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第十二章 日本旅行編
第244話 花火
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「鶏血さま、言葉遣いが少々……。信徒達に聞かれてしまいます」
【ふん。どうせアタシの母国語なんて聞き取れもしない連中だ。気遣い不要】
「そうやって油断をしていると、いつか失言してしまいますよ?」
【アタシが今まで一度でもミスを犯した事があるか? 凡人とは頭の作りが違うんだよ】
「鶏血さま……」
【奴らが焦っているのは、祭りが終われば混乱に乗じる事ができないから、とかだろう? けどあの大人数で固まって動いている以上、手出しは危険。今日は諦めた方が堅実だな】
「それでは納得しないでしょう。教祖様に直接貢献できる、滅多にない機会なのです。【誕生日】を迎えずして〈洗礼名〉を頂戴できたかつてのラリマーや、貴方のようになりたいと、気が急いでおります」
【個人のお気持ちなんぞどうでもいい。アタシが求めるのは確実さ。功を急いで賭けに出るなんて馬鹿がする事だ】
そこまで言い切った鶏血は赤い扇子を開き、ぱたぱたと仮面に覆われた顔を扇ぐ。
「今日は居場所を掴んだだけで上々ネ。滞在場所の追跡ができれば常時、見張れるヨ。後はどこかしらで分断する時がくる事と期待して、機を伺うのが……」
「あ、鶏血さま」
「何ネ、ユワ」
「信徒達が動きました」
部屋の外、縁側での待機を命じていた筈の信徒達。彼らが慌ただしく移動する足音を聞き付けたユワが言う。恐らく命令に反して、鶏血が突き止めたウミヘビ達の元へ向かうつもりなのだろう。
ぼとり。鶏血は畳の上に赤い扇子を落とした。
「アタシもう帰っていいカ?」
「いけません。ここは堪えてください、鶏血さま」
◇
「やー! 満喫した満喫した! できりゃもちっと食いもんを片っ端から堪能したかったが、ここいらが限界かねぇ!」
林檎飴に焼き蕎麦。ボールすくいに千本くじ。お面、水風船ヨーヨー、チョコバナナ、じゃがバター、わた菓子、かき氷。川辺で涼む休憩を挟みつつ、燐が勧めた屋台は一通り回れた。
特にお面屋では『クスシごっこができる』と燐とアセトアルデヒドが随分と盛り上がり、長い時間をかけてお面を選んでいた。ビニル製の薄く安っぽいお面でも、身に付ければウミヘビは非日常を味わえる。それにフェイスマスク専門店である仮面屋が扱うマスクのデザインが幅広くなっている影響か、屋台のお面のデザインも伝統的な意匠や流行りのアニメキャラクターに限らない、豊富なデザインの物が並んでいた。
それに興奮した2人は全く興味を持っていなかったニコチンとパラチオンも巻き込んで(アトロピンは一言誘うと付き合ってくれた)、ラボにいるクスシが使っている面と似たデザインを購入。皆で付ける事にしていた。
そんな賑やかな時を過ごしている内にも太陽は傾き、祭り会場をオレンジ色に染め上げる。
「もう、夕刻か……。ではそろそろ、場所を移す……」
「えぇっ!? 待っておくんなせぇ青洲の旦那っ! まだ『祭りの醍醐味』を拝めちゃいねぇだろぃ!?」
「心配するな……。車からも、見える……。最後までは見れないが、それは我慢してくれ……」
祭りから離脱する事に対して不満を口にする燐を宥めつつ、青洲は時間が遅くなるに比例して増えていく人混みに身動きが取れなくなる前に、と、一行を駐車場に停めていた空陸両用車へ先導。乗り込み、発車する。ちなみに渋滞が発生している道路ではなく、空路を用いての移動だ。
ヒュ~……。ドン! ドドンッ!
