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第十七章 迷子の子供達編
第353話 怨恨
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「セレンのお父さんはどんな人?」
「体が大きいです。2メートルはあります」
「何それ。おっき過ぎない?」
子供用カートでのカーレースに興じたり、ミラーハウスで不思議体験をしながら、モーズ達3人は遊園地のあちらこちらを歩き回る。
その最中にもセレンが教えてくれた『お父さん』、2メートルもの長身を持つ男性の姿を探すが、見付けられる事はなかった。それだけ長身ならば遠目からでも目立つだろうが、やはり遊園地には子供と自動人形しかいない。
「お二方の父親はどうなのでしょうか」
「ごめん。ぼくにはいないんだ、お父さん」
「……? どうして謝るのでしょうか」
「え? ええと、その。そ、そうだ。オニキスは?」
「僕? いたにはいたけど、あんまり記憶ないな~。全然、来ないの」
「来ない?」
「病院」
むすりとした表情で、オニキスは心底嫌そうに自身の親の話をする。
「お母さんも滅多に来てくれなかったよ。暇つぶしにってゲームくれたけど、それだけ」
「お母さん。知らない存在です」
「ぼくも」
「別にいなくていいじゃん。いなくっても困らないんだからさ」
両親が揃っていたとしてもいい思い出がある訳ではない。
それどころかオニキスからすれば思い出したくもないらしく、話題を変える為に目に付いたドーム状の建造物を指差し、2人の手を引っ張った。
建造物の壁には、UFOを模した乗り物に乗った乗組員が、丸みのある銃を使いタコ型宇宙人を倒すイラストがペイントされている。
「ねぇねぇレーザービームが撃てるアトラクションあるよ! 行ってみよ~っ!」
◆
「はっ、はっ、はっ……」
チャクラムを片手に、セレンは肩で息をしていた。
白衣は腕や腹部を中心に青く染まり、足元にも青い血による血溜まりが出来ている。
菌糸で作られたキメラの『傀儡』に噛み付かれたのだ。セレンに噛み付き、血肉を貪ったキメラは毒素が付着した事によって菌糸が死滅、その場で崩れ落ちたものの、そんな捨て身の攻撃をけしかけてくるキメラが何体もいるものだから、対処や再生が追い付かず、多量の出血を許してしまった。
(青い血の効果さえ薄い。本体を叩かなくては消耗する一方ですか)
ただの『傀儡』たるキメラは輪切りにしても、コブからまた形成され無尽蔵に湧いてくる。
恐らく研究所のどこかに養分が、つまり人間がいるのだろう。本体を前線に出さず、増殖できる『傀儡』で異物を対処する。合理的で効果的な戦略だ。
(しかし菌糸や『傀儡』を意のままにコントロールするには、近場にいなくてはいけない。分身を駆使して逃げてばかりいたあのアパタイトも本体は教会の中、菌床の内側にいたのですし。つまり奴もこの部屋にいる筈です。必ず、見付け出す)
効果が薄いといっても、青い血や毒霧による菌床のダメージは着実に溜まっている筈で、また増殖するに必要な養分にもいつか必ず底がつく。
何よりセレンの毒素による腐食によって削られた菌床内の傷は、物理的な損傷が激しくリカバリーができていない。チャクラムの傷が荒々しく残っているのがその証拠だ。
勝機はある。
『息子が傷付くのを見るのは心が痛む。反抗期も程々にしたらどうかな』
「息子? 心にもない事をおっしゃる」
どこからか語り掛けてくる、フルグライトの言葉を鼻で笑うセレン。
「私に父はおりません。製造者や教育係を親と呼ぶ方も、世の中にはいらっしゃるようですが……。私はその程度の縁で飼い慣らされるのは御免だ」
『寂しい事を言う。昔は呼んでくれていたじゃないか。私の事を、お父さんと』
びきり。
冷静さを保とうとしていたセレンの額に、青筋が浮かぶ。
「……静かにして頂きたい。虫唾が走る」
『残念な事に私は、君がそんなにも怒る理由がわからないんだ。父親失格だな』
「ですから私に父など」
『食事を与え言葉を教え、読み書き算術も教育し、衣食住も仕事も与えてきた。本やゲーム、映画といった娯楽だって』
その言葉は、真実だ。
フルグライトはセレンに、人間の子供と同じように教育を与え娯楽を体験させ、研究所の仕事を任せられる程の経験を積ませる事も厭わなかった。
その事実がまた、セレンの神経を逆撫でする。
『外に出す事はできなかったが、それ以外は何不自由なく暮らさせてきた。あのまま一緒にいてくれれば、軟禁の緩和もいずれは叶って……』
「貴方は」
低く固い声しか出せない。チャクラムを握る手が戦慄く。
力を込め過ぎた結果、爪が食い込み皮膚を突き破り、手の平から青い血が滴り落ちる。
「貴方は私に、何も与えちゃいませんよ。思い上がりも甚だしい。……あぁ、いえ一つ、私にくれた物がありましたね」
セレンは腰を低くし重心を落とし、青い血が滴るチャクラムを構えた。
フルグライトがどこに身を潜めているのかなど、関係ない。
