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第十二章 日本旅行編
第245話 初まりのウミヘビ
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人工島アバトンに建てられたオフィウクス・ラボ。
その中にある共同研究室では、膨大な事務処理と会議をどうにか捌き切ったクスシ達が気怠げな様子で丸椅子に座っていた。
「やーっとひと段落つきましたね……」
「でかい所との会議はこれで終わったかな? 終わった事にしたいな……」
今にも口から魂が抜けそうなフリーデンとパウルは、実験台に突っ伏して脱力している。
普段ならばだらしのない態度を見れば咎めるユストゥスも、今ばかりは実験台に寄りかかりぼんやりとしていた。
「ひとまず一旦、落ち着いた所でぇ。クスシしゅ~ご~っ! 大事なお話すっるよ~っ!」
「何だ、いきなり」
「どうしたんですか、一体」
そんな中、丸椅子から唐突に立ち上がったカールが手を叩いてクスシ達の注目を集める。
彼はひぃふぅみぃ、と共同研究室にいるクスシの人数を数えて、フリッツの姿がない事に気付いた。
「あれ? フリッツまだ戻ってなかったっけ?」
「フリッツならば今、製作所に……」
「呼んだかな? 今、戻ったよ」
「おっ! 噂をすればぁっ!」
製作所にて一人で冷気放射器の改良を試みていたフリッツ。彼の作業もひと段落したようで、共同研究室に折よく現れてくれた。
フリードリヒを除き、タイミングよく今いるクスシ全員が集ってくれた事にカールは感謝しつつ、フリッツを丸椅子に座らせ、他のクスシも自分の方へ向くよう促した後、話を始める。
「や~っ! 実はイギリスに出張した時にとんでもない奴と接触しちゃってね~っ! それを共有したかったの!」
「そういった情報はもっと早くに伝えるべきでは?」
「緊急だけど緊急じゃないから後回しにしてたんだっ!」
「緊急だけど緊急じゃない? 何ですかそれ、禅問答じゃないんですから……」
「そんなことな~いよっ! 優先順位のモ、ン、ダ、イッ!」
「それで本題は何なんだい。勿体ぶらずに話してよ」
「りょーかいりょーかい!」
そこでカールは黒衣のポケットからリモコンを取り出すと、自身の側にあった実験台の上に大きなホログラム画面を投影させる。
「パウルちゃんはちょっと知っているけどユストゥス達は全く知らないだろうから、俺ちゃん丁寧に説明するよ~ん」
そのホログラム画面に映っているのは、一つの紋章。
細い手足が付いた黒蛇が円を描くように丸まり、口を開けた頭を尻尾に向けているシンボルが描かれた紋章。
「《ウロボロス》」
『永遠』、『無限』、『循環』。創造と崩壊、生と死といった、相反する物をも表す、古来から使われてきたシンボル。
「【不老不死】実現の為の研究に没頭していた、国連直轄秘密組織さ」
◇
「《ウロボロス》」
薄暗い廃墟の中。剥き出しのコンクリートで造られた廃墟に招かれたのは、パラチオンとモーズのみ。青洲と他のウミヘビは、近場に流れている川辺で待機している。
長い間、人の手から離れているとわかる廃墟の壁にはガラスがなくなった大きな窓があり、そこから月光が降り注ぐ。その月光が照らすものの一つ、ラボの共同研究室で馴染み深い実験台。その上にかけられたボロボロのテーブルクロスに描かれた、細い手足が付いた蛇の輪。
そのシンボルの名を、アトロピンは淡々と口にした。
「【不老不死】の実現を目的に作られた組織。わたくしを製造した組織……正確には、その残党ですが」
壁際に無数に設置された、人一人分が入る大きさのある培養槽。薬品棚。古いパソコン。顕微鏡。測定器。フラスコ。試験管。
どれもこれも埃を被り、割れ、壊れ、無惨な姿になっているが――オフィウクス・ラボと同じ研究所であった面影が強く残っている。
「アトロピン。君を《ウロボロス》という組織が製造したという事は、ウミヘビ達は不老不死実験の成果という事だろうか? 確かに外見年齢が固定され老いず、病気に罹らず、負傷も即座に治る再生力を持つ。成果としてはこれ以上ないほど完璧に思えるな」