間もなくして川沿いから花火が打ち上げられ、夜空に色とりどりの大輪の花を咲かせた。
この花火こそ、燐の言う『祭りの醍醐味』である。
「おっ! なかなかの絶景だねぇ! か~ぎや~っ! てなぁっ!」
「た~まやぁ~って掛け声も、聞いたことあるよぉ?」
「おっ! 通だねぇアセトアルデヒド! どっちもあるのよ! こいつの由来は花火師の屋号でねぇ!」
空中に浮かぶ車の窓から眺める花火は人の頭や屋台の屋根などの障害物に遮られる事なく拝む事ができ、車が移動している手前、徐々に離れていってはいるものの充分楽しめた。
「あれが花火……。火薬を使ってまでやる事か? ホログラムでも再現できるというのに」
「確かにドローンを使った花火ってのもあるねぇ! けどあの眩しい輝きは火薬でしか味わえないものさァ! よっっく目に焼き付けて欲しいねぇ!」
「えぇ。火薬など、いかに危険で恐ろしい物だとしても、そこに美しさがあれば……人は求めてしまうものなのですよ。パラチオン」
全開にした車の窓から各々、花火を堪能するウミヘビ達。
しかしニコチンだけは開けた窓から離れ、少し俯いた状態で座席に座っていた。
「ニコチン? どうしたんだ、気分でも悪いのか?」
「別に……。何でもねぇよ」
心配したモーズが声をかけるが、ニコチンははぐらかしてくる。しかし顔色も声音もあまり良い状態に見えず、祭りで人酔いしたのだろうかと、横になった方がいいのではとモーズが考えていると、
「ニコ、花火すっごく綺麗に見えるよぉ? 一緒に見ようよぉ」
「おう」
アセトアルデヒドに声をかけられて、ニコチンは彼の側へ移動してしまった。不調を感じさせない、穏やかな笑みと共に。
(具合が悪そうに見えたのは私の気の所為だったか……?)
花火や街灯が光源としてあるが、今は日の落ちた夜の時間。車内は暗い。それによってよく見えず、勘違いしてしまったかもしれない。
モーズが考え事をしている間にも車は祭り会場から離れていき、人里離れた山の側を飛んでいく。
「……。見えて参りましたね」
ぽつりと、アトロピンが呟く。
彼の視線を追って窓の外を見てみれば、青々とした緑に包まれた自然豊かな山の中、鬱蒼とした木々に隠れるように、灰色のコンクリートで塗り固められた建造物の姿が見えた。
5階建て程の、装飾性のない無機質な建造物。
寒々しい印象を受けるその建物には蔦植物が絡み付いていて、長い間放置されている事が見て取れる。
「あそこに見える廃墟こそ、わたくしの製造場所」
アトロピンが造られた、いや、生まれた場所。
「かつて《不老不死》の研究がなされていた研究所。その跡地になります」
《不老不死》。
空想で語られる生命観の一つ。永遠を生きる命。
何だか前にも聞いたような。
モーズは思い出そうとして思考したが、頭の中にモヤがかかって思い出せない。
そうこうしている内に空中を飛んでいた車は地上へと降り、廃墟の前に停まった。
「気分を害する方もいらっしゃるので、跡地で二手に別れます。モーズ殿とパラチオンは、わたくしと共に来て頂きたい」
【ふん。どうせアタシの母国語なんて聞き取れもしない連中だ。気遣い不要】
「そうやって油断をしていると、いつか失言してしまいますよ?」
【アタシが今まで一度でもミスを犯した事があるか? 凡人とは頭の作りが違うんだよ】
「鶏血さま……」
【奴らが焦っているのは、祭りが終われば混乱に乗じる事ができないから、とかだろう? けどあの大人数で固まって動いている以上、手出しは危険。今日は諦めた方が堅実だな】
「それでは納得しないでしょう。教祖様に直接貢献できる、滅多にない機会なのです。【誕生日】を迎えずして〈洗礼名〉を頂戴できたかつてのラリマーや、貴方のようになりたいと、気が急いでおります」
【個人のお気持ちなんぞどうでもいい。アタシが求めるのは確実さ。功を急いで賭けに出るなんて馬鹿がする事だ】
そこまで言い切った鶏血は赤い扇子を開き、ぱたぱたと仮面に覆われた顔を扇ぐ。
「今日は居場所を掴んだだけで上々ネ。滞在場所の追跡ができれば常時、見張れるヨ。後はどこかしらで分断する時がくる事と期待して、機を伺うのが……」
「あ、鶏血さま」
「何ネ、ユワ」
「信徒達が動きました」
部屋の外、縁側での待機を命じていた筈の信徒達。彼らが慌ただしく移動する足音を聞き付けたユワが言う。恐らく命令に反して、鶏血が突き止めたウミヘビ達の元へ向かうつもりなのだろう。
ぼとり。鶏血は畳の上に赤い扇子を落とした。
「アタシもう帰っていいカ?」
「いけません。ここは堪えてください、鶏血さま」
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「やー! 満喫した満喫した! できりゃもちっと食いもんを片っ端から堪能したかったが、ここいらが限界かねぇ!」
