に見えている。
 モーズがより一層、アイギスを慎重に扱う事を決意したところで、ネグラへ走って行ったカールが小脇にサッカーボールサイズの黒いボールを抱え、砂浜へ戻ってきた。

「お、ま、た、せぇ~っ! 待った? 待たせちゃった~?」
「いいえ、15分も待っていませんよ。足が速いですねカールさんは」
「こいつアイギスの力を借りて身体能力あげてるからなぁ」
「……は? え? アイギスはそんな事もできるのですか……!?」

 確かにカールはシアンに勢いよく抱き付かれても倒れ込まない体幹を持っていたり、軽々とパウルを担ぎ上げて運んでいたり、先程も短距離走アスリートの如き速さでネグラまで走りそして戻ってきていた。
 やけに運動神経がいい人だなとモーズも薄っすら思っていたが、まさかアイギスの力を借りての事だったとは。

「そうなのよぉ。例えばアイギスはね~。300キロぐらい簡単に持ち運べる腕力を持っているんだ~よね。それはモーズちゃんも知っていると思うけどぉ、そぉんな力持ちぃな触手をねぇ、腕に巻き付けて、息を合わせると~……?」

 ボコボコと、黒いボールを持つカールの右腕に凹凸ができる。彼が寄生させているアイギスの触手が黒衣の下で盛り上がっているのだ。
 カールはその状態でボールを砲丸投げをするかのように構えると、投げた。

「こうよ」

 ボールは目にも止まらぬ速さでモーズとパウルの間をすり抜けて、直線上に飛び、砂浜へ着弾し、ぶわりと、爆発でも起きたかのような砂嵐を巻き起こした。
 しかもボールが着弾した砂浜は小さなクレーターが出来ていて、人間に当たっていたら死ぬとわかる威力だった事をまざまざと見せ付けられた。
 もしや他のクスシも皆、ウミヘビと大差のない生物兵器の側面があるのかと、モーズが無言でパウルに訴えかければ、それを読み取ったパウルは手を振って「ないない」と否定してくれた。

「あんな裏技使えるのカールだけだから、参考にしなくていいよモーズ」
「そ、そうですか。今とても安堵した……」
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