毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
215 / 600
第十一章 キノコの国のアリス編

第212話 子供の国

しおりを挟む
 モーズの隣でにこにこと、無邪気な笑みを浮かべて手を差し伸べてくるオニキス。感染病棟の遊戯室で見た子供達を彷彿とされる、あどけない表情。
 しかし彼は人と同じ姿をしていながら人の死を何とも思わない、ステージ6。
 生物災害バイオハザード

「それからずーっと、僕と遊んでくれない?」
「……君の、君達の目的は、一体なんなんだ」

 モーズはオニキスの手を取らぬまま、畳み掛けるように問い掛ける。

「どうしてジョン院長を連れ出した。どうして私に固執する。どうして君達は、人の知性を持ちながらも、人に害をなす」
「質問ばっかでつまんない~っ。あのおじさんの事はよく知らないよ。【誕生日】を迎えられそうだから、連れて来てって頼まれただけ。その対応も『スピネル』が全部やるって張り切っちゃったから、僕はあんまり関わってないんだ~」
「スピネル?」
「でもモーズはね! 僕と遊んでくれるから来て欲しいんだ!」

 ぴょんとその場で飛び上がって両手を広げて、オニキスは全身でモーズを歓迎してくる。
 外見のみの判断になるものの、10歳は年の差はあるだろう相手に『遊び相手』を求めてくる理由がイマイチわからず、モーズは警戒したまま話を続けた。

「まるで決定事項のように話すな。私はとうに成人していて、君の年頃……ティーンの遊び相手に相応しいとはとても思えない」
「そんな事ないよっ!」

 するとオニキスは元気いっぱいに否定してきた。

「モーズだって子供だもんっ。いっぱい遊びたい子供だもんっ。だから絶対、こっちに来た方が楽しいよ!」
「……何を、言って……」
「大人でも子供な人っていっぱいいるよ? あ、でもワガママとか幼稚とは違うよ? 僕の言う子供は遊び足りてない子供! そういう子は、大きくなっても子供なんだよ!」

 オニキスが何を言っているのか、モーズにはわからなかった。幼稚とは違う子供。その対象に自分が入っている。
 何をどう考えたらそうなるのか、意味がわからなかった。

「スピネルは《不思議の国ワンダーランド》を作るのが夢みたいだけど、僕は《ネバーランド》を作るのが夢なんだ! 完成したら見せてあげるね! モーズも気に入ってくれるよ!」
「……そのネバーランドとやらを作るのに、君と同じ子供を殺める必要は、あったのだろうか?」
「子供~? あぁ、のこと? ボールはボールじゃんっ! あの未成熟子はネバーランドに招待できないボールだっから、転がしただけだよ? でも殺してなんかないよ! 未成熟子には《核》がないからさ、ばらばらになっても小さくなるだけで生きてるもんっ!」
「《核》……」
「うん! 【誕生日】を迎えられる《御使い》は皆んな持っているけど、他の皆んなは持てないんだって。残念だね~。でもボールにしたら有効活用っていうか、そう、再利用リサイクル! フルグライトが言ってた! 僕らの為に再利用リサイクルされるのは、素敵な事だって!」

 会話になっていない、支離滅裂に思える言動をしているオニキスの発言の中でも、気になる単語キーワードが幾つか発せられている。
 【誕生日】に、《御使い》に、未成熟子に、《核》に、再利用リサイクル
 今の機嫌が良さそうな彼に訊けば答えてくれるかもしれない。ここで得られる情報を元に、今後の研究が捗るかもしれない。

「もう、いい。喋らなくて」

 だがそれを押して、モーズはオニキスに閉口を求めた。

「やはり私は、君を許せそうに、ない」

 人の命を物も同然に扱う彼の思想を垣間見て、怒りで頭が、どうにかなりそうだったから。
 ズルリ。
 その怒りに呼応するように、モーズの右手首から、アイボリーの色をした触手が、姿を現す。

 ◇

「どうかしら? 貴女、薔薇が好きなようだから合わせてみたのだけれど」
「銀一色で、つまらないわ。やっぱり薔薇は真っ赤でなくっちゃ」
「女王さま気取りだなんて、やっぱりねぇ」

 水銀の周囲にも少女の周囲にも《虫型》の周囲にも舞い散る、薔薇の花弁状の液体金属が刃となって辺り一帯を切り刻む。
 《虫型》は逃げる事も抵抗する事もできぬまま、花弁状の刃に身体を刻まれ流血し、加えて傷から毒素も送り込まれて中毒へ陥りその場でビクンビクンと痙攣を始める。ものの数秒で、水銀は《虫型》を全員処分してしまった。

「まぁ! すごいわ! 貴方、お強いのね!」

 しかし視界が悪くなる程に舞う花弁状の刃は少女には何故か当たらず、傷一つ付けられていない。
 それを不審に思った水銀は細剣を構えると、一気に少女まで距離を詰めて彼女の胴へ切先を突き刺す。
 細剣はいとも簡単に少女を貫通した。まるでスコーンをフォークで刺したかのように、容易く。

(……。手応えがない?)