林檎飴に焼き蕎麦。ボールすくいに千本くじ。お面、水風船ヨーヨー、チョコバナナ、じゃがバター、わた菓子、かき氷。川辺で涼む休憩を挟みつつ、燐が勧めた屋台は一通り回れた。
特にお面屋では『クスシごっこができる』と燐とアセトアルデヒドが随分と盛り上がり、長い時間をかけてお面を選んでいた。ビニル製の薄く安っぽいお面でも、身に付ければウミヘビは非日常を味わえる。それにフェイスマスク専門店である仮面屋が扱うマスクのデザインが幅広くなっている影響か、屋台のお面のデザインも伝統的な意匠や流行りのアニメキャラクターに限らない、豊富なデザインの物が並んでいた。
それに興奮した2人は全く興味を持っていなかったニコチンとパラチオンも巻き込んで(アトロピンは一言誘うと付き合ってくれた)、ラボにいるクスシが使っている面と似たデザインを購入。皆で付ける事にしていた。
そんな賑やかな時を過ごしている内にも太陽は傾き、祭り会場をオレンジ色に染め上げる。
「もう、夕刻か……。ではそろそろ、場所を移す……」
「えぇっ!? 待っておくんなせぇ青洲の旦那っ! まだ『祭りの醍醐味』を拝めちゃいねぇだろぃ!?」
「心配するな……。車からも、見える……。最後までは見れないが、それは我慢してくれ……」
祭りから離脱する事に対して不満を口にする燐を宥めつつ、青洲は時間が遅くなるに比例して増えていく人混みに身動きが取れなくなる前に、と、一行を駐車場に停めていた空陸両用車へ先導。乗り込み、発車する。ちなみに渋滞が発生している道路ではなく、空路を用いての移動だ。
ヒュ~……。ドン! ドドンッ!
間もなくして川沿いから花火が打ち上げられ、夜空に色とりどりの大輪の花を咲かせた。
この花火こそ、燐の言う『祭りの醍醐味』である。
「おっ! なかなかの絶景だねぇ! か~ぎや~っ! てなぁっ!」
「た~まやぁ~って掛け声も、聞いたことあるよぉ?」
「おっ! 通だねぇアセトアルデヒド! どっちもあるのよ! こいつの由来は花火師の屋号でねぇ!」
空中に浮かぶ車の窓から眺める花火は人の頭や屋台の屋根などの障害物に遮られる事なく拝む事ができ、車が移動している手前、徐々に離れていってはいるものの充分楽しめた。
「あれが花火……。火薬を使ってまでやる事か? ホログラムでも再現できるというのに」
「確かにドローンを使った花火ってのもあるねぇ! けどあの眩しい輝きは火薬でしか味わえないものさァ! よっっく目に焼き付けて欲しいねぇ!」
「えぇ。火薬など、いかに危険で恐ろしい物だとしても、そこに美しさがあれば……人は求めてしまうものなのですよ。パラチオン」
全開にした車の窓から各々、花火を堪能するウミヘビ達。
しかしニコチンだけは開けた窓から離れ、少し俯いた状態で座席に座っていた。
「ニコチン? どうしたんだ、気分でも悪いのか?」
「別に……。何でもねぇよ」
心配したモーズが声をかけるが、ニコチンははぐらかしてくる。しかし顔色も声音もあまり良い状態に見えず、祭りで人酔いしたのだろうかと、横になった方がいいのではとモーズが考えていると、
「ニコ、花火すっごく綺麗に見えるよぉ? 一緒に見ようよぉ」
「おう」
アセトアルデヒドに声をかけられて、ニコチンは彼の側へ移動してしまった。不調を感じさせない、穏やかな笑みと共に。
(具合が悪そうに見えたのは私の気の所為だったか……?)
花火や街灯が光源としてあるが、今は日の落ちた夜の時間。車内は暗い。それによってよく見えず、勘違いしてしまったかもしれない。
モーズが考え事をしている間にも車は祭り会場から離れていき、人里離れた山の側を飛んでいく。
「……。見えて参りましたね」
ぽつりと、アトロピンが呟く。
彼の視線を追って窓の外を見てみれば、青々とした緑に包まれた自然豊かな山の中、鬱蒼とした木々に隠れるように、灰色のコンクリートで塗り固められた建造物の姿が見えた。
5階建て程の、装飾性のない無機質な建造物。
寒々しい印象を受けるその建物には蔦植物が絡み付いていて、長い間放置されている事が見て取れる。
「あそこに見える廃墟こそ、わたくしの製造場所」
アトロピンが造られた、いや、生まれた場所。
「かつて《不老不死》の研究がなされていた研究所。その跡地になります」
《不老不死》。
空想で語られる生命観の一つ。永遠を生きる命。
何だか前にも聞いたような。
モーズは思い出そうとして思考したが、頭の中にモヤがかかって思い出せない。
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