「いいえ、違います」
「えっ」
【不老不死】実現を目標とする組織が造ったというのだから、モーズはてっきり不老不死を求めた末に産まれたのがウミヘビかと思ったのだが、その予想はアトロピンにあっさり否定されてしまう。
「結果的に不老不死に近しい【器】になりましたが、我々は不老不死の実現の目的で造られたのではありません。パラチオン、貴方もよくお聞きください。ここから先は、貴方も知り得ぬ事なのですから」
「あ、あぁ」
アトロピンと同じウミヘビであるパラチオンも知らない、ウミヘビの真実。起源。
モーズは覚悟して傾聴した。
「今より40年前、初まりのウミヘビが2人産まれた……」
40年前。西暦2280年。
5年前に造られたパラチオンは勿論、モーズが産まれるよりも昔の時代。
「その片割れはモーズ殿もご存じである、《水銀》。彼こそが最初に誕生したウミヘビなのです」
「……誕生、とは」
「産まれたのですよ。ほとんど偶発的に、と所長はおっしゃっていましたね。ただし、その頃は現在のような人の姿はしていなかったそうです。容易に動き回れない姿をしていた、と聞いております」
いつだかフリーデンが「水銀はオフィウクス・ラボが創立される以前より所長と共に行動をしていて、実年齢はおおよそ40歳」だと話してくれた事があったが、その年齢こそがウミヘビの中での最高齢だったようだ。
他のウミヘビ達から年上扱いされ、水銀自身の振る舞いの節々からも感じる老獪さも納得がいく。
「そこで所長は彼らが自由に行動できるように、と人型の【器】を作る事を目指しました。やがて、その目標を達成するに最適と考えた《ウロボロス》へ所属する事を決めた。水銀が産まれてから7年後、今より33年前の事になります。砒素はその7年の間に誕生した、と聞き及んでおります」
シアンに「ジジイ」と老人扱いをされていた砒素。彼もまた水銀に続く年長者だったらしい。
「つまり意図的にウミヘビを造る方法を確立していたのです。ちなみに既に産まれていたウミヘビは当時、水銀や砒素を含め、5人。そして――彼らに贈る為の【器】造りが、始まった」
その中にある共同研究室では、膨大な事務処理と会議をどうにか捌き切ったクスシ達が気怠げな様子で丸椅子に座っていた。
「やーっとひと段落つきましたね……」
「でかい所との会議はこれで終わったかな? 終わった事にしたいな……」
今にも口から魂が抜けそうなフリーデンとパウルは、実験台に突っ伏して脱力している。
普段ならばだらしのない態度を見れば咎めるユストゥスも、今ばかりは実験台に寄りかかりぼんやりとしていた。
「ひとまず一旦、落ち着いた所でぇ。クスシしゅ~ご~っ! 大事なお話すっるよ~っ!」
「何だ、いきなり」
「どうしたんですか、一体」
そんな中、丸椅子から唐突に立ち上がったカールが手を叩いてクスシ達の注目を集める。
彼はひぃふぅみぃ、と共同研究室にいるクスシの人数を数えて、フリッツの姿がない事に気付いた。
「あれ? フリッツまだ戻ってなかったっけ?」
「フリッツならば今、製作所に……」
「呼んだかな? 今、戻ったよ」
「おっ! 噂をすればぁっ!」
製作所にて一人で冷気放射器の改良を試みていたフリッツ。彼の作業もひと段落したようで、共同研究室に折よく現れてくれた。
フリードリヒを除き、タイミングよく今いるクスシ全員が集ってくれた事にカールは感謝しつつ、フリッツを丸椅子に座らせ、他のクスシも自分の方へ向くよう促した後、話を始める。
「や~っ! 実はイギリスに出張した時にとんでもない奴と接触しちゃってね~っ! それを共有したかったの!」
「そういった情報はもっと早くに伝えるべきでは?」
「緊急だけど緊急じゃないから後回しにしてたんだっ!」
「緊急だけど緊急じゃない? 何ですかそれ、禅問答じゃないんですから……」
「そんなことな~いよっ! 優先順位のモ、ン、ダ、イッ!」
「それで本題は何なんだい。勿体ぶらずに話してよ」
「りょーかいりょーかい!」