増殖が追い付かない程に切り刻んで、菌床ごと消し去ってしまえばいい。
「この、どうする事もできない、憎悪を」
寝ても覚めても消えない、怨恨を持ってして。
「体が大きいです。2メートルはあります」
「何それ。おっき過ぎない?」
子供用カートでのカーレースに興じたり、ミラーハウスで不思議体験をしながら、モーズ達3人は遊園地のあちらこちらを歩き回る。
その最中にもセレンが教えてくれた『お父さん』、2メートルもの長身を持つ男性の姿を探すが、見付けられる事はなかった。それだけ長身ならば遠目からでも目立つだろうが、やはり遊園地には子供と自動人形しかいない。
「お二方の父親はどうなのでしょうか」
「ごめん。ぼくにはいないんだ、お父さん」
「……? どうして謝るのでしょうか」
「え? ええと、その。そ、そうだ。オニキスは?」
「僕? いたにはいたけど、あんまり記憶ないな~。全然、来ないの」
「来ない?」
「病院」
むすりとした表情で、オニキスは心底嫌そうに自身の親の話をする。
「お母さんも滅多に来てくれなかったよ。暇つぶしにってゲームくれたけど、それだけ」
「お母さん。知らない存在です」
「ぼくも」
「別にいなくていいじゃん。いなくっても困らないんだからさ」
両親が揃っていたとしてもいい思い出がある訳ではない。
それどころかオニキスからすれば思い出したくもないらしく、話題を変える為に目に付いたドーム状の建造物を指差し、2人の手を引っ張った。
建造物の壁には、UFOを模した乗り物に乗った乗組員が、丸みのある銃を使いタコ型宇宙人を倒すイラストがペイントされている。
「ねぇねぇレーザービームが撃てるアトラクションあるよ! 行ってみよ~っ!」
◆
「はっ、はっ、はっ……」
チャクラムを片手に、セレンは肩で息をしていた。
白衣は腕や腹部を中心に青く染まり、足元にも青い血による血溜まりが出来ている。
菌糸で作られたキメラの『傀儡』に噛み付かれたのだ。セレンに噛み付き、血肉を貪ったキメラは毒素が付着した事によって菌糸が死滅、その場で崩れ落ちたものの、そんな捨て身の攻撃をけしかけてくるキメラが何体もいるものだから、対処や再生が追い付かず、多量の出血を許してしまった。
(青い血の効果さえ薄い。本体を叩かなくては消耗する一方ですか)
ただの『傀儡』たるキメラは輪切りにしても、コブからまた形成され無尽蔵に湧いてくる。
恐らく研究所のどこかに養分が、つまり人間がいるのだろう。本体を前線に出さず、増殖できる『傀儡』で異物を対処する。合理的で効果的な戦略だ。
(しかし菌糸や『傀儡』を意のままにコントロールするには、近場にいなくてはいけない。分身を駆使して逃げてばかりいたあのアパタイトも本体は教会の中、菌床の内側にいたのですし。つまり奴もこの部屋にいる筈です。必ず、見付け出す)
効果が薄いといっても、青い血や毒霧による菌床のダメージは着実に溜まっている筈で、また増殖するに必要な養分にもいつか必ず底がつく。
何よりセレンの毒素による腐食によって削られた菌床内の傷は、物理的な損傷が激しくリカバリーができていない。チャクラムの傷が荒々しく残っているのがその証拠だ。
勝機はある。
『息子が傷付くのを見るのは心が痛む。反抗期も程々にしたらどうかな』
「息子? 心にもない事をおっしゃる」
どこからか語り掛けてくる、フルグライトの言葉を鼻で笑うセレン。
「私に父はおりません。製造者や教育係を親と呼ぶ方も、世の中にはいらっしゃるようですが……。私はその程度の縁で飼い慣らされるのは御免だ」
『寂しい事を言う。昔は呼んでくれていたじゃないか。私の事を、お父さんと』
びきり。
冷静さを保とうとしていたセレンの額に、青筋が浮かぶ。
「……静かにして頂きたい。虫唾が走る」
『残念な事に私は、君がそんなにも怒る理由がわからないんだ。父親失格だな』
「ですから私に父など」
『食事を与え言葉を教え、読み書き算術も教育し、衣食住も仕事も与えてきた。本やゲーム、映画といった娯楽だって』
その言葉は、真実だ。
フルグライトはセレンに、人間の子供と同じように教育を与え娯楽を体験させ、研究所の仕事を任せられる程の経験を積ませる事も厭わなかった。
その事実がまた、セレンの神経を逆撫でする。
『外に出す事はできなかったが、それ以外は何不自由なく暮らさせてきた。あのまま一緒にいてくれれば、軟禁の緩和もいずれは叶って……』
「貴方は」
低く固い声しか出せない。チャクラムを握る手が戦慄く。
力を込め過ぎた結果、爪が食い込み皮膚を突き破り、手の平から青い血が滴り落ちる。
「貴方は私に、何も与えちゃいませんよ。思い上がりも甚だしい。……あぁ、いえ一つ、私にくれた物がありましたね」
セレンは腰を低くし重心を落とし、青い血が滴るチャクラムを構えた。
フルグライトがどこに身を潜めているのかなど、関係ない。
増殖が追い付かない程に切り刻んで、菌床ごと消し去ってしまえばいい。
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