 そのあまりに柔らかすぎる感触に、水銀は片眉をひそめた。
 感染者ならば身体の外も中も、侵食した『珊瑚』の影響でどこかしら硬質なはず。人間でも内臓や骨からくる抵抗感を感じるはずなのに、少女からは何も感じない。
 空っぽだ。

「でも守りながら戦うのって、お辛くないかしら?」

 すると目の前の少女の頬にヒビが入ったかと思えば、キャンディが砕けるかのようにボロボロと崩壊していった。黒いドレスや手袋、靴も含めて壊れていっている。その中身は感触通り、空洞。
 全て、薄い菌糸で形造った偽物デコイだ。
 しかもいつの間にか水銀の前にも後ろにも、エドワードの右にも左にも少女の姿がある。菌糸の擬態能力を活かしてか、偽物デコイを増殖している。

「数の暴力だなんて、単純ねぇ」
「驚かないのね、いかれ帽子屋マッド・ハッター
「多勢に無勢なんて慣れているわ。悲しい事に。それにどうせ、本体は一つでしょうし。でも貴女、手数が多くて確かに面倒ではあるわね」

 水銀は少女がエドワードに害をなす前に、パチンと指を鳴らす。
 するとエドワードの周囲に舞っていた薔薇の花弁状液体金属が集い、丸い球を形造って彼を囲ってゆく。

「うわわわわっ!」
「あまり過呼吸をしているとなくなるわよ。中の酸素が」
「ひぇ……っ!」

 瞬く間に花弁状液体金属はエドワードを覆い尽くし、銀色の玉が1つ洞窟内にできあがった。
 ベニテングタケを模した菌糸が放つ淡い光源を反射し、つるりとした光沢を持ったその銀色の玉を見た少女達は、各々興奮気味に、口を揃えて喋り出した。

『あのお医者さまはハンプティ・ダンプティだったのね! 高い所から落ちたら、割れてしまうのだわ!』
「お馬鹿ね。卵に限らず高所落下したら何でも割れるわよ」

 誰が喋っているかで本体の見分けをするのは難しそうだ。だが少女の偽物デコイは床から生え、壁から生え、ベニテングタケから生え、と、瞬く間に数を増やし、洞窟を手狭にしていっている。
 しかも彼女達の片手には菌糸で作ったレイピア状の剣が握られていて、こちらを串刺しにして来る気だとありありとわかった。無限と思えるほど増殖していく数十の剣を一人で捌くのは、流石の水銀でも骨が折れる。彼はため息を吐いて肩をすくめた。
 少々、大雑把にいくことを決めて。

「ハンプティ・ダンプティは鏡の国ミラーランドに出てくるキャラクターよねぇ。鏡の国ミラーランドと言えば、ボクは【ジャバウォック】なんて好きなのだけれど、どうかしら?」
『まぁ! まぁ! いかれ帽子屋マッド・ハッター! ドラゴンが好きだなんて、貴方も男の子なのね!』
「女の子でもドラゴン好きな子はいるでしょうけど、ボク自身は男よ? からそう。ずっと、変わらない」

 ズズズズ
 水銀の足元、ハイヒールの踵から液体金属が溢れ出て、波打って、肥大化していく。
 そして数分もすれば水銀の背丈を優に超え、開けたここの広間でさえ手狭に思えるほど大きくなり、形を整え始める。
 コウモリに似た翼を生やし、長い尾を持ち、鋭い爪を伸ばした手があり、長い首に牙を生やした魚のような頭が付いた形へ。

 それは原作の挿絵でえがかれた、ジャバウォックの姿そのもので。
 水銀は完璧な『ゴーレム』を、作り上げたのだ。

「不本意だけど、貴女のおままごとに少し付き合ってあげるわ。だからこの怪物を退治してご覧なさい? 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

やっちん先生

壺の蓋政五郎
大衆娯楽
昔は小使いさんて呼ばれていました。今は技能員です。学校ではやっちん先生と呼ばれています。 鎌倉八幡高校で技能員をしている徳田安男29歳。生徒からはやっちん先生と慕われている。夏休み前に屋上の防水工事が始まる。業者の案内に屋上に上がる。二か所ある屋上出口は常時施錠している。鍵を開けて屋上に出る。フェンスの破れた所がある。それは悲しい事件の傷口である。

処理中です...