毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十七章 迷子の子供達編

第351話 遊園地

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 パラス感染病棟駐車場、ラボ所有の空陸両用車の中。
 運転席に座ったフリードリヒは、ぶつくさ文句を言いながらナビの操作をしていた。セレンを迎えに行くのには同意したものの、ついでにと任されたモーズの回収に不満があるのだ。

「餓鬼の1匹や2匹、放っておけばいいというのに」
「モーズさんはどうでもいいんでしょうけど、セレンさんは心配じゃないんですか?」
「彼は強く賢い。暗くなる前に帰って来られる」

 助手席に乗ってきたタリウムにそう返しつつ、フリードリヒはナビに行き先を入力する前に、フロントガラスにホログラム映像を投影する。
 そこにはこの駐車場含め、上空から撮影された画像が複数映された。

「フリードリヒさん、この映像は?」
「衛星をハッキングしただけだが?」
「さらっと凄いことしてますね」

 人工衛星の画像はオンラインからのアクセスで閲覧する事は誰でもできる。しかしプライバシーや機密に関する画像は、モザイク処理やノイズ、認識阻害が機能するようになっており、ラボの空陸両用車もその機密に引っ掛かり通常では目視ができない。
 なのでフリードリヒは衛星そのものをハッキングし、認識阻害を一時的に除去。セレン達の乗るラボの車が駐車場からどこに向かったのか、追跡を開始した。
 手際よく事を進めるフリードリヒの姿に、タリウムは感心を抱く。だがそれと同時に不安も抱いた。
 脳裏に浮かぶのは病棟を出る前、病室で聞いたフリーデンの言葉だ。

『タリウム。セレンが何で規則破ったかわからねぇけど、ともかくモーズのこと頼むな。フリードリヒさんはほら、頼りになるけど頼りにならないから……。何かしら礼はするからさ!』

 頼りになるが頼りにならない。
 フリードリヒを表すのにこれほど相応しい言葉はないだろう。彼はウミヘビに関する事ならば親身になるが、それ以外の事には欠片も興味を抱かないのだから。なので協力して貰うにはタリウムがそれとなく誘導しなくてはならない。

「ここか。ギリシャのウロボロス研究所跡地」

 タリウムが「この人の手綱握れるんだろうか」と悩んでいる間にも、フリードリヒはセレン達の行き先を突き詰めていた。
 パラスの隣国ギリシャ。そこに建てられたウロボロス研究所跡地の側に、ラボの車が乗り捨てられている。

「タリウム、君の頼みだから向かうのだが……。もし研究所の事で気分が悪くなるのなら、ここで下車するといい」
「平気っス。行きましょう、フリードリヒさん」

 ◇

 まず聞こえてきたのは、軽快な音楽。そして子供達の笑い声。
 ごうごうと大きな音を立てて高速で走るジェットコースターに、その轟音に負けないほど大きな声で楽しげに叫ぶ乗客。
 ゆっくりと優雅に回る大きな観覧車。白馬の群れと馬車が回るメリーゴーランド。回転するティーカップ。座席が浮かぶ空中ブランコ。海賊船が浮かぶバイキング。

(ここは、どこだ……?)

 15となった今でも訪れた事のない、遊園地の光景に、モーズは戸惑うばかりであった。

(テレビや本で見た景色そのもの、なのはいいんだが。私はここに一人で来たのか? そもそもチケットを買った記憶も、入園した記憶も)
「モーズ」

 ここに至るまでの経緯が思い出せず、頭の中で必死に記憶を辿っていたモーズに、同い年くらいの少年が声をかけてくれる。
 カラフルな遊園地の中でもよく目立つ、黒髪黒目をした少年だ。