そこでカールは黒衣のポケットからリモコンを取り出すと、自身の側にあった実験台の上に大きなホログラム画面を投影させる。
「パウルちゃんはちょっと知っているけどユストゥス達は全く知らないだろうから、俺ちゃん丁寧に説明するよ~ん」
そのホログラム画面に映っているのは、一つの紋章。
細い手足が付いた黒蛇が円を描くように丸まり、口を開けた頭を尻尾に向けているシンボルが描かれた紋章。
「《ウロボロス》」
『永遠』、『無限』、『循環』。創造と崩壊、生と死といった、相反する物をも表す、古来から使われてきたシンボル。
「【不老不死】実現の為の研究に没頭していた、国連直轄秘密組織さ」
◇
「《ウロボロス》」
薄暗い廃墟の中。剥き出しのコンクリートで造られた廃墟に招かれたのは、パラチオンとモーズのみ。青洲と他のウミヘビは、近場に流れている川辺で待機している。
長い間、人の手から離れているとわかる廃墟の壁にはガラスがなくなった大きな窓があり、そこから月光が降り注ぐ。その月光が照らすものの一つ、ラボの共同研究室で馴染み深い実験台。その上にかけられたボロボロのテーブルクロスに描かれた、細い手足が付いた蛇の輪。
そのシンボルの名を、アトロピンは淡々と口にした。
「【不老不死】の実現を目的に作られた組織。わたくしを製造した組織……正確には、その残党ですが」
壁際に無数に設置された、人一人分が入る大きさのある培養槽。薬品棚。古いパソコン。顕微鏡。測定器。フラスコ。試験管。
どれもこれも埃を被り、割れ、壊れ、無惨な姿になっているが――オフィウクス・ラボと同じ研究所であった面影が強く残っている。
「アトロピン。君を《ウロボロス》という組織が製造したという事は、ウミヘビ達は不老不死実験の成果という事だろうか? 確かに外見年齢が固定され老いず、病気に罹らず、負傷も即座に治る再生力を持つ。成果としてはこれ以上ないほど完璧に思えるな」
「いいえ、違います」
「えっ」
【不老不死】実現を目標とする組織が造ったというのだから、モーズはてっきり不老不死を求めた末に産まれたのがウミヘビかと思ったのだが、その予想はアトロピンにあっさり否定されてしまう。
「結果的に不老不死に近しい【器】になりましたが、我々は不老不死の実現の目的で造られたのではありません。パラチオン、貴方もよくお聞きください。ここから先は、貴方も知り得ぬ事なのですから」
「あ、あぁ」
アトロピンと同じウミヘビであるパラチオンも知らない、ウミヘビの真実。起源。
モーズは覚悟して傾聴した。
「今より40年前、初まりのウミヘビが2人産まれた……」
40年前。西暦2280年。
5年前に造られたパラチオンは勿論、モーズが産まれるよりも昔の時代。
「その片割れはモーズ殿もご存じである、《水銀》。彼こそが最初に誕生したウミヘビなのです」
「……誕生、とは」
「産まれたのですよ。ほとんど偶発的に、と所長はおっしゃっていましたね。ただし、その頃は現在のような人の姿はしていなかったそうです。容易に動き回れない姿をしていた、と聞いております」
いつだかフリーデンが「水銀はオフィウクス・ラボが創立される以前より所長と共に行動をしていて、実年齢はおおよそ40歳」だと話してくれた事があったが、その年齢こそがウミヘビの中での最高齢だったようだ。
他のウミヘビ達から年上扱いされ、水銀自身の振る舞いの節々からも感じる老獪さも納得がいく。
「そこで所長は彼らが自由に行動できるように、と人型の【器】を作る事を目指しました。やがて、その目標を達成するに最適と考えた《ウロボロス》へ所属する事を決めた。水銀が産まれてから7年後、今より33年前の事になります。砒素はその7年の間に誕生した、と聞き及んでおります」
シアンに「ジジイ」と老人扱いをされていた砒素。彼もまた水銀に続く年長者だったらしい。
「つまり意図的にウミヘビを造る方法を確立していたのです。ちなみに既に産まれていたウミヘビは当時、水銀や砒素を含め、5人。そして――彼らに贈る為の【器】造りが、始まった」
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