毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十章 イギリス出張編

第187話 英国への導き

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「報告でぇっす! 俺ちゃんとモーズちゃんはイギリスに行くことになっりまっしたっ!」
「貴様は何を言っているんだ」

 モーズ達3人が飼育室から共同研究室へやってきて早々。
 カールはモーズの肩を後ろから掴んでユストゥスらにそう宣言した。

「イギリスの感染病棟の『ジョン』院長から、モーズちゃん指名のお呼び出しを受けたんで!」
「ジョン院長が? それは無視できないが、同行者として貴様が立候補する理由はなんだ。あと代理はたてられないのか? モーズはまだアイギスを使いこなせていないだろうに」
「代理は無理だね。詳細は不明だけど、モーズじゃなきゃ駄目なんだとさ」

 先に飼育室でモーズらと共にメール本文を確認していたパウルが補足を入れる。

「ジョン院長はいっつも言葉足らずだから、ろくに理由を書いてないけど、無駄な事を話さないあの人の事だ。この指名には、意味がある。絶対に」
「でもステージ6が出たかもしれない場所にモーズくんを連れていくの、すごーく心配だよ」
「また分断されたり、一人の時を狙われたらどうする気すかカール先輩。何か策でも?」
「そこは安心安全っ! 俺ちゃんが付き添いま~っす! あとウミヘビも何人か連れてくっ!」

 フリッツとフリーデンの最もな心配に対して、カールは右手でVサインを作って不安を払拭しにきた。

「昨日の今日だけでもモーズちゃんの成長目覚ましいし? あとはアイギスにたぁっぷり猛毒をストックして貰えればモーマンタイ!」
「えっ」
「ステージ6やら大型感染者やらが現れても最悪、時間稼ぎは出来るっしょ~っ!」

 モーズは扱いきれないから猛毒のストックは遠慮したい、とカールにも話していたはずなのに、カールは丸っと無視してモーズに猛毒をストックさせる事を決定事項として話している。

「後は俺が、

 しかもウミヘビに頼らずとも事態の収拾を図ると、常識では考えられない事を口にして。

「まっ! そんな事態にならないよう、下準備は万全にしておくとも! まずはウミヘビの選出! その次に毒素の生物濃縮だぁ~いっ! いざネグラへ! 進めぇ進めぇっ!」

 カールはモーズへの確認は一切取らず、一方的に喋った後に共同研究室を出て行ってしまった。
 モーズも後を追わなくてはならないのだが、あまりに自由奔放なカールについていける気がせず、彼はギギギと滑りの悪いブリキ人形のように首を動かし、フリーデンらに縋るように顔を向けた。

「…………」
「その、あれだ。一応あれでも単独で大規模菌床処分できるぐらい人間やめている人だから、頼りにはなるぜ?」
「クスシ歴が長いだけあって、僕らの中で一番能力が高いのはカールくんだからね。同行者としては悪くないんだ。……元気すぎる所を除けば」
「あいつの話を聞かない性格は死んでも変わらんだろうよ。慣れろ。以上」
「……イギリスから帰ったらお酒を奢ってやらなくも、ないよ」
「無駄遣いにうるさいパウルさんが匙を投げるレベルなのは伝わりました」

 誰も彼を止められない。
 そう学んだモーズは諦観を抱きつつ、カールが向かったネグラへと足を運んだのだった。

 ◇

「うわ、カールだ」
「げっ、カールが来た」

 ネグラは白を基調とした海辺の町ギリシャをモチーフとしている為に、カールの着る黒衣は遠目からも目立つ。加えて鹿の頭蓋骨を模したマスクは、そのシルエットだけで誰と特定できる。
 その所為か、ネグラの広場、アセトアルデヒドの切り盛りする屋台バーの席に座っていたウミヘビ達は、カールを目撃しだいそそくさと退席していた。
 人間よりも身体能力に優れた有毒人種、ウミヘビにさえ避けられている。好奇心の赴くまま、カールは一体何をしてきたのだろうかと、彼の後ろを歩くモーズはそんな事を考えていた。

「全っ然、話進んでねぇじゃねぇか水銀」
「うるさいわねぇ。ステージ6出現や街中での菌床発生っていうイレギュラーな事態が続いて、所長も慎重になっているのよ。こんな事態、ボクだって予想外なんだから。けどもう少しで話が通りそうだから我慢なさいな」
「ケッ。言い訳ばっか達者だな」

 広間からウミヘビが離れていく中、1つのテーブルに対面に座り、チェスを交えながら何やら話し込んでいるのはニコチンと水銀だ。
 屋台バーでドリンクを作ったり洗い物をしたりと作業で自由に動けないアセトを除き、彼らだけはカールが現れようと、普段通り振る舞っている。
 その2人の元に、カールは無遠慮に歩み寄って行った。

Hej hejこんにちは! お二方! 今お時間いいかな? かなっ?」
「取り込み中だ。よかねぇよ」
「あら、カール。貴方がネグラに来るだなんて珍しいじゃない。新顔が増えた訳でもないのに。何の用かしら?」
「実はねぇ、【檻】までエスコートをお願いしたくって!」

 べキリ。【檻】という単語を聞いたニコチンは、左手に持っていた紙タバコを、指先で折ってしまった。
 【檻】。毒性のとても強いパラチオンがいると言う、力を持て余し自由を制限されたウミヘビの隔離施設。水銀曰く『キッズルーム』。その同行に、カールはたまたま広間にいたニコチンと水銀にお願いをしてきたのだ。

「却下」
「ボクも好き好んで行きたくないわ。シアンに頼みなさい、シアンに」
「断るの早すぎな~い? シアンはお仕事中だから呼び難いってゆうか~」
「仕事中だろうと何だろうと、シアンなら貴方の言う事を聞くでしょうよ」
「それは流石に俺ちゃんの良心痛むって!」
「お前ぇに良心なんざあったのかよ」
「ニコちゃん酷いっ!!」
「ちゃん付けすんな」

 同行を断る2人とやいのやいの言い合うカール。
 彼らから少し離れた所でその様子を眺めていたモーズは、屋台バーに立つアセトに補足を求めた。

「カールさんはどうして【檻】に向かうのにニコチン達の同行を求めているのだろうか?」
「あれぇ? 教わってない? ウミヘビの中でも凶悪な奴が押し込まれている【檻】はねぇ、第一課の誰かに同行して貰う規則があるんだぁ」
「そうなのか。【檻】に限らず、私はネグラの施設を把握し切れてなくてな……」
「あららぁ。新人さんなのに学会の研究発表でばたばたしてたもんねぇ。指導が追い付いてなくて大変だねぇ」

 けらけら笑いながら、アセトは「はい水分補給」と労りも兼ねたジンジャーエールをモーズに渡してくれる。

「尤もこの規則は形骸化しているから無視しても罰則はないんだけどぉ、新人さんを連れて行くのに保険が欲しいんだろうねぇ、カールは」
「……そうか」

 そしてカールなりの気遣いを知って、モーズは苦笑したのだった。
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