毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十七章 迷子の子供達編

第354話 お父さん

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 ◆

「あぁ~っ! 負けた~っ!」
「私も負けてしまいましたね」
「たっ、たまたまだよ。もう一回やったらわからないと思うよ?」

 タコ型宇宙人をレーザービームで討伐するアトラクションは、搭乗者が扱うビーム銃毎に倒した数がカウントされ終了後に得点がわかるのだが、カウントの得点を元に作られたランキング画面では、モーズの名前がトップを飾っていた。
 その事にオニキスは黒髪をがしがしと両手で乱して全身で悔しがり、セレンも目を細め少々不服そうな表情を浮かべている。モーズは苦笑する他なかった。

「またやってみようよ。次はもっと上手にできるから、絶対」
「……。ねぇモーズ、ここ楽しい?」
「うん? うん、楽しいね」
「それじゃさ、ずっとここに居ようよ!」
「ずっと?」

 オニキスの提案の意図がわからず首を傾げるモーズ。
 ずっと居るとは、遊園地から帰らないという意味なのだろうか。そこでモーズは帰り方がわからない事を思い出した。出口がわからないのだ。何せ、そもそも入園した記憶がないのだから。
 それを認識して、モーズは楽しい筈の遊園地に薄寒さを覚えてしまう。

「セレンもどう? お父さん見つかんないし」
「お気持ちだけいただきます。私にはやることがありますから」
「……なーんだ、つまんないの」
「セレン」

 その時、セレンを呼ぶしわがれた声が聞こえた。
 声をした後ろを向いてみると、2メートルはある長身の男性がモーズ達の方へ向かって歩いている。遊園地に来てから初めて見る大人だからか、長身という事を除いても何だかヤケに大きく見える。手足も不自然に長い。
 顔は黒いクレヨンで塗り潰されたようになっていて認識できず、全身も黒服を着ている所為で影法師のようだ。モーズは『スレンダーマン』という怪人の伝説を小耳に挟んだ事があるが、この男性はその印象に近い。

「セレン、探したぞ。見つかってよかった。ほら帰ろう」
「お父さん」

 ぐらぐらと頭を揺らし、不安定な動きをしながらも、『お父さん』はセレンに向け猿のように長い手を伸ばす。
 が、セレンはその手を取らず、それどころかアトラクションで使用したレーザービームを『お父さん』に向けると迷わず引き金を引いた。
 レーザービームから発射された光線は『お父さん』の手に直撃し、表面を焼き、ぶすぶすと黒煙をあげる。
 セレンの突然の凶行に、モーズはぎょっと目を見開く。

「セレン……!?」
「これは『お父さん』を身にまとった『怪物』です。倒さないといけません」

 しかしセレンに反省の様子はない。
 すると攻撃を受けた『お父さん』こと『怪物』は頭をぐらぐらと激しく左右に揺らした後、ボコリと、首からもう一つ
 その頭は黒山羊で、白い歯を剥き出しにしたかと思えばけたたましい奇声を響かせる。
 変化はそれだけで終わらず、黒いクレヨンで塗り潰されたような人の顔も変形していき、頬は裂け大きな口ができ鋭い牙を生やし、長い舌をでろりと伸ばす。
 本能的に危機感を覚えるには十分な姿となった所で、怪物は怠慢な動きながらも腕を振り回し、モーズ達へ迫ってきた――!

「ちょっと、ここは僕の遊園地だよ!? こんなアトラクションの想定は……!」
「オニキス! ともかく逃げよう!」

 離れなければ危険と判断し、モーズはオニキスとセレンを手を引っ張ってその場から逃走をする。
 幸い怪物の動きは遅く、また目が見えていないのか無秩序に歩き回っている。よって撒くのは簡単で、モーズ達はひとまずポップコーン売り場の陰に身を潜め、そこから怪物の様子を伺う事とした。

「なんであんな怪物が……。この遊園地は『楽しい』を詰め込んだ世界で、『怖い』とか『恐ろしい』とか入る余地なんてないはずなのに」
「? オニキス、それどういう意味?」

 言っている意味がわからずモーズが訊ねると、オニキスは少し迷ったような顔をした後、ポップコーンの店舗をチラ見してこう言った。

「モーズ、好きなお菓子なに?」
「えっと、マドレーヌ」
「じゃあマドレーヌ食べたい~っ! って想像してみて」
「マドレーヌ、マドレーヌ……」

 言われた通りぶつぶつとマドレーヌを呟くモーズ。
 すると目の前にマドレーヌが突如として現れ、反射的に手を伸ばしたモーズの手中に落ちてきた。

「っ!? 出てきた!」
「ここ、何でも具現化できるの。そんななの」
「クロワッサン」

 ぽんっ
 モーズに続き、セレンの手中にも願った物が現れた。

「出てきましたね」

 セレンはクロワッサンを千切ったり食べたりし、見た目だけを再現したのではない本物である事を確かめた後、

「じゃあ大砲」

 眼前に大きな大砲を出現させた。
 そして迷いなく火を付け砲弾を発射し、身を潜めていたポップコーン売り場ごと怪物へ着弾。ドカンという爆音と共に吹き飛ばす。
 あまりにもスムーズに行われた一連の流れを止められず、オニキスは目を丸くし唖然とする。しかし直ぐに我に返り、セレンを怒った。

「変な怪物出すに飽き足らず、遊園地壊さないでよ~っ!」
「肝心の怪物が倒れていませんね。なぜでしょう」

 オニキスの怒りを右から左へと聞き流したセレンは、大砲の砲弾が直撃しても平然と立っている怪物を睨み付けている。
 タイルが敷かれた広場の地面はクレーターが出来たかのように凹んでいるというのに、怪物自体にはまるで効いていない。

「えっ、それは……。倒すイメージが足りなかったんじゃない?」
「その、セレン。怪物は倒さないといけないものなの? 確かに近付くのは危なそうだけど、はなれていたら大丈夫じゃないかな?」
「駄目です。あれは放っておくと嫌なことしてきます」
「そんなに、いやなことされた?」
「……はい」

 モーズの問いかけに、セレンは服の裾をきゅっと掴んで小さく頷く。
 とても悲しげな表情を浮かべて。

「ぶたれたとか」
「いいえ」
「ゴハンをぬかれたとか」
「いいえ」
「服をくれないとか」
「いいえ」
「おもちゃを買ってくれないとか」
「いいえ」
「お勉強を手伝ってくれないとか」
「いいえ」
「口をきいてくれないとか」
「いいえ」
「遊んでくれないとか」
「いいえ」
「お家のお手伝いばっかさせられるとか」
「いいえ」
「せまいところに閉じ込められたとか」
「いいえ」

 しかしモーズが思い付く限りの嫌な事を、セレンは受けていないのだと言う。
 何なら病院で一人ぼっちにされたオニキスの両親より、まともな印象を受ける。寧ろ理想的な父親ではなかろうか。

「? 僕をほったらかしてた人達より、いいお父さんじゃない?」
「よくない!」

 セレンは声を張り上げて否定をした。
 初めて見る彼の感情的な姿に、モーズとオニキスは呆気に取られる。

「……私は怪物に、嘘を、つかれました」
「嘘?」
「あの怪物は、『お父さん』じゃなかったんです」
「血がつながってないとか、そういう?」
「それもありますけど、そうじゃない」

 今にも泣き出しそうな表情で怪物を凝視するセレン。
 大砲を当ててでもやっつけたい怪物を。

「あの怪物は、がしてくれたことを、自分がしたんだって嘘を言ったのです」

 ◆
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