毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十九章 狂信者のカタリ

第391話 アングラな日常

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 ろくでもない親の元で、おれは産まれた。

 男にギャンブルに、酒にヤクに溺れる女が母だった。彼女は借金を繰り返しては夜逃げし、棲家を転々とする日々を日常としていた。
 ジプシー同然な生活の中、誰が父ともわからない餓鬼としてできたのがおれだった。
 貧民街スラムを拠点とし、ゴミ漁りに窃盗、詐欺、傷害、無銭飲食、不法侵入に器物損壊。その日の飯を確保する為に、おれは自然と犯罪に手を染めていた。
 一人でも食うに困る環境で、母がおれを手元に置いていたのは、気紛れか。奴隷が欲しかったからか。玩具が欲しかったからか。慰めが欲しかったからか。サンドバッグが欲しかったからか。
 どれも当て嵌まりそうだが、答えは知らん。おれが齢10になるかならない内に、母はどこからか貰ってきた病で倒れ、そのまま息をしなくなったからだ。医者にかかる金などなかったからな。
 一人になってもやる事は変わらん。ゴミを漁り、飯を盗み、大人から逃げ、その日その日を作業的に生き抜く日々。

 しかし知恵も体力のない餓鬼が大人を出し抜き続けられる訳もなく、おれはある日、どこぞのマフィアに捕まった。内臓を売るか労働力として売るか、話がされていたようだが、瘦せぎすだったうえにと知ったマフィアの連中は、おれに買い手はつかないと判断し、鉄砲玉になる事を命じてきた。
 飯と寝床は前よりマシになったが、押し付けられる仕事はロクなもんじゃない。所詮は肉壁、トカゲの尻尾、使い捨ての駒。

 されど他に生き抜く術を知らない俺は、現状に不満を持ちながらも飯の為と作業的に生きてきた。
 だが、ある日。
 運び屋を任された時、気が付いた。なんだ、あるじゃないか。もっと安全で、楽に金を稼げる方法が。
 ヤクを作って売ればいい。母も使っていたというのに、どうして思い付かなかったのやら。

 おれは早速、原料を拾ってきて独学でヤクを製造するようになった。
 原料となる芥子やダチュラなどその辺に野草として生えている。元手はゼロだ。
 それなりのモノが作れるようになったら、まずはボスに渡し売人に売って貰う。評判がよければおれの待遇もよくなり、個室を与えられた。製薬の機材も買い揃えてくれた。
 おれはそこでもっと出来のいいヤクを作り、ボスに渡し続けた。
 そして信頼と立場を得ていった後、更によいヤクが作れたからと、ボスへ試用を勧めた。

 そこからファミリーが堕ちるのは早かった。
 ボスが溺れたのを機に部下も溺れ、正常な判断力は消え去り、ただヤクを無心する奴隷と化した。が、ゾンビの如く群らがる廃人の面倒をみる気なぞ、おれにはさらさらない。
 おれは崩壊したファミリーの有り金を頂戴した後、さっさとずらかり拠点を移した。
 そうしてヤクを売っては各地を転々とし、ジプシー同然の生活を何年か過ごしていた折。

「これを作ったのは君か?」

 ある日、路地裏で男に声をかけられた。
 黒髪黒目の神経質そうな男だった。彼は俺が売り捌いていたヤクを持っていた。サツに突き出す気かと身構えたが、奴の目的はおれを脅す事じゃなかった。

「独学で作ったというのか! いい腕をしている! ……なぁ、うちで薬を作らないか?」

 奴の目的はおれの勧誘だった。
 《ウロボロス》とか言う、不老不死研究をしている馬鹿げた組織への加入。しかしまぁ、飯や寝床、サツの目を気にしなくていい生活環境の提供をしてくれるという話だったから、おれは受ける事にしたんだ。

「君には薬作り以外も行って貰う。その為には医師免許がある方が何かと都合がいい」

 が、加入して早々、おれは話に聞いていなかった事を命じられ、嫌な思いをしたものだ。
 医師免許国家試験など、面倒極まりなかった。

「君、歳は幾つだ?」
「知らん」

 黒髪黒目の神経質な男……。長いな。名前は確か……忘れた。そうだ、『室長』と呼ばれていたな。
 俺は室長に「偽造免許を作ればいい」と訴えたんだが、偽造は国連の目が厳しいとかで無理なんだと。

「細胞年齢的には15歳か。じゃあ飛び級をしたとして……。勉強期間は一年もあれば足りるか?」
「はぁ? 勉強?」

 免許偽造は難しいが学歴詐称は可能らしく、俺は室長が作り上げた学歴を元に国家試験を受験。医師免許や薬剤師免許その他、もろもろ取らされた。
 それからは研究室でひたすら薬作りと実験だ。《ウロボロス》は本気で不老不死実現を目指していたから、色々とやらされた。動物実験も人体実験も命令なら受けたが、ぶっちゃけ報酬と労力が釣り合っていない。
 クソ忙しい割に飯が美味くなる訳でもなし。予算が厳しいとか言う話を小耳に挟んだが、おれには関係ない。

 しかもウロボロス加入から数年が経った辺りで、新薬を開発する度に室長から小言が飛んで来るようになった。
 やれコストがかかる時間がかかる手間がかかる、再現性が低い云々。
 あまりにも五月蝿いからお望み通りの物を開発したら、益々機嫌が悪くなる始末。何がしたいんだあいつは、と他の連中に文句を垂れみれば、室長はおれに嫉妬をしているのだとか言われた。実力を認めている証拠だとか研究所ここでは名誉なこととか言っていたが、ScheiBeクソどうでegalもいい

 寝床が悪くなかったから居着いていたものの、そろそろバックレる頃合いかもしれん。
 そんな事を考え始めた直後、俺は室長に研究室へ呼び出され、妙な提案をされた。

「フリードリヒ、人造人間ホムンクルスを造ってみないか?」


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