「あれ? えっと、君は……」
「僕オニキス。こないだは嫌いだなんて言ってごめんね」
「こないだ?」
「ねっ、遊ぼう?」
「駄目だ」

 モーズはオニキスと名乗った少年の誘いを、一切の迷いなく断った。

「私は医大の受験を控えている身。すまないが遊んでいる暇はない」
「えっ、でもほら、息抜きは」
「そんな余裕はないんだ」
「……堅苦しい」

 自分は医大合格を目指す受験生だから、という至極真っ当な理由でキッパリと誘いを断ってきたモーズに、むすりと頬を膨らませ、不満を露わにするオニキス。

「そうだ、もっとちっちゃくなればいいんだ!」
「ちっちゃく?」

 それは一体どういう意味かとモーズが理解する前に、ふと視線が下がった。30センチほど背が縮んでいる。また自分と同じように、オニキスの背も縮んでいる。
 正確には縮んだのではなく、幼くなっている。ついさっきまで15歳の見目だったというのに、10歳へ早替わりだ。
 しかしそんな超常現象をモーズは疑問に思う事なく、「10歳でオニキスと遊園地を訪れた」という意識だけが芽生える。

「これで思いっきり遊べるね! 僕、遊園地初めて来るんだ! 友達と来られて嬉しいなぁ」
も、はじめて」
「本当? 僕達、仲間だねぇっ」

 オニキスに手を握られて引っ張られても、モーズは抵抗する事なく歩みを進める。
 オニキスがモーズと共に真っ先に向かったのは遊園地の目玉、ジェットコースターだ。まずは身長制限を表す人形ピノキオが描かれたパネルと背比べをし、背丈が優っているかを確かめた。
 2人ともピノキオより背が高い。乗車の条件はクリアだ。

「よーし身長制限は回避! 早速乗ろう乗ろう!」
「う、うん」

 ◆

 昨日の出来事である。セレンは教会の廃墟、アパタイトが作り出した菌床の中で、菌糸の塊である『傀儡』に向けて取り引きを交わした。
 ペガサス教団にはウロボロスの関係者がいると聞いた。その関係者がもしもトールを知っているのならば、その身柄と引き換えに望む物を与えると。
 そう伝えると『傀儡』のうち一体が突如として流暢に話だし、セレンの取り引きを受けにかかった。
 相手側の望む物は、モーズ。これはセレンも予想できていた事だ。執拗に狙う素振りを今までも見せていたのだから。しかし指名してきた取り引き場所は想定外だった。
 セレンが造られた研究所の場所を、相手は言ってきたのだから。

(私の製造場所を指名してきた以上、トールについて何かしら知っているのは確定した。それでも取り引きを反故にしてくる可能性は十分あると考えていましたが、まさか本当に現れるとは)

 僅かでもトールに近付く為に、セレンはモーズを餌にした。
 その結果、目の前にはフルグライトと名乗るトール本人が現れてくれた。他人の空似などではなく。
 セレンにはわかる。何せフルグライトの頬に走る赤い稲妻は、セレンが付けた『マーキング』なのだから。例え顔を整形しようとも消えないほど深く刻み付けた、毒素を用いた目印。
 その怨敵を前にしたセレンがまず口に出した言葉は、

「移動しましょうか?」

 場所を変える事の提案であった。

「どうしてだい?」
「貴方、素直に殺されてくれないでしょう? 今この場で命を捨ててくださるか、お二人を巻き込んでもよろしいのなら移動しなくとも構いませんが」

 話しながら、セレンは白衣の下、背中に収納していたチャクラムを手に取る。
 この場で殺しにかかってもいいが、モーズが側に居ると気が散る。故の提案であった。

「確かにそれは困るね。これ以上、アレキサンドライトにインクルージョンが入ってしまってはいけない」

 フルグライトはその提案を素直に聞き入れ、踵を返して歩き始める。チャクラムを手にしたままセレンも彼の後を追い、『隔離部屋』を出た。
 暗闇に包まれた廊下を進んだ後、辿り着いたのは食堂。だった広い部屋である。ここも天井や壁に穴が空き、廃墟然とした場所であるものの、長机や椅子は幾らか残っていて今でも使える程度の名残はあった。

「懐かしい。セレンはこの席がお気に入りだったね」

 現存する席のうちの一つに腰をおろし、フルグライトは感慨深そうに言う。
 そして向かいの席に座るよう、セレンを手招いた。

「さぁ、セレン。気が済むまで話すといい」
「話す?」
「久し振りにと、お喋りしたかったんだろう?」
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