毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二十章 真っ赤な嘘

第410話 飛べない翼

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「総員、離れろ!!」

 菌糸によって異形へと身体を変質させたガーネットを前に、マイクが叫ぶ。
 指示に反射的に従った部隊は、ソファに座っていた老夫婦役も含めガーネットと距離を取る。その間にもガーネットの『赤い翼の骨』は肥大化していき、氷面にできたひび割れの如く四方へ広がっていく。
 マイクの機関銃を預かっていた隊員……ビリーは下がってきたマイクへ機関銃を返しつつ、盛大に困惑した声をあげた。

「こ、こ、これどうするんですか!? マイク上官んんっ!!」
「撃てっ!! ともかく菌糸を片せ! 檻を壊されたら終わりだ! 菌糸は養分がなければ、いずれ増殖は止まる! お前も養分にされないよう、絶対に近寄るな!!」
「ひぇえええっ!!」

 家屋という名の檻を壊されてしまうと、養分の確保や菌床の拡大、菌糸の繭による逃走などを許してしまい、圧倒的に不利になる。
 一定の距離を保ちつつ、檻を破壊されないよう絶え間なく菌糸を銃撃で削り続ける。それが今できる最適解であった。

(捕えるのでもなく、処分するのでもなく、現状維持に努めこの場で可能な限り尋問をする! その為に作った檻だ!!)

 機関銃の連射音にかき消されないよう、マイクは声を張り上げる。

「ペガサス教団の目的や『秘密の楽園』、教祖の正体に本部の場所! これらに答えれば処分は見送ってやろう!!」
「黙れ黙れ黙れっ!! 石ころが私に指図をするな! 私は司祭だぞ!? 教祖様に選ばれた! 認められた! 『珊瑚サマ』に最も近い御使いだ!!」

 しかしガーネットは聞く耳を持たず金切り声をあげ、肥大化した赤い翼を振り回し周囲の破壊しにかかった。
 だが包囲している隊員達がそれを許さず、赤い翼の切先が隊員や家屋を貫く前に銃撃で穴を空け、削り、切り離し、赤い翼を小さくしていく。
 ギリと、ガーネットは奥歯を噛み締めた。

「本来ならば私と口を利くのも烏滸がましい石ころが、口汚い言葉を私にかけた挙句、下劣な罠を仕掛けるなど……! 楽に死ねると思うな!?」
「遺族を利用し世論を煽る。などという卑劣な手口を使おうとした奴に、下劣と言われる筋合いはない!」
「口答えをするな! 私は真実を公にしようとしただけだ! 悪魔が、ウミヘビがあの小娘を手にかけたのは事実だろうが!! 菌床の〈根〉として『珊瑚サマ』へ身を捧げた彼女の息の根を止めたのは、ウミヘビに他ならない! 折角、彼女を永遠の道へ導いたというのに! 邪魔をしたのはあの悪魔だろう!?」

 ふっ、と。唐突に、マイクが機関銃の引き金から指を離す。
 異変に気付いたビリーが横目でマイクを見て、おずおずと声をかけた。

「マ、マイク上官……?」
「……対話は、不可能と判断する」

 ビリーの声には答えず、マイクは淡々と、ガーネットの咆哮と銃撃音が飛び交う中、静かに言葉を紡ぐ。
 しかしビリーは気付いていた。マイクの周囲の空気が張り詰めている事に。ガスマスクで隠れている目に、怒りの炎が、灯った事に。

「作戦をBに移行! 毒ガスの散布及び毒弾、全弾使用許可! 対象Aを速やかに処分せよ!!」

 そして下される新たな指示。
 インカムを通し伝えられたそれを、隊員達は訓練通り迅速に、正確に実行する。家屋という名の檻の崩壊を恐れ、ある程度加減していた銃撃も出し惜しみをなくし、毒ガス入りの手榴弾も投擲。
 この場を檻から処刑場へと変貌させていく。

「深追いは禁物だ! 死ねば養分にされる! 自分の生存を最優先にしろ! 奴に補給をさせるな!!」

 状況が目まぐるしく変わる中でも決して白兵戦には持ち込ませず、マイクはガーネットの反撃を許さない。硬化した菌糸こと赤い翼も銃弾の嵐と爆撃、何より高濃度の毒ガスを浴びれば赤黒く変色し、死滅。
 このままガーネットの守りを削り切れば、処分が叶う。

(ここにウミヘビがいれば、もっと円滑に事が運んだのだろうが……。いない者を考えていても仕方がない!)

 マイクは機関銃からグレネードランチャーへ得物を持ち替え、それに装填された毒弾をガーネットへ撃ち込む為に構えを取る。
 狙うは弱点と聞く頭。暴れ狂うガーネットへ照準を合わせ、銃弾を弾き落とす赤い翼の隙間を縫っていく斜線を見極める為、神経を集中させる――
 ジジ、ジジジ……
 神経を張り詰めさせたその時、マイクは床に転がったままの浮遊型自動人形オートマタが、不自然な機械音を鳴らしている事に気が付いた。
 そして思い出す。オフィウクス・ラボから受けた報せを。

 ――ステージ6は菌糸の電気信号を用い電気を操り、電気系統の支配が可能、と目される――

「総員、退避ぃいいいっ!!」

 マイクが喉が張り裂けんばかりに叫んだ直後、
 ドォオオンッ!!
 浮遊型自動人形オートマタは爆発を引き起こし、周囲を炎と白煙で包み込んだ。
 浮遊型自動人形オートマタの中にある蓄電池が、過放電か何かによる過熱で発火、爆発したのだ。その衝撃は凄まじく、耳を劈く爆音が響き、熱気が肌を焼き、床を中心に家屋の一面へ大穴を空けてしまう。
 視界不良の中、マイクはガスマスクに搭載された熱感知センサーを頼りに、隊員達の脱出を誘導した。

「外に出ろ! 負傷者はいるか!? 脱出次第、点呼を取る! の元に集合しろ!」
「マ、マ、マイク上官! 被疑者の確保は……!?」
「檻から出られてしまったら無理だ! よって被害状況確認に切り替える! ただし! この混乱に乗じて仕掛けてくる可能性がある! 菌糸の警戒を怠るな!!」

 白煙立ち込める家屋から迅速に撤退していく部隊。
 無事に脱出した後も、引き続き死角からの攻撃や菌床の展開を警戒する。
 白煙と小火が収まった所で改めて家屋や周囲を捜索したものの、家屋に作られた大穴の下、地面に赤い菌糸の痕跡が残るのみで、ガーネットの姿は影も形もなく、逃走を許してしまった。

「く……っ! これだけ大掛かりに仕掛けても捕えられないとは! ぬかった……!」
「で、で、でもマイク上官! モーズ医師ではないとはっきりした証拠映像が撮れたのは、お手柄じゃないですか!?」
養分を消費した腹を空かせたステージ6が野放しになっているんだぞ!? 何も楽観視できん! ビリー! 近辺の村の警官に連絡を取り、直ちに厳戒態勢を敷かせろ! いつどこで菌床が発生しても即座に対処できるようにするんだ!!」
「はっ、はぃいいいっ!!」


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